「偉大なる大失敗作」シェンムー・現代の「GTAシリーズ」「マスエフェクト」「スカイリム」などからの再評価
日本のビデオゲームがその進化の中で映像表現のリアリティを極限まで追求しようとし、そして映画にさえ近づこうとしていた1999年くらいから2001年くらいのコンシューマーゲームの界隈を思い返してみると、あれはちょっとおかしくなってく時代だったなと思う。
というのも当時の前例のないビッグプロジェクト関連のことで、フルCG映画「ファイナルファンタジー」が157億で「シェンムー」に70億という製作費からでも感じられることだが、「リアルな現実空間を作る」「CGの表現を突き詰める」「ゲームと映画の融合」という何か未知の領域に足を踏み込もうとするコンセプトの情熱と、実際のゲームの出来との乖離によってとんでもない失敗作と化し、莫大な赤字によって制作会社がホントに傾きかけるというちょっとしたターニングポイントになっている仕事を残していたからだ。
しかし今でこそ海外の「オブリビオン」「スカイリム」などのベセスダソフトワークス作品や「マスエフェクト」「ドラゴンズエイジ」のバイオウェア作品などなど仮想現実の構築から映画的表現とゲームシステムをシームレスにする手法など珍しくはないなか、ふと「シェンムー」が切り開こうとしたゲームの未来とはこういうものだったのかもしれないな、と現在の海外ゲームの多くに触れながらも思うのだ。
本当の評価とはリアルタイムでは出来ないもので、時を経てこそ見えてくる。こうして「第一章 横須賀」発売から暦が一周した今振り返ってこそ「シェンムー」が切り開いただろう未来というものも見えてくるというものだ。
というわけで「スカイリム」や「マスエフェクト」などなどからオープンワールド最新作「スリーピングドッグス」などなどをもとにして振り返る「偉大なる大失敗作 シェンムー」再評価のエントリです!70億の大作らしくエントリ自体が動画満載の大作です。
しかしシェンムーほどそのオンタイムでの評価が芳しくないゲームもないだろう。ちょっとネットで当時の評価を簡単に拾ってきても以下の通りだ。
ざっと見渡してもやはり日本の現実の街を写実的に描いた点は評価されても異様にやれることが少ないという点への不満は共通していて、妙に目立つのは「たけしの挑戦状」が変な形で再評価されているというもので、文章の中にプロジェクトの規模に対しての脱力や失笑というのが表れている。
とはいえ、こうして発売から10数年経った今振り返ってみて、シェンムーが現代のHDゲームの流れをかなりの部分先行しているゲームデザインを行っていたことは確かであり、では何を早い段階で先行していたのか?ということの、現代のゲームの例を挙げつつの各要素に分けての再評価をしてみようと思う。
元々のシェンムーのあらまし
今のゲームのようにビッグバジェットからソーシャルゲームに至るまでの拡散が無かった頃、90年代後期ごろの当時はまだ日本のコンシューマーゲームの覇権争いの時代で、市場を握ろうとするためのAAAタイトルと言えば決まってRPGだった。
そういう時勢からなのか、もともと別のジャンルなのになぜかRPG化してしまうという不思議な事象が多々見られ、大きなところではRPGの最大手スクウェアと任天堂が組んだ「スーパーマリオRPG」があるが、サムライスピリッツのRPG、果てはレーシングゲームのRPG「レーシングラグーン」などと際限がなかった。コールオブデューティの新作が発売されれば1千万本を世界で売り上げる今からすれば「何故かFPSにしてしまう」くらいの違和感があったのかも分からない。マリオFPS。それはただのスーパースコープである。
もうPSやSSが出てきたあたりから、演出力の上昇によって映画に近づこうとする一方で単なるスコアアタックやステージクリア的な価値のままのコンシューマーゲームというのが成立し辛くなっているのもあるのか、据え置きでやるゲームというのは世界観やストーリーテリングのディテールを詰めたものが要求されたのかもしれない。当時のセガサターンでも例外なく、叙事的な世界観をシューティングに落とし込んだ「パンツァードラグーン」も3作目に「AZEL」としてRPGとなる。
初期の「シェンムー」はサターンでバーチャファイターの番外編として開発されていたとのことで、これもまた人気シリーズのRPG化の一端であったのだと思う。当初の規模を想像するに「AZEL」くらいの規模のものでもっとシナリオを追いやすい、シンプルなものだったのだろう。以下の動画を観れば作品の大筋はサターンの次点でほぼ固まっており、たぶん横須賀は3時間で出るくらいのものだったと思う。
しかしシェンムーがサターンにて単なるバーチャファイター外伝RPGにならなかったのも、当時次世代ハードへ移行するにあたってのこうした時勢が関係してくる。
