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« 最低賃金ちょびっと引き上げ | トップページ | ノンエリート大学生をめぐる認識ギャップ »

2011年7月28日 (木)

結婚を諦めている原発作業員

ニフティニュースから、もとは英紙インデペンデントの記事のようです。

http://news.nifty.com/cs/headline/detail/yucasee-20110728-8413/1.htm(福島第一の20代作業員「彼女に仕事は内緒」)

>英高級紙インディペンデントに、東京電力福島第一原発で作業員として働く20代の男性「ワタナベ・アツシさん」(仮名)がインタビューに応じ「結婚はあきらめている」と命がけの作業に従事する心境を生々しく語っている。

 ワタナベさんは下請企業の正社員として働いており、月給は18万円。現在は昼飯手当として1日1000円が支給されるようになったそうだ。命がけの過酷な作業に従事しているにしては、あまりにも薄給といざるを得ないか。・・・

>そうした作業は終わりが見えず、「結婚はあきらめている。もしも彼女に仕事のことを話したら、将来の健康、子どものこと、色々と心配をかけるだろうから」と語ったそうだ。
 
 また、辞任した清水正孝社長について「現場の経験もないし逃げると思う。追いつめたら自殺するかもしれない」と同情していた。きっと、恨んでいる暇などないのだろう。そのくらいの過酷さが、ユーモアある文面ながらも、その行間から伝わってくる

もとのインデペンデント紙を見ると、当然ですが、もっと詳しい記事が載っています。

http://www.independent.co.uk/news/world/asia/a-young-man-sacrificing-his-future-to-shut-down-fukushima-2325952.html(A young man sacrificing his future to shut down Fukushima)

「フクシマを収束させるために自らの未来を犠牲にする青年」というタイトルが泣かせます。

さらに泣ける台詞。

>But he accepts that price. "There are only some of us who can do this job," he says. "I'm single and young and I feel it's my duty to help settle this problem."

「この作業ができるのは僕たちだけだ」「僕は独身で若いし、この問題を解決するのは自分の義務だと感じている」

> "I thought we were on a mission to provide safe power for Japan, for Tokyo. I was proud of that."

「僕たちは日本に、東京に、安全な電力を供給する任務があると思っていた。それを誇りに思っていた」

東電幹部に対する記者の辛辣な表現は、日本の新聞ではあまりお目にかからない種類のものでしょう。

>As subcontractors to the plant's operator, Tokyo Electric Power (Tepco), he and his colleagues are well down the plant's employment food chain. Full-time Tepco employees are at the top, mostly white-collar university graduates with better pay and conditions. Tepco managers, including its president, Masataka Shimizu, who disappeared and became a national laughing stock during the nuclear crisis, are considered desk-bound eggheads; too much head and no heart, unlike the blue-collar workers who kept the plant running.

「national laughing stock」とか「desk-bound eggheads」とか「too much head and no heart」とか、いやあ、英語って実に表現が豊かなのですね。なかなか日本語に訳しにくい。

日雇労働者が1日100ミリシーベルトで働いているというこの一節も背筋が寒くなります。白血病やがんになっても金を払って黙らせている云々。

>Initially, he says, some day labourers got big money for braving the lethally poisoned air at the plant. "At 100 millisieverts a day you could only work for a few days, so if you didn't get a month's pay a day, it wasn't worth your while. The companies paid enough to shut them up, in case they got leukaemia or other cancers later down the line. But I have health insurance because I'm not a contract worker, I'm an employee."

結婚できないと語っている一節はこれです。

>"I could never ask a woman to spend her life with me," he says. "If I told her about my work, of course she will worry about my future health or what might happen to our children. And I couldn't hide what I do."

そして、彼が自らを戦争中の神風特攻隊になぞらえているこの一節は、上記邦語記事にはありませんが、是非多くの日本人に読まれるべきです。

>Why do people do dangerous, potentially fatal jobs? Some, as Mr Watanabe does, might consider it a duty to "nation" or "society". No doubt there is an element of bravado too – he compares himself to the young wartime kamikaze pilots who saw themselves as the last line of defence against invasion and disaster.

