パブリッククラウドを利用することで得られる大きなメリットの一つに、「運用負担の軽減」がある。サーバーやストレージといったハードウエアはサービス事業者の所有物で、それらの購入からセッティング、OSへのパッチ適用といったメンテナンスまで、サービス事業者の責任で実施する。サービスを利用する側の負担は軽減する。
だからといって、運用負担がなくなるわけではない。特に注意が必要なのがシステムの監視である(図1)。「従来の業務システムと同じレベルを確保するには、サービス事業者が提供する標準の監視機能だけでは不十分」(リクルート 戸建・流通・賃貸カンパニー 事業推進部 事業開発グループ 矢本俊之氏)という声が少なくなかった。この問題に直面して乗り切った、オリンパスメモリーワークスとリクルートの工夫を紹介する。
また、運用性と関連し、パブリッククラウドを利用する際の懸念事項に挙げられる「セキュリティ」については、先行ユーザーもその評価に苦心しているようだ。パソナグループの高橋智則氏(情報システム企画部 マネージャー)は、「クラウドにおけるセキュリティの最大の課題は、安全性の評価がまだ定まっていないこと」と指摘する。この問題に対するパソナグループの工夫を、運用性の後に取り上げる。
クラウド上にエージェントを導入
監視機能不足に対する対策は、IaaSかPaaSかで異なってくる。最初は、IaaSを利用したオリンパスメモリーワークスのケースである。
同社は2010年10月、デジタルカメラの活用を促すことを狙った写真共有コミュニティーサイト「ib on the net」を立ち上げた。利用したのは、仮想マシンを利用できるAmazon Web Services(AWS)の「Elastic Computing Cloud(EC2)」である。このコミュニティーサイトは「ホリデーシーズンなど季節要因でアクセス数は大きく変わるので、負荷が上がったときにはサーバー数を増やして処理性能を高め、負荷が下がればコストを抑えるためにサーバー数を減らしたかった」(オリンパスメモリーワークス ビジネスオペレーション部 部長 林寿一氏)。
ところがAWSの運用監視機能「CloudWatch」には足りない面があった。各サーバーのCPU使用率などは監視できたが、仮想マシン上に複数のアプリケーションを動作させたとき、アプリケーションごとのCPU使用率やメモリーの使用量は取得できない。
また、特定のサーバー間のネットワーク使用率なども、CloudWatchでは分からない。CPU使用率が低くても、「特定のWeb/APサーバーとDBサーバー間のネットワークが混んで処理性能が低下する場合があり、そこまで監視したかった。ところがAWSのCloudWatchでは、各サーバーがネットワークでやり取りした総バイト数しか分からなかった」と、システム構築を担当したアクセンチュアの福垣内孝造氏(テクノロジーコンサルティング本部 通信・ハイテクSIグループ プリンシパル)はいう。
そこでオリンパスメモリーワークスの林氏らは、従来と同様の運用監視の仕組みをクラウド上に作り込むことにした。監視ツールとして、既存のオープンソースソフトを選定。このツールのエージェントソフトを各仮想マシンで動作させて必要な情報を収集し、システムを監視している(図2)。