« 米国に投資? いいんじゃないの | トップページ | G20でガイトナー米財務長官が菅前財務大臣に伝えたかっただろうこと »

2010.06.12

西側諸国はイスラエルによるイラン空爆を容認するではないか

 あまり刺激的なタイトルを付けるのもなんだが、そういうことなのではないかという思いがしている、つまり、事後になって「西側諸国はイスラエルによるイラン空爆を容認するではないか」。
 もう少し言うと、西側諸国というより、非シーア派国もこれに含まれるのではないか。もちろん、表向きにはというか公式には、西側諸国も非シーア派国も反対するだろうし、事後にはそれなりに非難の声も上げるだろう。
 オバマ大統領も事後のグループに含まれるだろう。彼は、ブッシュ前大統領というか実質的な大統領であったチェイニー前副大統領とは違うので、スケジュール的にサウジを脅かすものを排除するといった意志はなく、現在のメキシコ湾原油流出のように、成り行きできれいな顔して後手に回るだろうから。
 危機はスケジュール的には進まないだろうが、すでにそろそろどうにもならない状態に進んでしまったようだ、という状況ではある。ついでにいうと、そのあおりでホルムズ海峡に異変があれば、日本は吹っ飛ぶだろう。岡田外相がイランの石油利権を米国の思惑で中国に取られたとか寝言を言っている場合ではない。
 これはいかんなあと思ったのは、このところのエントリで書いているトルコ(参照参照)が背景になる。
 私は親トルコ的な偏見があって、トルコとイランが結びつくという想定をあまりしたくないというのがある。だがどうも並行してナブッコの動向もおかしなことになってきたようだ。表向きは逆にも見えるので話が難しい。
 11日付けBussines i「トルコ、アゼル産ガス輸入合意 欧州再輸出「ナブッコ」前進」(参照)では、標題通りナブッコがうまく行きそうな感じである。だが、実態はロシアのプーチン首相が釘を刺すように、アゼルバイジャンのシャー・デニズ天然ガス田では欧州の天然ガス需要を満たせない(参照)。ロシアを迂回するためのナブッコだから、ロシアからすれば嫌みのような牽制をするだろうくらいに受け止めがちだが、この発言トルコのエルドアン首相が同席した記者会見で行ったように、むしろエルドアン首相の思いと見てよいだろう。露骨に言うと、トルコが欧州の天然ガスをグリップしますよと布石に近い。
 問題はこれに連動してイランが動いているようだ。9日付け毎日新聞「天然ガス:パイプライン計画 イラン・パキスタン合意 米反発、実現には時間」(参照)より。


 イランの天然ガスをパキスタンへ運ぶパイプライン建設に関する最終合意が8日、両国間で交わされた。当初インドまで開通させる「IPI(3国の頭文字)ガスパイプライン」計画は、米国の圧力でインドが“離脱”して変更を迫られた形だが、構想開始から20年でようやく一部が動き出す見通しとなった。関係国の思惑や実現に向けた課題を探った。

 これだけだと特にはっきりした動向は見えないが、背景にはイランの国家意志がある。

 IPIはパキスタン側のメリットだけでなく、イラン側のさまざまな思惑も重なる。核問題での制裁や経済政策の失敗で財政悪化が進むイランは、石油と並んで豊富な天然ガス輸出を通じて外貨獲得につなげたい意向だ。

 パキスタン側へは将来的な外貨獲得計画と見えないこともない。だが、ようはこのインフラの動向はナブッコに関係している。

 計画に反発する米国はインド、パキスタンにIPIへの不参加を要請。隣国トルコを通じて欧州に天然ガスを供給する別の「ナブッコ・パイプライン」計画でもイラン参加に強い反発を示し、イランは米国への嫌悪感を募らせてきた。核開発問題での追加制裁が迫り、米欧主導の「イラン包囲網」は強化される中、イランは天然ガスを通じた地域での覇権を確立したい考えだ。

 毎日新聞が明確にしているように、「イランは天然ガスを通じた地域での覇権を確立したい」というのがそれだ。
 ここで明示的に書かれていないのだが、ナブッコこそその中核にありそうだ。「トルコ・アルメニア問題の背景にあるナブッコ: 極東ブログ」(参照)でも触れたが、これは地図を見ると、唖然とする。

 問題はイランというより、トルコの側でイランを使った地域覇権の意識があれば、ナブッコは使い出があるということだ。
 現状では、こうした読みはどこかしら陰謀論めいているのだが、話の仮説としては留意しておきたい。別の言い方をすれば、欧州はキレかねない。イラク戦争とは違い、利害の当事者として巻き込まれつつある。
 話を「これはいかんなあ」の部分からトルコの背景を抜いたところに戻すと、9日付けフィナンシャルタイムズ社説「No alternative but to sanction Iran」(参照)が重苦しいトーンだったのが印象的だ。イラク制裁について。

In the absence of a deal, the west had no alternative but to keep the sanctions juggernaut rolling. It has always been the policy of the US and its allies to rein in Iran’s nuclear programme while avoiding two evils – the first being Iran with the bomb and the second, Iran itself bombed.