なぜ人々は危険で、潜在的には致命的な仕事をするのだろうか。ワタナベ氏のように、それを「国家」「社会」への義務だと考えているのかも知れない。間違いなくそこには虚勢の要素もあるけれど、彼は自らを、侵略と災害から防衛する最前線に立つ戦争中の若き神風特攻隊のパイロットになぞらえる。

そして、またまた記者の辛辣な筆致が躍ります。

>Whatever his reasons, Mr Watanabe displays infinitely more humility, concern for humanity and humour than the men who run his industry. For roughly the same take-home pay as a young office clerk, he and his workmates have sacrificed any hope of normal lives. He has never met the Prime Minister, the local prefecture Governor or even the boss of Tepco. He will never have children and may die young. In another world, he might be paid as much as a Wall Street trader, an idea that makes him laugh.

理由は何であれ、ワタナベ氏は、その業界を運営している人々よりもずっと謙虚で、人間的で、ユーモアがある。若いOL程度の手取り給与で、彼と同僚たちは普通の生活の望みを犠牲に供しているのだ。彼は一度も、首相にも、知事にも、東電の会長にも会ったことはない。彼は決して子供を持たないまま若くして死ぬだろう。もう一つの世界では、彼はウォールストリートの投機家並みに稼げたかも知れないのに。

「某米系投資銀行勤務」の方に読ませたい記事ですね。

しかし、この青年はもっとはるかに謙虚です。

最後に泣かせる台詞。

>"I'll probably get a pen and a towel when I retire," he says. "That's the price of my job."

「退職するときにはペンとタオルをもらえるでしょう」「それが僕の仕事の値段なんです」

だからこそ、先日の毎日新聞の記事から引用した髙﨑計画課長の台詞を、もう一度復唱しなければなりません。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/post-2ecb.html(労働者は使い捨ての機械ではない)

>事故収束を優先させたい原子力安全・保安院に対し、厚労省の高崎真一計画課長は「労働者は使い捨ての機械ではない。死にに行け、とは言えない」との思いで臨んだ。

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コメント

office clerkを、OLという性差別語で訳されていることに、
何か意味はあるのですか?
office clerkは女性だけというのが一般的だということですか?

ここでいう英語の「office clerk」は、職務も時間も場所も無限定が原則の日本型正社員たる「総合職」ではなく、職務も時間も場所も限定が原則の世界標準の「office clerk」であり、それに相当するのは日本の「一般職」であり、それをこの文脈で柔らかく訳せば、OLとなると判断しました。

ちなみに、OLとは、日本型雇用システムにおける女性の位置づけを考える上で極めて重要な概念であり、「性差別語」だからといって(そうであることは否定しませんが)その使用自体を非難することは、日本社会の科学的理解にとってかえって有害だと思います。

なお、『季刊労働法』の次号において、「OL型女性労働モデルの形成と衰退」という文章を書いております。刊行されたら是非お読みいただければと思います。

「労働者は使い捨ての機械ではない。死にに行け、とは言えない」、まさしくその通りである。しかし、そういうとらえ方もあろうけれど、結局第三者的な発想でしかない。この世界的人類の危機的時期に、どう立ち向かい解決するのか。自然的な消滅の歴史的な時間の流れるときを待つのか。
「事に当たっては、危険を顧みず」そんな気持ちで日常を過ごしている集団もいることを承知しているのだろうか。人の命は何事にも代えがたいものがある。それを十分承知の上で、事に臨まなければならない時もあるのではないか。真に解決する心があり、現実を直視するなら、軽々と発せられる言葉ではないと感じる。そういう局面を経験していないお方のぬくぬくと育ってきた狭い心を露呈した言葉でしかない。
ただ、事故収束を優先させたいとの言葉の綾ともとれる発言は慎むべきだ。結局のところ官僚同士が反発してどうなるのか。この方々が前線へ行けばいいのでは・・・・。
いま、前線で尽力している若者の姿に頭が下がる思いである。

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