全世界が注目した今年のWWDCは、一般大衆を唸らすような新製品の発表こそなかったが、開発者に向けたイベントとしては近年になく充実した内容だった。現地で取材に臨んだITジャーナリストの林信行氏に、今回のWWDCを前編、後編の2回に分けて徹底総括してもらった。
「WWDC(世界開発者会議) 2014」の基調講演はもうご覧になっただろうか。大衆向けのメディアやコンシューマーによるブログの中には、勝手に新型iPhoneやiWatch発表の噂を広げた揚げ句、その発表がなかったからと不満を書き立てるところもあったが、ITの世界にいるエンジニアやIT業界にいる経営者にとっては、今後、数年間の社運を左右する必見の基調講演になっていたと思う。
アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)は、今回の発表を「(2008年の)App Store発表以来、最大の発表」だと言っていたが、これは決して大げさではないだろう。
過去最大規模の開発者ゴールドラッシュを仕掛けてきたアップル
6年前、2008年のApp Store発表で何が起きたか覚えているだろうか。急激に増えたiPhoneユーザーがこぞってアプリを買い始めたことで「21世紀のゴールドラッシュ」と言われるソフトウエア産業の黄金時代がやってきて、世界中にiPhone長者が誕生した。当時、たった1人でつくったアプリが大成功し、今ではかなりの規模の会社に成長しているところも少なくない。
7月9日でちょうど6年目を迎えるApp Storeだが、120万本以上のアプリのリリースと750億回のダウンロードを経た今でも世界最大のソフトウエア市場として君臨しており、毎週、このアプリを利用するユーザーは3億人いるという。
その後、アップルは人気のiPhoneやiPadと連携するハードウエアを認定する「MFi(Made for iPhone)」と呼ばれるライセンスプログラムをスタートさせ、実はiOS機器のアクセサリーや周辺機器の世界でもちょっとしたゴールドラッシュが起きた。
これらを第1、第2のゴールドラッシュとすると、今回のWWDC 2014の発表は、まさにiOS第3のゴールドラッシュの発表に他ならない。
しかも、これまでのように何か1個の仕掛けを施してくるのではなく、1度に同時に複数のゴールドラッシュを仕掛けてきている。