「シェンムーもドリームキャストへ移行される。当時はセガのハードがソニー・コンピュータエンタテインメントのプレイステーションに押されてだんだん劣勢になりつつあり、これを覆すキラータイトルとして期待が寄せられ、セガハード系のゲーム雑誌を中心に大々的に取り上げられた。」
しかしドリームキャストに移行するにあたって、サターンの時点でもかなりのディテールで現実の風景が描かれていたのがわかるのだが、それがさらに人物から天気に至るまでに加速することになった、と見える。制作の経歴を振り返るにシェンムーの評価の共通認識である「現実の世界を精微にシミュレートしたもの」というのはどうも副産物であったようで、「シェンムー2」のラストの展開に驚いたという意見も多く見られるがどうもあれが既定路線、サターン時代からの本道だったようだ。
ということはシェンムーがこうして伝説になったのは、マシンスペックが上昇したことで半ば思わぬ形でディテールを詰められる機会を得られたということで、普通のRPGならば確実に記号として無視してしまう街やそこで生きる人々さえも一人づつ描きこみ、現実の世界の光景さえも再現することができるようになったという極めて副次的なものが大きいのではないか?と映り、それはつまり大元のシナリオやゲームデザインやレベルデザインなどの設定改編をせずにドラクエで言うところの「村人A」や町、「カジノ」などのディテールを上昇させることに力をそそいでいたのではないかと思う。
が、それが結果的にジャンルで括れない「シェンムー」の特色となり、現在のオープンワールドや海外RPGなどの流れを先駆けていたのだと見えるのだ。以下が今からシェンムーを振り返った時に先駆けていたという点になる。
Ⅰ・現実世界を写実的に再現した光景
↓この後に「GTA4」
「シェンムー」の影響ということでは大ヒットシリーズに「GTAⅢ」があることは各所で言われており、当時はまだオープンワールドという呼称が無く精微に作られた現実の光景というのが珍しく、シェンムーの時点では精微に描くまでであり、ほとんどゲームデザインに生かし切れてなかったし今見るとGTAⅢのオープンワールド前夜の世界、というのを強く感じる。
↓この後に「スカイリム」
また現実らしい空間を感じさせる仕様として「マジック・ウェザー」という時間による天候の変化の表現の導入など、上の動画の英語ナレーションにあるような「異なるプレイヤーによって異なる体験となり、同じ体験は無い」というコンセプトも、実際のゲームはそんな環境で自由にやろうとしても100人中96人はガチャガチャばかりをやるという同じ体験に陥ってしまうことが多々だが、現在のオープンワールドRPG最大手「スカイリム」などベセスダソフトワークスのRPGこそがそうした「同じ体験は無い」のコンセプトを完遂しているかに映る。
Ⅱ・フルボイスによる、ムービーではないリアルタイムでの会話の応酬
この後に↓「マスエフェクト2」など海外RPG
シェンムーのコンセプトの「現実に出来ることをゲームでも」ということの大きなものにこの「どんな人と話しかけてもフルボイスで会話の応酬をする」というのがある。
現在でも通常のRPGならばメインストーリーに関わらない街のNPCとの会話などは字幕・ウィンドウ内の文章で済ませることが多々であるが、どうしてもそのおかげでメインストーリー以外の街と言った場の印象が残らなくなってしまうという経験は誰でもあるだろう。シェンムーはメインストーリーは正直大したことはないんだけど(ストーリーだけ抽出した「シェンムー・ザ・ムービー」を見ればどれほどのものかわかるだろう)、やってみて奇妙なくらいに印象深く残る点にこの仕様があるのは大きい。世界観への没入が段違いだからだ。たとえどんな人と話しても道を聞くかギャンブルかバイトくらいしか話題が無くとも。(上の動画はさすがにヒロインとなのでめっちゃ喋ってるが)
この会話の応酬というのを非常に重要に発展させたのが先述の「スカイリム」に加え「マスエフェクト」や「ウィッチャー2」など海外RPGであり、この仕様によって物語性や世界観への没入を高め、会話次第で物語の進路なども変わる非常に重要なものとなっている。
Ⅲ・実際に手にとって触れ、調べることのできるディテール
↓この後に「LAノワール」 「ヘビーレイン」など
シェンムーの世界への没入感を支えた仕様に「どんな物でも手にとって調べる」というのも初見でビックリした思い出がある。ゲーム開始直後に自分の部屋の電気をつける・消す、家の引き出しのものを漁るなどなど現実ではなんでもないことをゲームで行うことの微妙な感動はなんでも新技術に触れた感動と同じだと思うが、その没入感の一方でゲーム的にそれはあまり機能しきれなかったという印象も強い。
こちらの仕様をもっとも生かす分野はやはり難事件に関わるアドベンチャーであり、それを受け継いだのが「LAノワール」や「ヘビーレイン」だろう。本作らがシェンムーの持っていたポテンシャルを発展させたものとして正解を出しているかに見える。ただもっとも、まだ完成系とは言い難い部分があるのも否定できないが。
