伊藤 直也 氏
はてな 最高技術責任者
伊藤 直也 氏

 Webプログラマは,Webシステムを設計し,JavaやPerl,PHPなどのプログラミング言語を使って,設計通りに動くプログラムを開発する仕事である。GoogleやAmazonのような多数のユーザーが利用する大規模なものから,企業の部署で利用する小さなものまで,開発するシステムの規模は様々。だが,開発の最先端でプログラムを生み出す仕事というのは共通している。


仕事の考え方は「受託」と「自社」で異なる

 はてなは「はてなダイアリー」「はてなブックマーク」などのWebサービスを自社で開発,運用する企業である。このはてなで,最高技術責任者(CTO)として開発部門を率いつつ,自らもWebプログラマとしてはてなのシステムを開発しているのが伊藤 直也氏だ。

 Webプログラマの仕事は,「受託開発」と「自社開発」でかなり異なる。一般に,顧客の要望を受けてサービスを作る開発形態を「受託開発」や「システムインテグレーション(SI)」という。顧客の要望通りに動作するシステムを開発し,その対価として開発費を得る。

 これに対して,誰かの要望ではなく,自社で使うサービスを開発する場合を「自社開発」と呼ぶ。「Webプログラマになると一言でいっても,その仕事の考え方は,受託開発なのか,自社開発なのかでだいぶ違います。まず,そこをきちんと区別してほしい」(伊藤氏)。

 このどちらに魅力を感じるかについて,伊藤氏は「誰かを喜ばせることだけで100%満足できるか,それとも自分が作りたいものがあって,それで自己顕示したい欲求かあるか」が分かれ目になると考えている。現在のはてなでの開発は,基本的には自社開発のみ。過去には受託開発をしたこともあったが,現在はしていない。

いいものを作ればネットで直接ほめられる

 自社開発の場合,公開したサービスのインターネットでの評価は絶対だ。「いいものを作ればほめられます。逆に変なものを作るとバッシングされます。反応がダイレクトに返ってくることが一番面白い」(伊藤氏)。

 その例として伊藤氏が挙げてくれたのが,ソーシャルブックマーク・サービスの「はてなブックマーク」である。2005年8月に公開したこのサービスを,2008年11月にリニューアルした狙いの一つはユーザーインタフェースの改善である。新版のリリース後,「便利になった」という声がユーザーから届いた。その数はおよそ1000件。「作っている側からすると最上級のほめ言葉。とにかくうれしい」(伊藤氏)。

 もちろん厳しい指摘もある。これらをもとに改善を繰り返して,サービスをより良いものに育てていく。「フィードバックは,ものごとを良くするためのモチベーションになります。はてなに入る人は,お金や技術力が目的ではなく,フィードバックがほしかったり,作ったものが役に立っている場面を見たくて来ているように思います」(伊藤氏)。

複雑な技術を駆使するためチームじゃないと戦えない

 伊藤氏の仕事の流れは,「ネタ」を試作し,チームを組んで開発するというものだ。具体的な仕事の内容を詳しく見てみよう。

 自社開発専業のはてなでは,開発はネタ探しから始まる。ここでいう「ネタ」とは,ユーザーに受け入れられるアイディアのこと。「今のネットに足りない何かの場合もあるし,ビジネスモデル込みの場合もあります」(伊藤氏)。

 思いついたネタは,企画としてまとめる。企画は,頭の中だけで組み立てることもあるし,企画書として書く場合もある。続いてプロトタイプ(試作)を開発する。作ったプロトタイプは,自ら試したり,人に見せたりして,その企画が本当に面白いかどうかを判断する材料として利用する。

 こうして“いけそう”と判断した場合,数名のチームを組んで本サービスの開発に入る。チームによる開発のメリットは,規模が大きいものを短期間で開発できるだけではない。作る人間と評価する人間を分けることで,品質や妥協点を高く保てる。また,ユーザーインタフェースが得意なエンジニア,バックエンドで高速に動作する処理を書くのが得意なエンジニアというように,得意分野に応じた開発の分担もできる。

 伊藤氏はチーム開発が主流になってきた理由として,Webアプリケーションが複雑になってきたことと,Webの表現手段が充実してユーザーがそれに慣れてきたことを挙げた。「ユーザーの目は肥えてきています。Webでも最初から“しっかり作った”と感じてもらえるサービスでないと受け入れてもらえない」(伊藤氏)という認識で,伊藤氏ははてなの開発体制をチーム開発に変えてきた。

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