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2015年11月18日 (水)

個人ゲーム制作者の暗黒を語るゲーム「The Beginners Guide」感想&考察

  あらゆるFPSや当時のwalking simulatorの方法を引用しパロディにした「stanley prable」を生み出したクリエイター・Davey Wredenの新作「The Beginners Guide」。簡単なあらましは「今はもうゲーム製作をやめてしまった”Coda"という名前の個人ゲーム作家の2008年から2011年の間に作られた作品を、友人だったDavey Wredenが解説していく」という内容になっている。


 前作の先入観があるならば、極めてタチの悪い、数多くの個人ゲーム製作者たちが陥りやすいスクリプトの間違いやコリジョンの設定のぐちゃぐちゃさみたいな傾向を嘲笑するような諧謔的な内容を想像するかもしれない。確かにそういうところはある。けれど実際は逆だ。結末に行くにつれ全く違ってくる。そんなことは全て吹っ飛んでしまう、ずっとシリアスなことだった。



  2008年から2011年までの3年の間にCodaによって作られた膨大なゲーム群は、全て一人称視点のゲームだ。作りかけのFPSのステージや、実験的なwalking simulator、不思議なパズルなどなど様々なバリエーションがある。Daveyがそのひとつひとつを解説していくのをプレイヤーは追っていく。最初の頃こそゲームを作り始めた人らしいありがちな稚拙さ、ありがちなプレイビリティを無視した実験的なゲームが大量に出てくる。だがしかし、年を経るにつれ内容はあらぬ方向へと向かっていく。



 とりあえず今回は詳しい内容に触れるのは「続きを読む」をクリックしてからにしよう。まだ遊んでない方は買ってみて、クリアしてからまた来てほしい。90分から110分、バンクシーの作ったドキュメンタリー映画「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」を観るくらいの時間があれば最後まで行けるので、その後また会いましょう。


"Coda"は一体何者なのだろうか?

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 さて一通り観てみて、やはりすべてを本当のことだと捉えるには違和感があるのは確かだ。つまり、Codaは何者なのか?最初から存在していないのではないか?ということだ。


 ではこれらの膨大な作品は誰の作品なのかというと、解説しているDavey Wreden本人の過去の作品ではないか?Daveyの近年の環境を裏打ちにしてとは各種のレビューで言われている。オレも初見の印象ではそうだ。


 それなりの根拠もありそうだ。codaの膨大な作品は全てvalveのsource engineによって製作されているとDavey Wredenは作中で解説する。最初の作品だって「counter-strike」のマップを利用して3Dマップの練習をしたってある。しかしそれはDavey Wreden本人が「half-life2」のmodを制作していた時期のものではないか。


 codaの「2008年から2011年までゲームを製作していたのだが、作らなくなった」というのも、2011年にDavey Wredenはmod版の「stanley prable」をリリースし、それがスタンドアロン版の制作に至るまでのヒットを飛ばした時期に重なるあたりが気にかかる。


  このゲームで公開された作品群はそのまま、Davey Wredenの過去のmod作品なんじゃねえの、そしてそれをいくつかアレンジしたんじゃねえのってのをひとつ想像できる。これは解釈によっては「Stanley Parable」の予想以上の成功による、様々なオーディエンスやメディアが彼に注目したことでの自身の混乱が反映されているとも言われている。

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 そもそも、ハンドルネームのCodaって名前からして何かを示唆してるっぽい。これは音楽における”一つの楽曲や楽章または楽曲中の大きな段落の終わりに,終結の効果を強めるためにつけ加える部分。結尾部の終結部”を意味する言葉で、ゲームのアイコンはその記号を使っている。実際に何度もドアのパズルのモチーフ、箱頭の人間たちは繰り返され、強調される。この無暗な出来過ぎ、作り過ぎな感じもCoda実在しないだろ感に一役買ってる。

 

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 このあたりの虚実ないまぜなままのドキュメンタリー的なアプローチはある映画を思い出す。世界各国で政治的なストリートアートを残す、バンクシーのドキュメンタリー映画「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」だ。

 あの映画も真偽がすごく歪なんだ。映画の開始当初、ストリートアートのヒーロー・バンクシーを追いかけるティエリーなる変人が出てくる。最初こそ観客の目線に立った人物ということなのかな?と思いきや、中盤以降大きく話が変わる。


 ストリートアートシーンを追いかけていたティエリーはバンクシーの勧めで自らもストリートアーティストになることを決意し、「Mr・ブレインウォッシュ」名義で作品を発表する。誰もがこいつは失敗するマヌケだろと思われたところ、なんとティエリーの作品は現実のアート市場にて高評価を得て、高値で取引されマジで成功者になり上がってしまう。当のバンクシーがあきれ果て、映画はバンクシーではなく追っかけてたはずのティエリーの成り上がりドキュメントに…というとんでもない転倒が描かれるのだ。


 もちろんこころある観客はそのまま受け取りはしない。当然バンクシーの仕掛けたヤラセを疑う。ティエリーのアーティスト名義の「Mrブレインウォッシュ(洗脳)」というあまりにもな名前といい、最初から実在しない人間であって、本編で一切顔を見せないバンクシーと同一人物なのではないか?という見立てだって為されたくらいだ。