交渉が不在の現在、西側諸国には大揺れのまま制裁を維持するしかない。それは、米国とその同盟国がイラン核計画を阻止する毎度の政策ではあるが、それは二つの悪を避けたいがためだ。二つの悪の一つはイランの核保有化であり、二つ目はイラン空爆である。

As time is the enemy – each month that passes potentially brings the Iranians closer to the possession of weapons-grade material – the west could not stay its hand.

月を経るごとにイランの潜在的な核兵器保有可能性が深まるように、時間経過が敵であるのだから、西側諸国は手をこまねいているわけにはいかない。


 空爆というのは当然イスラエルによる空爆だが、全体構図には非シーア国の含みも感じられる。

If the world is not to drift towards a military conflict involving Iran and Israel that would spell disaster for the region and the world, a way forward still needs to be found.

国際社会が、イランとイスラエルの軍事衝突とそれがもたらす同域と世界の災害へと漂流させないとするなら、改善する方向を見つけなければならない。


 論調としては戦争を回避すべく西側諸国は尽力せよと、日本には届かない悲痛な声をフィナンシャルタイムズは上げている。トルコとブラジル案にでもすがりたいようなトーンでもある。

But for these initiatives to bear fruit, Tehran has to feel that there is no alternative but to negotiate. That requires a toughening of the Chinese line – and perhaps more enticements from the US side.

トルコ・ブラジル案に成果がなければ、イラン政府には交渉以外に代案はないと実感させなければならない。それには中国筋の強い要望が必要だし、米国側にも誘導が必要だろう。

In the absence of these, it is always possible that a consensus may yet be found among the major and emerging powers as Iran closes in on the nuclear threshold.

それがなければ、イランが核保有という限界達成に向かうなか、主要国と新興国間の合意に至らない可能性がある。


 このあたりのトーンだが、米側にイランへの譲歩があるかが微妙だ。米側のソース(参照NYT参照WP)で漉してみると、無理といってもよいように見える。今回は中露が制裁決議に回っただけ随分危機の認識が迫ったくらいだ。
 あまり陰謀論的に考えたくはないが、ガザ支援船攻撃もこうしたイラン空爆への牽制という文脈にあるのかもしれない。
 ただ、ここまで問題がこじれた以上、急激な変化というのは起きづらいのが、当面の希望だろう。

|

« 米国に投資? いいんじゃないの | トップページ | G20でガイトナー米財務長官が菅前財務大臣に伝えたかっただろうこと »

「時事」カテゴリの記事

コメント

西側は、イスラエルを悪者扱いしながら、いやなことはみんなイスラエルに押し付けるのか。

ヨーロッパ史もイスラム史も、ユダヤ教徒を迫害しながら、面倒なことをユダヤ人に任せていた歴史だった。

結局その繰り返し。でも、ユダヤ人は、なぜ、ユダヤ人(教徒)迫害をしない日本に、移民してこないのかなあ。日本にもクリスチャンとムスリムが先回りしているからかなあ。

投稿: enneagram | 2010.06.13 09:40

>実態はロシアのプーチン首相が釘を刺すように、アゼルバイジャンのシャー・デニズ天然ガス田では欧州の天然ガス需要を満たせない

プーチンが言ったのは、
>建設計画中の「ナブッコ・パイプライン」の需要を満たさないとの見方を示した。

引用間違いでは?

投稿: F.Nakajima | 2010.06.13 23:39

★Saudi Arabia gives Israel clear skies to attack Iranian nuclear sites
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/middle_east/article7148555.ece
サウジ政府はこの報道を否定していますが、はたして…
汚れ仕事をイスラエルがやってくれるなら、どの国も見て見ぬ振りってことでしょうか。

投稿: shaul | 2010.06.14 13:18

質問なのですが、
イスラエルの脅威に対してイランがホルムズ海峡を封鎖(異変)するとイスラエルは困るのですか?

投稿: あおた | 2010.06.17 00:48

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 西側諸国はイスラエルによるイラン空爆を容認するではないか:

» 極東ブログ「西側諸国はイスラエルによるイラン空爆を容認するではないか」について [godmotherの料理レシピ日記]
 私が言ってもぎょっとされることはないのは分かりますが、極東ブログで「西側諸国はイスラエルによるイラン空爆を容認するではないか」みたいなことを書かれてしまうと、骨髄反射で「ヤッヴァイ!」と思います。今... [続きを読む]

受信: 2010.06.12 14:58

« 米国に投資? いいんじゃないの | トップページ | G20でガイトナー米財務長官が菅前財務大臣に伝えたかっただろうこと »