世界経済にとって、最後のフロンティアとして期待されてきたアフリカ諸国。だが今、中国経済の失速と原油など資源安の直撃を受け、苦しんでいる。2月8日号日経ビジネス特集「世界を揺さぶる チャイルショック リーマンより怖い現実」では、影響が世界中に拡散していることをリポートした。アフリカ諸国の中でも、深刻さが際立つガーナの悲劇を詳報する。
ガーナでは、各地で頻発する計画停電に抗議するデモが繰り返されている。
ガーナでは、各地で頻発する計画停電に抗議するデモが繰り返されている。

 4年前からガーナに駐在する、ある日系企業の駐在員。昨年夏ころから、週末の食卓に異変が起きている。「鍋料理に使う野菜をどうしようか」。家族で頭を悩ませる。理由は、具材に使う輸入野菜の高騰だ。東京なら1玉200円程度の白菜が、ガーナでは現地通貨で約50セディ(約1500円)もする。

 キャベツ、ブロッコリーなど輸入野菜はいずれも、赴任した当時の約3倍に高騰した。理由は、下がり続けるガーナ通貨、セディの影響だ。対ドルレートは2013年に比べて、半値以下になった。この結果、輸入品価格は軒並み急上昇している。

 現在は値上がりは国内産品にまで広がっている。そのきっかけが、2015年末に政府が決めた増税策だ。2016年1月から、石油製品に対する課税額を上げる措置を決め、石油製品の価格は18〜27%と上昇した。苦しい国家財政を、政府が少しでも補てんするのが狙いだ。

 急上昇したガソリン価格の影響を受け、公共交通機関も年初から次々と運賃引き上げを決めた。輸送コストが増えた結果、その増加分を商品価格に転嫁する小売店が急増している。

 世界的な原油安にもかかわらず、ガーナは逆に石油製品価格が上昇するという考えられない事態が起きている。「アフリカの中でも比較的穏健なガーナ国民だから我慢しているが、他のアフリカの国ならば、とっくに暴動が起きている」と、ガーナに拠点を置く日本企業の担当者は言う。

トランシーバーのような巨大スマホがバカ売れ

 ガーナの首都アクラなどでは今、中国製のトランシーバーのような巨大なスマートフォンが売れている。謳い文句は「1度の充電で1週間の連続使用が可能」。その理由は、ガーナの主要都市で続く、慢性的な電力不足だ。政府は電力対策のため、12時間通電、その後24時間停電するという計画停電を繰り返している。

 ガーナでは、2007年にガーナ沖で石油鉱床が発見され、2010年から原油生産が始まり、アフリカの新興産油国の仲間入りを果たす。金、カカオ豆、木材が代表的な輸出品目だったガーナでは、その後原油が突出するようになった。

 資源ブームに踊ったガーナは、調達した資金を、インフラに対する新規投資やメンテナンスに回さず、公務員の給料引き上げやエネルギー補助金の引き上げに浪費した。そのツケの一端が、電力不足問題となって、ガーナ全体を蝕みつつある。

 IMF(国際通貨基金)や先進国などからのODA(政府開発援助)に頼らず、自力で財政管理をするために、ユーロ建ての国債も発行。旺盛な海外投資家と資源ブームの追い風に乗り、これまでに37億5000万ドルを調達した。しかし、原油価格の下落と中国失速に伴う資源価格の低迷により、宴は瞬く間に終わる。

 通貨の下落によって金利負担は増加し、財政状況は急速に悪化。困窮したガーナ政府は昨年、IMF(国際通貨基金)に緊急支援を要請している。ガーナだけではない。アフリカ最大の経済国であるナイジェリアも今年1月に世界銀行とアフリカ開発銀行に対し、35億ドルの緊急融資を要請。ザンビア、モザンビークなども資源安に苦しむ。

日本企業も被弾、アフリカ進出ブームに冷や水

 急激に悪化するアフリカ経済は、最後のフロンティアとして多くの企業が流れ込んでいたトレンドにも影響を及ぼしつつある。その象徴が、ネスレの方針転換だ。世界食品最大手のネスレは昨年、アフリカの中間層向けの事業縮小を決断。スイスの資源大手グレンコアも、市況悪化により昨年、ザンビアの鉱山を閉鎖した。

 日本企業も例外ではない。日本企業でも住友商事は1月13日、マダガスカルのアンバトビー・ニッケルプロジェクトに関して、市況の下落を主因に2015年度第3四半期(10~12月期)に約770億円の減損損失を計上すると発表した。

 東アフリカで中古車の輸入事業を展開するカービュー。昨年から、ザンビアやモザンビークといった資源国での中古車売り上げが減少し始めている。ケニアのナイロビで日本食チェーンを展開するトリドールも、昨年2店舗を開いたが、「夏以降、売り上げが鈍化してきた」と池光正弘ゼネラルマネージャーは警戒する。

 日本でも、数年前からアフリカ進出ブームが起きた。2009年以降の5年間で、進出した日本企業は35%増加した。ところが、急激な外部環境の変化によって、進出を延期・凍結させる日本企業が出てきそうだ。

 今年は夏にケニアで安倍晋三首相が主催するアフリカ経済開発会議が開催されるが、4年前の様相とは状況が変わる。「最後のフロンティアという、夢のような評価も今は昔。より現実に即した戦略転換があらゆる日本企業に求められている」とジェトロ理事の平野克己氏は指摘する。

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