Ⅳ・ムービーを正当化するQTE(クイック・タイマー・イベント)
さて「シェンムー」で最も有名な仕様で、表立って数多くのゲームの演出に使われ、また現在「最も邪魔な仕様」のやり玉にも上げられるQuick time ebentことQTEだが、当初から昔の「LDゲーム」じゃねーかという批評が多数だったし、以上に様々な世界への没入を示す仕様があるシェンムーではあるがこれは現在「ムービー垂れ流しの正当化」みたいに使われることが多数だ。
↑大昔のLDゲームの一つ「タイムギャル」。昔から映像に没入させるための仕様。
確かに最近の「バイオハザード6」や「アスラズラース」などなど作ったムービーゲームであることをかなり正当化したような、本当にLDゲームなるレベルまで後退しているようなゲームが一部あるのは否定できないし、近年のバッシングは分かる。がしかし、これもゲームクリエイトの演出次第ではシェンムーのコンセプト的な強い没入感を生みだすことも出来ている作品も見られ、使い方次第ではないかとも思う。
↓この後に「ゴッド・オブ・ウォー3」など
このように映画的な演出をゲームで味わえるような、より没入感を意識した作品は少なからずあるのでけっして全てが悪いとも思えないが、現状では安易に作り置いたムービーを正当化するかのような演出のゲームが多いのも確かだ。
Ⅴ・香港カンフー映画をゲームに実現した先駆的な作品
↓この後に「スリーピング・ドッグス」
現代のゲームの完成度というのはかなりのレベル、その映像だけでなく没入感、脚本など映画に隣接するレベルであるのは知ってのとおりだろうが、あらゆる範囲の西部劇の実現「レッド・デッド・リデンプション」や先述のスタートレックなどスペースオペラの実現「マスエフェクト」シリーズ、インディ・ジョーンズの実現的な「アンチャーテッド」などなど、かつてのジャンル映画の再現性というレベルにまで及んでおり、もはや「ムービーがあれば映画的」というのは評価は化石と化していることは承知のことだろう。
そんな現代のゲームのジャンル映画の再現性って意味でも「シェンムー」は「香港カンフー映画を再現する」って意味では早かった、と言えると思う。もともとのバーチャファイター自体が中国拳法を闘わせるカンフー映画の再現的な格闘ゲームであったが、 「シェンムー」というのはよりその面を掘り下げたものであると思う。なにやら分からないうちに進むストーリー、だけど魅せるところは70人抜きで魅せる格闘シーンやアクションシーンなどなど・・・シェンムーを「70億かけてこんなB級ストーリー(笑)」って笑ってるのは物を知らねえんだよ!元々カンフー映画のほとんどはB級なんだよ!「燃えよドラゴン」のあらすじ自体を深呼吸して見直してみろ!
ジャンル映画の一つの流れとして香港カンフー映画・香港ノワールというのがあり、それはゲーム界に先述の「バーチャファイター」のみならず「マックス・ペイン」など多大な影響を与え続けていながらも、それを再現するのは「シェンムー」の後は「スリーピング・ドッグス」まで待たなければならなかった。
「シェンムー」の再評価と、そして鈴木裕の再評価
以上のシェンムーが先駆的であった部分を掘り下げると、それは現代のゲームがより先鋭的に掘り下げている、単なる映像の美しさ以上のよりゲームへ没入するための仕様であったように見える。そしてそれこそが日本以上に海外が追い求めている点であり、評価している点なのだと思うのだ。
思えば総監督の鈴木裕というのはその経歴を紐解いて見ても、作中のゲーセンで遊べるように「アウトラン」の頃から一貫してよりゲームを体感し、没入させるようなゲーム制作を行ってきていた。その最終系が現実というもののトレースをいかにして行うか、に至ったというのもクリエイティビティに筋が通っている話だ。そしてそのスタンスを突き詰めた結果が現代のゲームの流れを先駆的に実現したものになったのだと思う。
本当の評価とは、実のところリアルタイムでの評価以上に時間が経たないと見えてこないことも多い。なので海外のオープンワールドやRPGの傑作が出そろった今こそ再評価としてふさわしい。ゲームの歴史的には大失敗作であるが、クリエイター鈴木裕の最高傑作として評価されていくことには違いない。
HD化の噂が断たないが、それが実現した時にはまた大きな再評価の波がくるだろう。
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シェンムー3開発決定記念ぱぴこo(*^▽^*)o
投稿: 陳大人 | 2015年6月16日 (火) 20時51分
シェンムーIIIのキックスターターに22万円出資しました( ´ ▽ ` )ノ
投稿: シェンムーIIIを待つ者 | 2016年2月13日 (土) 16時03分