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2007.03.18

[書評]日本の選択(ビル・エモット、ピーター・タスカ)

 「日本の選択(ビル・エモット、ピーター・タスカ)」(参照)は、まんまビル・エモットとピーター・タスカの対談。テーマは標題どおり「日本の選択」ということで、この手の標題はナンセンスになるのが常だが、この対談については、字義通りの意味を持っている。日本は、これから強く選択が求められるし、選択の余地があるというのだ。このあたり、べたに日本人をやっている私などからすると、ふーん、選択の余地があるのかというのはちょっと意外な印象もあった。

cover
日本の選択
ビル・エモット
ピーター・タスカ
 ではどのように選択すべきか? 彼らはどう考えているか? これは私の読解力がないせいか、彼らが外人だからという留保があるのか、いま一つはっきりしないところもあるが、前提として言えば、なんといっても経済力でしょ、つうこと。で、経済力っていうことは、つまり、生産力でしょ、というのと、グローバル化でしょ、と。
 後者のグローバル化については、二人ともそれ以外には日本の選択はないけどねだけどねごにょごにょという部分がある。とはいえ、グローバル化が何を意味するかは、英国人である二人には明確で、つまり、英国化ということ。ロンドン化というか。そしてその点で、ほぉと思ったのは、東京はグローバル化し、他の地域はよき時代の昔の日本でええんでないの、みたいな意見だった。実際そうするしかないな。
 東京のグローバル化というのがロンドン的なものになるか、そういう選択をすべきかというと、彼らはごにょっとしているけど、無理無理。ただロンドンとは違ったグローバル化は可能かもしれないし、そのために、ええい、東京オリンピックやっちゃえ、どーん、というのもありかなとはちと私は思った。
 ビル・エモットとピーター・タスカの考えは同じではない。微妙にエモットが引いているのが面白いと言えば面白い。むしろ、タスカは日本が好きなんだろうなという感じがする。そのせいか、意見の違いをごりごりと摺り合わせることもないし、逆に二人の違いを際だたせるわけでもないので、あれま日本的な対談となった。ので、全体の印象はボケる。にもかかわらず、二人がそれって常識でしょ、前提でしょ、というふうに意識もされていない部分が、べたな日本人にとっては、え?え?え?みたいなところがあって面白い。いや、そこがこの対談を読んで面白いところだ。と、例でも挙げればいいのだが、ま、この対談はちょっと物を考える人には読む価値があるので、買って読んでみたらいいと思う。彼らが暗黙のうちに前提としている部分に、え?とか思うはず。
 話が散漫になるが、個人的に特にあれれ?と思ったことは、少子化と労働力の問題。彼らはこれにきちんと着目している。少子化の問題というのは、なかなか簡単には言いがたいというか、ネットやその他でも日本の少子化は問題ではない論が目立つというかフカされるが、私は問題だと思う。具体的に町の様子を見ていたらそうとしか思えない、が、それに突っ込まず、これを労働力不足という点で見る、とどうなるか。フツーなら外国人労働者を入れろとなるだろうが、彼ら二人は、そのニーズに日本では非熟練労働者、女性、高齢者が投入されていると言っている。あ、そうだな、と思ったのだ、私は。
 というのもかねがね、日本の労働力は、戦時下のあれじゃないけど日本女性をフルに使うとかなりすごいことになりそうだと思っていた。でだ、こうした労働力が今日本に投入される影響で、労働者の賃金が上がらない構造となるという指摘は、ほぉ、と思った。実際には違うのかもしれないが。現状の仕組みのままでは日本の労働者の賃金というのは、たぶん、ずっと、上がらないのだろう。
 日本国家を憂うというのは未来のない老人の特権かもしれないが、私もせいぜい生きてもあと20年くらい。そのくらいなら日本も米国の長期金利で保つなとか思っている。逃げ切って人生お終いとかね。でも、そんなんでいいわけないよなと少し考えた。
 対談では世界情勢において、ほほぉ、そんなことブログで言おうものなら一部の工作員に燃料投下みたいな視点もある。ので、そのあたりはパスっておこうか。

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コメント

総じて期待値の箍は国民性という呼び方ができるのか?

しかし、幸か不幸か、日本人は結局どこまでいっても日本人でいたい(それでいいと考えている)ものなのかもしれないですね。

投稿: 夢応の鯉魚 | 2007.03.18 19:30

一抜け禁止。あと50年は生きて下さい。

投稿: うps | 2007.03.18 19:33

団塊の世代は逃げ切れる論はなんとかなりそうな見込みですね。もうちょっと下ではあるけれどfinalventでもギリギリではないかと思われます。
ロンドン化するのはきっとムリでしょう。紳士がいないですもの。かといってグローバル化というかアメリカチックな るつぼ状態にも モラルの面と生活水準を下げられないとか個が確立していないとかいろんな側面からムリでしょう。オリンピック ど~んとなった花火はきれいだな!ももちろんありなんですが、もうインフラを整備するという意味合いは薄れており、徹底的なコストダウンで、国が儲ける!という戦略にシフトしないとダメでしょうね。競技場をボロボロで、放映権をふんだくる!オリンピックなのにK1よろしくパチンコメーカーなんかがCM料を払う。グランドにはパチスロ台の広告。そこは日本は進んでいるので、ラスベガスでも採用。各地のカジノで大流行。
という生産力を上げるとかどうとかよりもあるものをいかに売るか?もう残っているのは パチンコ、漫画、ニートを輸出。
労働者を引き受けるとグローバル化はきっと進展します。中国の農村部との平準化が図られます。
人材を輸出。国内では使わない。不法滞在の三国人も輸出。あるものを売ってしのぎたいものです。
私はあと30年以上国家が破綻されては困るのです・・・選択というかもう選択できない時代はすぐそこではないかと・・・

投稿: りん! | 2007.03.18 22:52

ここのマスターには子供に伝える、残すって作業をして欲しいですね。十分にされてるのかもしれませんけど。

投稿: 大衆 | 2007.03.19 10:59

国の人口密度や首都圏人口密度にも若干の類似性はある。歴史や文化においては評論家の西部氏の骨頂。比較や検討は大いに参考になる。兄貴のような国だ。日本人の南米移民も語弊はあるがオーストラリアやニュージーランドとの類似性もある。南米との連携を労働市場で活かすべきでは

投稿: アカギ | 2007.03.20 00:58

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受信: 2007.03.18 21:22

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 大仰な題名の「レビュー」、ということで警戒しなくても大丈夫です。私はレビューという言葉を読書した感想というような軽い意味でしか使っていないし、この本について何か深遠で的確な評価ができるとも思っていないので。 日本の選択 作者: ビル・エモット, ピーター・タ... [続きを読む]

受信: 2007.07.11 22:57

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