2006年6月15日にベータ版としてサービスを開始した「イザ!」。産経新聞のニュースに加え、記者が執筆するブログ、ユーザーが執筆するブログなどが並列で並ぶ、一風変わったニュースサイトだ。これを運営する産経デジタルは、産経新聞のデジタル事業を引き受ける形で2005年11月1日に設立された。2006年7月4日、同社は「インターネット事業への取り組みについて」と題し、記者発表会を開催した。
発表会のなかで、阿部雅美産経デジタル社長はイザ!のコンセプトをWeb2.0になぞらえ、「新聞2.0」と標榜(ひょうぼう)。イザ!はユーザーに対して一方通行の情報提供ではなく、ユーザーからの情報発信を促し、双方向で情報を形成していくスタイルを選択。新聞社が責任を持って取材した情報と、ブログにかかれる意見や感想といった異なる性質の情報を並列に扱うことをコンセプトとしている。
具体的には、産経新聞グループ4紙のニュースをまとめて読めるほか、62人の現役記者がブログを執筆。一方、ユーザーも簡単な無料の登録で、自分のブログを作成できる。記者が執筆したニュースへのトラックバックとして記事を執筆してもよいし、自らブログでニュースを執筆することもできる。イザ!ではこれらの情報をすべて並列で掲載している。
さらに、誰でも自由に解説や説明を書き足していけるオンライン百科事典「Wikipedia」と同様のコンセプトを持つ「イザ語」と呼ぶ機能も備える。現在約5000語弱の用語を掲載しているという。イザ語にある用語が登場するニュース記事やブログには自動的にリンクが作成される。これによって、ユーザーは分からない用語のイザ語での解説を簡単に読むことができる。
既存の新聞サイトと一線を画す、新たな取り組みといえるが、産経新聞グループ全体でこうした取り組みを加速させているのには理由があるという。まず、新聞業界全体をみると発行部数は減少傾向にある。さらに、新聞社系のサイトも、アクセス数が伸び悩んでいるという。「こうしたなかで、いち早く新聞業界に訪れる大きな変化に対応すべく、新聞を進化させる必要がある。それが当社の掲げる新聞2.0であり、それを具現化したのがイザ!」だと阿部社長は語る。
ただし、新聞社としてWeb2.0の考え方を完全に取り入れられているわけではない。例えば、イザ語に新たな用語を追加できるのは記者だけ。ユーザーは記者が書いた解説を編集することはできない。ユーザーができるのは、新たな情報を追加するだけなのだ。つまり、イザ語は、ユーザーが自由に新規用語を追加したり、編集したりできる「Wikipedia」にはなりきれていない。「情報の信頼性を確保したい」(阿部社長)のが理由だという。
問題点も予想される。例えば、著作権侵害となる写真をブロガーが掲載してしまったり、差別用語などが書き込まれてしまった場合などだ。一般のWebサイトでも問題になるのに、新聞社系のサイトでこのような問題が起これば、致命傷となりかねない。これに対して、阿部社長は「そういう事態は想定している。ただ、我々は事前の検閲はしない。すべて事後対応することに決めている」とし、「まだ一件もそうした事態は起きていない」という。
新聞社系のサイトとしては、挑戦的ともいえるイザ!は、8月中に正式なサービスを開始する予定。まずは「ブロガーを1万人抱えるのが目標」(阿部社長)という。