機能重視の要件定義から、利用者の使い勝手を重視した要件定義へ――。システムの使い勝手を高める取り組みを、ITベンダー各社も強化している。利用者のための要件を取り込めるよう、上流工程の見直しが始まっている。背景には、要求定義精度の向上で、「必要な機能は実現できて当たり前」といったことがある。
機能重視の画面は使いにくい
住友信託銀行は、「営業店統合フロントシステム i-Ships」の刷新プロジェクトにおいて、使い勝手を考慮した要件定義を実施した(関連記事)。同プロジェクトにも参画したソシオメディアの上野学チーフ・デザインオフィサーは、「技術者が開発した画面はそもそも機能重視で利用者に使いにくい」と指摘する。
例えば、マスターデータのメンテナンス処理を考える際、技術者は最初の画面に「新規作成」「参照」「更新」「削除」の四つのボタンを配置するという(図1)。機能要件が「マスターに対してCRUD(Create=新規作成、Read=参照、Update=更新、Delete=削除)を実行できること」だからだ。
これを利用者の使い勝手を重視して考えると、最初の画面は検索の画面になる。この仕組みであれば、利用者の手元にあるデータが、すでに登録されているかをまず確認できる。そこで未登録であれば新規作成に、登録済み出れば、そのデータに対して更新したり削除したりといった処理を実行すればよい。
「利用者は、やるべきことがシステムへの新規登録なのか更新なのかを迷いたくはない。データに一番早くたどり着ける方法を最初に用意することが利用者目線にかなう」と上野氏は言う。
システムの使い勝手を高める取り組みは、ITベンダー各社も強化している(表)。例えば、日立製作所は2009年から、上流で使い勝手を高めるための手法を体系化し、これまでに損害保険ジャパンや京都信用金庫など15のプロジェクトに適用した。
NTTデータも2010年5月に、富国生命保険における使い勝手向上プロジェクトを実施している。富士通は現在、子会社の富士通デザインと連携して、使い勝手の向上を最優先に自社の情報システムの再開発に取り組んでいる。
ITベンダーが使い勝手の向上に注目する理由は大きく三つある。一つは、ここ数年、経営層の要望をシステムの機能にどう反映するかを各社が体系化できてきたために、使い勝手の向上が他社との差異化要因になったことだ。
例えばNECやTIS、野村総合研究所などは、使い勝手向上策の手法の一つであるプロトタイピングを要件定義で使う。その際に、画面や画面遷移が機能重視になっていないかや、実際の業務の流れに沿っているかにまで踏み込んで確認するようになっている。