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2008.05.07

[書評]シンプリシティの法則(ジョン・マエダ)

 「シンプリシティの法則(ジョン・マエダ)」(参照)は、表題からその意図がわかるだろうが、煩雑な物事にシンプリシティ(簡素さ)を求めるにはどうしたらよいのかという課題に対して、基本となる10の指針を法則として与えている。翻訳の文体に多少硬い印象があるが、これはかなりの美文で書かれているのでしかたがないだろう。

cover
シンプリシティの法則
ジョン・マエダ
 書籍本体は意図的にきっちり100ページに抑えてあり(訳本もまた)、二時間もあれば読み通せる。要点もまたすっきりと書かれているので、わかりやすいという印象を持つ人もいるだろう。つまり、この本自体がそのシンプリシティの法則が適用されているがゆえにシンプルである、と。間違ってはいない。薄く軽いタッチの書籍のわりに1500円は高いなと思う人もいるかもしれない。
 私にしてみると、この本はきつい読書の部類に入った。再読を終えて、実はまだ書評を書くべきではないのではないかと逡巡している面がある。シンプルに書かれているのだが、読書にかなりの思考力が要求され、理解しづらい。単純に要点をまとめて暗記してすむといったたぐいの書籍ではない。ある種の古典といった風格がある。著者ジョン・マエダ(参照)も、背をもたれて読んでほしいとしているが、ところどころで読者に思考を強いているようだ。
 凡庸な編集者なら(本書はかなり編集者の手が入っているようだが)、本書をもっとばっさりと安易なハウツー本に仕上げることができるだろう。だが、マエダはそこを明確に、ヒューモラスに拒絶している。理由はわかる。シンプリシティ(簡素さ)とはけしてシンプルなことではないからだ。そしてなぜそれがシンプルではないかというと、シンプリシティを求める人間の知性や美意識のなかに、生命の本質が関わる複雑性の要素をそぎ落とすことができないからだ。マエダの思考は、どことなくハイデガーの哲学に似たような部分があるが、そういう比喩は誤解を招くかもしれない。
 本書の目的は非常に明確であり、その点ではシンプリシティそのものだといえる。

私たちのミッションは、コミュニケーション、ヘルスケア、娯楽の分野においてシンプリシティが持っているビジネス価値を明らかにすることだ。


人びとは、生活をシンプルにしてくれるデザインを買うだけではない。さらに重要なことに愛しているのだ。ここ当分のあいだは、複雑なテクノロジーが私たちの家庭や職場に押し寄せ続けるだろう。したがって、シンプリシティはきっと成長産業になるはずなのだ。

 ものを作る、サービスを提供するということにおいて、その価値に対してシンプリシティがどのように貢献できるのか。こうした分野に関わる人びとにとって、本書はおそらく必読といってもよいかもしれない。
 私は本書を読みながら、些細なことだがこのブログ「極東ブログ」のデザインのことも考えた。私は私なりにこのブログのデザインに自分の美学を表現している、もっともそう思ってくれる人はいないだろうが……。色合いは私が好きなマルタカラーから選んでいる。2カラム以上は増やすまい。アフィリエイトの猥雑さを減らしそれでいて可能な最適なアフィリエイトはどのように可能になるか。本文は読みやすいか……。この点についてはかなり批判があるだろう。メイリオといった書体を強制的に指定することもできるし文字を大きくすることもできる(だがしていない)。いろいろとシンプリシティを考える。
 本書を読みながら、たびたび、別途私がウェブサービスで使っている「はてな」のことも考えた。率直に言って本書は「はてな」の人びとに読んでもらいたいと思った(おそらくすでに読んでいらっしゃるだろうが)。というのは興味深いサービスを多数提供しながら、そしてそれなりにシンプリシティを追求されているのだろうが、それでもシンプリシティとはほど遠いサービスが続出する状況はなんとかならないのだろうか。
 他にもいろいろある。携帯電話もおよそシンプリシティから遠い。携帯電話のメールにいたっては自然に適用されたシンプリシティへの要求で表題がすでに欠落して使われている。いや、それはもはや電子メールではないのだろう。
 デジタルカメラも複雑過ぎる。プリンターもそうだ。パソコンがそもそもシンプリシティから遠くなりつつある。
 ITだのデジタル分野以外に、公共サービスもまた複雑化している。高齢者医療の負担の問題については、その対象の人びとが理解できるシンプリシティはなかった。人生全体についてもシンプリシティは求められる。
 本書の法則は破っても罪になるものではないとして。

