この日に訪れたのはGoogleのサンフランシスコ・オフィス(以下GoogleSF)。昨日訪れたDropboxに近い,サンフランシスコ市内の東のほうにある。本社とは違って,人の多い都会の中のオフィスである。宿をMountain Viewのゲストハウスからサンフランシスコ市内のホテルに宿を移した僕たちは,GoogleSFまでは地下鉄で3駅ほどの場所にいた。
ラーメン屋の偶然がきっかけで
GoogleSFを訪れるきっかけは友人の偶然だった。同じアルバイトの里田君が友人と,京都のあるラーメン屋で技術的な会話をしていたところ,偶然居合わせたGoogleSFに勤務する社員に「あなたたちはひょっとしてエンジニアじゃない?」と声をかけられ,名刺交換をした。この様子の詳細は里田君のブログにまとまっている。
この偶然のおかげで,僕たちはGoogleSFを訪ねることができた。このとき訪れる仲間は4人。里田君と,このセッションへの参加を募ったときに声をかけてくれた関西のある夫妻,そして僕である。英語の不安はあるものの,これまでに比べ少人数で,より深いコミュニケーションができることを期待できた。
オフィスの中へ
いざ地下鉄で3駅,GoogleSFはベイブリッジの見える海沿いのオフィスビルの中にあった。
Googleplexと同様に受付で訪問相手の名前を入力する。4人ぶんの入力を済ませ,印刷された名札をシャツに貼ったそのタイミングで,訪問相手であるNaomi Bilodeau氏が受付まで迎えに来てくれていた。おそらく訪問者が名前を入力すると,本人へ通知される仕組みがあるのだろう。
Naomi氏に連れられて受付の奥へ進み,まずはオフィスの中を案内してもらった。Googleplexを訪れたときはスタッフの作業空間を見学することができなかったが,こちらではその様子を見ることができた。写真撮影はやはりNGである。表札を掲げたガラス張りの個室の中でディスプレイに向かっていたり,オープンスペースをパーティションで区切ったその中で作業をしたりする姿が見えた。
遊び道具もあった。バランスボールやビリヤード台,マッサージ機,階を移動するための滑り台などなど。滑り台を試してみると,思いのほか勾配が強く,速くて怖かった。これらの遊び心のあるオフィスを見ながら,こんな景色を世界に広めたのはGoogleであることを思い出す。Googleplexに比べて小さな空間とはいえ,ここがGoogleであることには変わりなかった。
英語を話そうとする意志
ちょうどお昼どきということもあり,僕たちは社内のレストランへ案内された。Googleplexと変わらずシェフが見える前で欲しい料理をよそっていくシステムは同じ。初めてのときよりも図々しく飲食物を集めていった。
食べる場所は二つの選択肢があった。一つは室内で,もう一つはビルのテラスである。Naomiから「どちらで食べたい?」と聞かれ,僕たちは「どちらでも良い」と答えた。返すNaomiは「はっきり希望を言いなさいよ」と。僕たちの日本人らしさが強調された。どうせならと思い,外で食べたいと伝えた。ベイエリアの真昼の心地よい太陽の下でランチをしながら,会話をする。
さっきまでは,歩きながら説明を聞くような,ほぼ一方向な会話だった。このランチの場ではついに双方向の話を交わすことになった。
僕はおどおどしていた。Naomiがなぜ日本に来ていたのかという簡単な質問をするのにも,僕の発音はたどたどしく,二度,三度と言い直して,やっと伝えられるくらいだった。それでもあきらめず,彼女がGoogleでどういう仕事をしているのか,Google社員の働き方,GoogleplexとGoogleSFを比べてどうかといったGoogleについて聞きたかったことをぶつけていった。
なお,彼女が日本に抱いている印象は「電車の線がいっぱいあって,迷うのよ」というものであった(笑)。たしかに。
そして伝える側へ
ランチを終えて,オープンスペースのソファで,僕のアルバイト先であるはてなのサービスを紹介することになった。
自分のMacBookを取り出して無線LANを検索すればすぐに「GoogleWiFi」が見つかる。認証はGmailなどで利用しているGoogleのアカウント。ほぼ誰でもインターネットが使える環境である。回線速度もホテルやカフェより高速だ。「ここでインターネットは使えますか?」なんてやり取りを必要としないまま,僕たちは自然に,アルバイト先であるはてなのページ(http://www.hatena.ne.jp/)を開いていた。
説明をしていく端々で,これはどのAPIを使っているのか,位置情報はGPSを使っているのか,AmazonのAPIってどんな風になっているのかとアクティブに質問をしてくる。旅の前に何度か聞いていた,技術者同士は技術用語で,コードで会話するという話がこのときに体感でわかった。先ほどまでの会話よりも濃密で面白い話が進んでいく。興味のあるものには突っ込んだ質問をしてくれる。面白いものは正直に面白いと言ってくれるのがなによりもうれしい。
この場面は単なる外国人との会話ではなく,Googleの人から聞く興味深い話でもなく,エンジニア同士として会話ができた。1時間以上話していたはずなのだが,あっという間に時間が過ぎていく感じがした。
中学生レベルの英語でも
最後は受付へ彼女が送ってくれて,握手を交わしてGoogleSFをあとにした。帰る前に飲み物のゴミをミニキッチンへ持って行ったときに申し訳なく笑いながら「もう一本もらってもいいですか?」という発言はうまく伝わって,「気にせず取っていいわよ」と笑われてしまったのは一番上手に日常的な英会話をした心地になった瞬間であった。
おそらく今回の旅で最も英語を使い,最も非日常的な体験をした訪問だった。お礼のメールもつたなさ全開の英文で,彼女がちゃんと読めたかずっと心配である。
僕の中学生レベルの英語でも,単語さえ知っていれば,説明することはなんとかできた。ちょっとした雑談なら,自分から挑戦できるようになった。なによりも,僕の話そうとする意志が相手に伝われば,コミュニケーションできることに気付いた。僕は,言語が外国人とのコミュニケーションの壁じゃないことを知った。同時に,もう少し英語を流ちょうに話せるようになりたいと,自然に思った。