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2011年11月20日 (日)

労働者に占有権はない件について

いや、実定法の用語をフルに使っているにせよ、ここで論じられているのはもっぱらロックからウェブレン、そして立岩真也に至る社会思想的次元の問題であって、現実社会における実定法規の適用の問題ではないということは重々承知の上ではありますが、一応ひと言。

http://d.hatena.ne.jp/shinichiroinaba/20111119/p1(「占有」について)

>・・・われわれの考えでは、この「占有」という語は、かつての市民社会派が「個体的所有」という言葉で表現しようとした事柄に対応している。そう考えるならばそれは社会主義での課題でもある。・・・

少なくとも、近代法における「占有権」についていう限り、雇用契約に基づいて使用者の指揮命令下で労働に従事する労働者には、使用者の財産(生産設備)に対する法的な意味での占有権は存在しません。

ある種の「市民社会派」の唱えた「労働に基づく領有」「個体的所有」は、確かに社会学的には「占有」と呼ばれるかも知れない自体に対応しているように見えるにしても、それは法学的には「占有権」ではありません。このあたりの消息は、終戦直後の生産管理闘争から始まって、職場占拠闘争等々、労働法の古い教科書には書かれています。

いや、もちろん、稲葉さんはそういう詰まらぬ話をしているのはないということは、重々承知の上です。ただ、実定法用語をフルに駆使して議論をすると、こういう詰まらぬ突っ込みをされる危険性があるということでもあります。

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コメント

ああ、先生、ですからあそこでは雇用労働の話はまだ一切していないのです。あの辺の議論のパラダイムとしては地主―小作関係の方がまだしもだとおもいます。雇用を論じるためにはまだ何段階もの仕掛けが必要です。
あと、木庭先生の雇用労働についてのお考えはまだ十分に理解できていません。たぶん先生のお考えではゴーイング・コンサーン・バリューの中に生産設備だけではなく暖簾や企業内熟練といった無形の経営資源も入っているはずであり、それへの権利のパラダイムとしてローマ法のpossessioを考えておられるとは思うんですが、現代日本法で「占有」という仕組みがそのために用いられているかどうかについては、もちろん楽観は全然していない、というかダメだと考えておられるようで。でもさすがに従業員がハードな生産設備に「占有」を云々できるとは思ってないと思います。熟練とかキャリアならまだしも。でも無形資産への「占有」ってアリなんでしょうか?
そもそも先生があんまり日本労働法学の現状に――民法学などと比べても――満足しておられないことはひしひしと伝わってくるのですが。

まあ、そうなんでしょうが、今の日本で「労働か生存か」という流れの話をしていて、雇用労働じゃなくて小作人の話ですというわけには・・・。

といいますか、実は稲葉さんすでに重々ご承知の通り、もう一仕掛けか二仕掛けくらいした上で、雇用労働とはそもそもなんぞやという話に切り込むことによって、この話はようやく面白いところに入っていくわけで、その入口未満のところで、(一見)詰まらぬケチつけをしたのも、早く奥座敷に入って、骨に切り込む議論をしてくださいよ、というくらいのつもりでありました。

かつてここで書いたこれも、このあたりに関するものですし、

http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/bn/2005-7/p2-p11.pdf">http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/bn/2005-7/p2-p11.pdf(「社員」考)

>考えてみれば、会社という事業体に資本、技術、労務という稀少な資源を提供する者が「社員」であるのは不思議なことではない。資本という稀少資源の提供者にのみ「社員」権を限定し、技術や労務という資源は雇傭契約というメンバーシップのない形で市場から調達するという仕組みは、資本に対して労務が相対的に過剰であった資本主義形成期という特定の環境に適応した資本優遇型ミームであったように思われる。

>そう考えてくると、放送という事業の技能と熟練に誇りを持つニッポン放送の「社員」たちが、資本の論理を振りかざすライブドアに反発したのは不思議ではない。その反発に根拠があるかどうかは、資本主義形成期に作られた法律の規定によってではなく、今日何が稀少な資源であるのかによって判断されるべきであろう。


さらに民法の根源に遡れば、そもそも生産物の所有権は

>第二百四十六条  他人の動産に工作を加えた者(以下この条において「加工者」という。)があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得する

が原則であるということと、「労働に基づく領有」なるイデオロギーと、そして工作後の価格が材料の価格を著しく超えても工作補助者に過ぎない雇用労働者には一切いかなる権利も生じないという建前との関係をどう理解するのか、等々、じつはいろいろネタは転がっているわけで。

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