だが、デザイン、テクノロジー、ビジネス、人生においてみずからシンプリシティ(そして健全さ)を探求するときには、これらの法則が有用であることがわかるだろう。

 本書は丹念に読めばデカルトの方法序説の脇に並べるほどの価値をもっている。
 ではそのシンプリシティの法則とはどのようなものか。それはすでにウェブでも公開されている(参照)。ここにも再掲してみよう。ただし、訳は私なりに変えてみた。アイコンは本書についていたもので、マエダがそのコンセプトをデザインしたものだ。

  1. REDUCE(縮小せよ): The simplest way to achieve simplicity is through thoughtful reduction.(シンプリシティを達成するもっともシンプルな手法は思慮深い縮小を通して実現される。)
  2. ORGANIZE(組織化せよ): Organization makes a system of many appear fewer. (組織化によって多数のシステム構成要素が少なく見える。)
  3. TIME(時間): Savings in time feel like simplicity.(時間を節約させれば人はシンプリシティの感覚を得る。)
  4. LEARN(学習せよ): Knowledge makes everything simpler. (知識によってすべてがよりシンプルになる。)
  5. DIFFERENCES(互いの差分): Simplicity and complexity need each other. (シンプリシティとコンプレクシティは互いに必要としあう。)
  6. CONTEXT(全体状況): What lies in the periphery of simplicity is definitely not peripheral. (シンプリシティの周辺にはとても周辺とは思えないものが存在する。)
  7. EMOTION(情感): More emotions are better than less. (情感は少ないより多いほうがよい。)
  8. TRUST(委託): In simplicity we trust. (私たちはシンプリシティに委託するものだ。)
  9.  FAILURE(失格): Some things can never be made simple. (けしてシンプルにならないものが存在する。)
  10. THE ONE(選ばれし者ザ・ワン): Simplicity is about subtracting the obvious, and adding the meaningful.(シンプリシティは自明なものを取り除き、意義を加えることに関わる。)

cover
The Laws of Simplicity
John Maeda
 ところで、DIFFERENCESのアイコンはなぜ、アヒルなのだろうか?(アヒルではないのか?) 私はなんとなく自分なりの理解を持っているのだが、シンプルなお答えはどこかに書かれているのだろうか。ご存じのかたがいらしたら教えていただきたい。

追記
 コメント欄にて早々に回答をいただいた。ありがとう。
 Duck duck goose、なるほどね。
 ⇒maeda January 23, 2007

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コメント

ご紹介いただいた本は未読ですが。DIFFERENCESのアヒルで「醜いアヒルの子の定理」を思い出しました。

http://en.wikipedia.org/wiki/Ugly_duckling_theorem

投稿: hon-dani | 2008.05.07 17:48

彼のブログで同じ質問に答えておられるようです。

>Joe January 23, 2007

Just curious why the icon for Differences is a duck? It made me think of the classic riddle: “What is the difference between a duck?”


>maeda January 23, 2007

Joe, It’s actually a goose. Duck duck goose. :-) John


http://lawsofsimplicity.com/?p=54

投稿: haineko2003 | 2008.05.07 17:52

Duck duck duck duck duck duck duck duck duck goose

いつものお粗末ですが、よかったら。

http://haineko2003.blog.so-net.ne.jp/2008-05-07

投稿: haineko2003 | 2008.05.07 20:12

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