ビデオゲームのキャラの死と、クリエイター自身の死の体験の二つが交錯する煉獄「Continue?9876543210」
2014年書き忘れてた記事お蔵だしその1
プレイヤーの操作するキャラクターがゲームに敗れた際に「continue?」の表示が現れるのはアーケードゲームが主で、そこからさらに課金させるためプレイヤーに続きを遊びたいかどうか10秒間の猶予を与える仕掛けだ。しかしこの10秒間の中には完全な敗北から、さらには死といったイメージを受け入れるかどうかということさえ暗に感じさせてきた。それはドラマなどでよくある臨終を迎える人間の心拍数が低下していくという紋切り型のシーンと繋がるからかもわからない。
ビデオゲーム上の死のイメージを「ゼルダの伝説」をはじめとしたアクションRPGの構造にて表現した「スキタイのムスメ」に影響を受けたという本作「Continue?9876543210」はそうしたアーケードゲームの構造での死からスタートしている。
ところがこれはビデオゲームのプレイアブルキャラの死をメタフィクショナルに眺めたものというだけではなく、そもそものクリエイター自身が死にかけた体験というのまで同時に反映されているというプライベートの部分まで混ざりこんでいる。ジャンルの俯瞰だけではなく自らの感覚さえビデオゲームとして俯瞰してみせているという二重性を孕んでいる異形の作品なのだ。
本作はかなり高いレイヤーからビデオゲームを眺めるスタンスを取ってる。単なるピクセルアートやボクセルアートを使い、”過去のテイストを今に解釈する”なんてデザインはもはやど素人ギリギリのアマチュアデザイナーでも誰でもやっていることなのだが本作はもう少し上に俯瞰したレベルで捉える。
それはコマンド・プロンプトのような画面のポーズ画面から、バグやグリッチをも取り込んだ表現。気取って「それは死や混乱を象徴させる」こう書きそうになってやめとくが、この高い視座はフィル・フィッシュの「FEZ」以降のものであると思う。
ビデオゲームのアート・デザイン解釈というのは様々であるが、過去の2Dのビデオゲームの持つ様々な構造や構成を別の文脈として、今の環境や水準から文脈を書き換えたりしていく。90年代では「ゲームのルールという楔から離れる。ゲームメカニクスというものから離れてなおゲームは成立するか?」という可能性が重要であり、飯田和敏や飯野健治、そして須田剛一などの作品が主にそれをやっていたし、未だアートゲームと言えば大抵は線形の物語やゲームメカニックというものから遠ざかったものだ。
しかし「FEZ」や「スキタイのムスメ」のカピバラゲームス以降を考えるともはやビデオゲームをある種のアートとして切り取るその手つきは間違いなく変わっていっていると見える。そこにはゲームメカニックというものまでひっくるめた上で文脈を書き換えるのが現在ならではのゲームのアート解釈ではないか?と見ている。
「Continue?9876543210」が優れている点は膨大な死や走馬燈のようなイメージを、インタラクティブを第一としたメディアアート的なレベルに終わりそうなギリギリのところでゲームメカニックというものに重ね、別の文脈へと変えようとしてることだ。
「リンクの冒険」まがいの横スクロール画面での敵との決闘から「Diablo」みたいなハックアンドスラッシュ、果てはインベーダーまがいの交戦というセクションのほかに、自身を消そうとする雷から身を守るためにタイムリミットのあるなかで先に進む壁を開けるか、それともシェルターを構築するかで完全な死を遅延させるのに要求される奇妙な戦略性。そこには制作者のJason odaの濃厚な過去のビデオゲーム体験から培われているアート&デザインの視座、そして現実に死にかけたという体験それぞれが禍々しく混ざり合っている。
Jason odaはその他にもブロステップの雄skrillexの「Scary Monsters And Nice Sprites」などをフィーチャーしたタイトルもそのまま「skrillex Quest」をブラウザで展開している。これはの元型となっている作品で、やはり「ゼルダ」をイメージのソースにして、膨大なグリッチが覆う。そこにはダブステップやブロステップ(厳密には一緒にしちゃだめだけど)の音楽や音響と韻を踏んだ、グリッチにまみれた画面の中の冒険という異形のゲームを提示している。
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