 ところがだ、映画が公開されて数年たった現在、ヤラセを疑われたはずのMr・ブレインウォッシュはどうやら実在するらしく、実際様々なメディアで目撃談はあるし、アートメディアにてインタビューを受けている。今も作品を発表している。


 ともかく映画そのものに話を戻せば、もはやその人物が実在する、しないに関わらず、大切なのは描かれているテーマの事だ。この映画ではポップアートシーンへの皮肉や諦観だった。では「The Beginners Guide」は何かというと、それは一人の作家の創作からコミュニケーションまでひっくるめた、普遍的な苦しみのことだ。
 

ここでで描れることは日本のフリーゲーム界を思い出しても無縁じゃない

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  Codaが存在するしないに関わらず、ここまでに描かれたことで確かなことはこうだ。あまり他人と手を切り結ぶことのないゲームと作り手のスタンス、そのまま作家が行き詰っていく混乱そのものだ。


 オレとしてはどうあれ作品群のどれもが最初からプレイヤーと手を取り合うことを拒否した作りをしないことが、後に自己破壊の方向に向かっていくシークエンスが何より身につまされる。


 面白がらせるゲームメカニクスやプレイビリティからひたすら遠ざかった実験の数々。競技性のまったくない、リロードすらないFPS、 後ろ向きにしか歩けず配置したダイアログを読むwalking simulator…「このゲームはあなたの手を引きません」とは「The Vanishing of Ethan Carter」の冒頭にあったが、本当に誰の手も取らないままのゲームがやがて擦過痕人を袋小路にしてしまうみたいなところがとくにそうだ。


  こういうことは日本でも無縁じゃない。あるゲームエンジンを使用した個人ゲーム作家ってことで日本でとても有名なのはRPGツクール界隈がある。その中でも異形としか思えない作家がいることは詳しい人なら馴染みがあると思う。

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「タオルケットをもう一度」シリーズ
毎作アウトサイダーアートを観る気持ちと
同じ気持ちにさせられる作品

 たとえば「ゆめにっき」、たとえば「タオルケットをもう一度」シリーズなど。あれらの作品を見つめる時のある種プレイヤーを楽しませるゲームメカニクス以上に、なにやら内省的で陰鬱で、心理療法の一種である箱庭療法の過程を見ているかのような気持ちになる。 


 そして個人ゲーム制作のコミュニティでの、作家とプレイヤーみたいなちょっとした諍い、行き違いみたいのも少なくなく見かける。プレイしたファンが好き勝手に感想を書いたものを作者が見てしまいもの凄く頑なになっちゃうとかね・・・「The Beginners Guide」も後半部分にこうした微妙さについても触れてくる。


 ゲーム製作を終える後半部分で吐露されるビデオゲームを作っていて作家が自らに語りかけるようなシークエンスはじめ、もう自分は空っぽなんだ…なんてどんどん内省的に入ったあたりで、不謹慎ながらツクール系の個人ゲーム作家で自ら命を絶ってしまった方の話を思い出したりした。



 Davey Wredenはこうした個人作家が陥るだろう、もしかしたら普遍的かもしれない危うい状況を俯瞰して見せている。オレはまずDavey Wreden自身がそうだったのだろうと思うし、また他の作家の誰でも陥るかもしれないことなのだと思う。


 ところで、まさかとは思うがまったく本編やってないままここまでの書き散らしを読んでしまったなんてことは……いや、いいんだ、これは厄介な話なのだから。ここまでの文章がこの特異なゲームの初心者の手引きになれば幸いだよ。なんてうまくまとめたつもりの言葉も、このゲームにふさわしくないね。

おまけ・英語での考察とかレビュー漁ってたら見つけた「Analoge:hate story」のヒョネにケーキあげてるDavey Wreden。の写真

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2.中軽量級タイトル」カテゴリの記事

コメント

ゲーム作成って難しいのですね・・・。
でも、一度出てしまった作品は作者の手から離れてしまうから、「作者が伝えたかったこと」から
乖離していく危うさがあるんですよね・・・
誰も彼もが細く作者を考察なんてできないから、二次的な創作が蔓延して、元々の伝えたい事から
どんどん「皆が楽しい方向」へ飛んでいってしまう。
この作品は「私ははこれを伝えたいんだ!」って言う叫びのように自分は感じました。

話は変わるんですが、EAbase887がレビューしていたゲーム『SUNSET』が気になり購入してプレイしてみました。
失敗作との話だったんですが、プレイしている内に独特な世界観に引き込まれてしまい
「こうゆう芸術的ゲームとかもあったんだ!」と感動しました!
そこで! と言う訳じゃないんですが、似たようなジャンルでEAbase887お勧めのゲームとかありますか?差し支えなかったら教えてください。

おおSUNSETいいですよ。
内戦の中の日常の気配、姿の見えない雇い主とのコミュニケーションの取り方など
walking simulatorの中で見逃せない作品になってると思います。

walking simulatorというジャンル(ちょっとパズル要素あると違うかな)の中では

mind path to thalamus
http://store.steampowered.com/app/296070?l=japanese

Kairo
http://store.steampowered.com/app/233230/

などがおもしろかったですよ。

今年やったなかでもっと面白かった奴あるんですが、
次回は海外フリーゲームネタをやるのでそこで触れます…

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