呼吸法を調べると二点、重要なことが指摘されていることが分かった。それは呼吸リズムと腹式呼吸の利用についてである。
呼吸のリズム、つまり何回吐いて何回吸うかというリズムのことだ。これについては小出監督も金さんも触れている。「運動して体がたくさんの酸素を必要とすれば、自然と呼吸は速くなるし、安静にしていれば呼吸はゆっくりになる。ランニング中も呼吸のリズムついては何も考えなくていい。自然に任せ、もっとも楽に感じられる呼吸をしていればいいのだ」(1)。「呼吸の回数は走るリズムとスピードによって違うので何回吐いて何回吸うと決めつけないほうがいい」(2)。これは私もそう思う。1km6分程度のスピードだと、ランのリズムに合わせて「はーはー、あーあー」と2回吸って2回吐くリズムになりやすい。実際に試してみると、利き足から「右ー左ー右ー左」と走っていると、これに合わせて「吐くー弱く吐くー吸うー弱く吸う」というリズムになっていることが多い。しかし1km5分程度にスピードを上げると、「右ー左ー右ー左」のランに「吐く(右ー左)ー吸う(右ー左)」と利き足が地面を踏みしめるリズムに呼吸のリズムが重なっているのに気づく。これは全く意識しなくても自然に体がやってくれることなのだろう。
我々は生活の中でふつうは自然に胸式呼吸をしている。つまり息を吸う時に呼吸筋を収縮させて肋骨を持ち上げて胸郭を広げ、胸腔スペースを広げることで肺に酸素を取り込み、息を吐く時は呼吸筋を弛緩させて肋骨が下がって胸腔が収縮するのと同時に肺から酸素を外に排出している。ランの時にもふつうはこの胸式呼吸をしているわけだが、横隔膜を収縮させて胸腔の下壁を下方に引き下げて胸腔を拡張させる腹式呼吸の方が、上に示した胸式呼吸よりも次の2点で有利なのだという。
ひとつは、腹式呼吸の方が胸式呼吸よりもより多くの空気を肺で換気できるということ(3)。つまりスピードが速くなって呼吸数が増え呼吸が浅くなった時に、腹式呼吸だと深い呼吸ができるので、できるだけ多くの酸素を取り入れ、できるだけ多くの二酸化炭素を排出することができるという観点から、非常に有利なのだという(5)。
もうひとつは、胸式呼吸には「つい肩が上がってしまい、肩が上がると身体の重心に狂いが生じ、そうなると上半身と下半身のバランスが悪くなり、まっすぐ前進するためのエネルギーをロスしてしまう」(2)という欠点があるので、それが少ない腹式呼吸の方がランには適しているのだという。
ラン中に腹式呼吸が自然に出てくれば良いのだが、これにはやはり訓練が必要なようだ。実際にやってみた感覚としては、息を吸う時に腹を突き出すようにすれば良いように思う。まあこれも意識していないとつい胸式呼吸に戻ってしまうので、かなりの注意集中の持続が必要だ。私の場合はせいぜい時々気がついた時に腹を突き出して、呼吸の際に横隔膜を利用し、呼吸筋の労作の節約を目指すということになろうか。
(1) 小出義雄:「知識ゼロからのジョギング&マラソン入門」p38、幻冬舎、2002年。
(2) 金哲彦:「3時間台で完走するマラソン」p84~85、光文社、2006年。
(3) Mindy Solkin:”Every Breath You Take”;