「人手不足」が叫ばれる中、有効求人倍率の上昇が続き、転職市場は売り手市場になっている。そんな中、会社員などが副業で友人や知人に転職先を紹介する仕組みを提供して急成長している。

(日経ビジネス2017年12月18日号より転載)
友人として仕事の悩みを聞く
<span class="title-b">友人として仕事の悩みを聞く</span>
仕事の悩みを聞きながら、転職先を紹介。転職が決まると相談員は1件あたり15万円以上の収入を得られる(写真=稲垣 純也)

 ちょっと悩みを聞いてもらえませんか」。高橋卓さん(49歳)は後輩からよく相談を持ちかけられる。その多くは、今の職場の仕事内容や待遇に対する不満だ。高橋さん自身は世話好きで、後輩の悩みを聞いたり、友人同士を紹介したりすることが多い。

 実は10月からこうした何気ない相談が収入になっている。高橋さんは転職支援サービス、スカウター(東京・渋谷)に相談員として登録しているからだ。スカウターは、誰でもヘッドハンターになれるサービスを提供する。相談員が友人の転職相談に乗り、希望に合う求人企業に転職が決まった場合に、紹介手数料が支払われる仕組みだ。

2年で相談員が3000人に

DATA
SCOUTER(スカウター)
2013年設立
本社 東京都渋谷区宇田川町2-1
渋谷ホームズ1305
資本金 2億1334万円
社長 中嶋汰朗
売上高 2億円
(2018年9月期見込み)
従業員数 15人
事業内容 転職支援サービス
短期間で急成長を遂げている
●相談員と求人掲載企業の数の推移
<span class="title-b">短期間で急成長を遂げている</span><br />●相談員と求人掲載企業の数の推移
[画像のクリックで拡大表示]

 2016年1月にサービスを開始後、高橋さんのような相談員が約3000人に増加。求人掲載企業数は1000を超え、数百人が転職するなど成長している。

 一般的なビジネスパーソンは、簡単に人材紹介業を始められない。許可が必要で要件が厳しいのだ。500万円以上の資産、20m2以上の事業所、職業紹介責任者講習の受講が必須になる。

 スカウターはこの課題を解決する仕組みを作った。まず同社が高橋さんのような相談員と雇用契約を結ぶ。相談員は、スカウターが取得した有料職業紹介事業者許可を利用し、働いた分だけ給料を受け取る。転職相談の日報を書くと時給が発生し、相談を聞くためにカフェなどを利用すると活動費も支給される。時給が1000円、活動費は1回3000円だ。「お酒を飲みながら相談に乗ることが多い。その費用を負担してもらえるのはありがたい」(高橋さん)。このような方式での事業運営は、厚生労働省に認められているという。

 転職市場は活況だ。10月の有効求人倍率(季節調整値)は1.55倍と、43年9カ月ぶりの高水準となっている。人材紹介業の市場も15年度は前年度比13.5%増の2100億円(矢野経済研究所調べ)と6年連続で増加している。

 全国の転職者の数は16年に約306万人(総務省調べ)に達した。増加する転職希望者に対し、人材紹介各社はテレビCMや広告で認知度を高めようとしている。事業規模が大きくなればなるほど、広告費も相談員も増えるのが一般的だ。このため体力がある大企業による市場の寡占化が進んでいる。

 スカウターはそんな人材紹介業のビジネスモデルの変革に挑む。まず異なる層をターゲットにする。転職希望者ではなく、潜在的に転職したいと思っている人を狙う。日本で働く人は全国に6581万人(10月時点)。転職市場の20倍以上の大きな市場だという。

 さらにスカウターは正社員の相談員を抱えない。契約する3000人の相談員に彼らが働いた分だけ給料を支払う。潜在的な転職ニーズを掘り起こすにはプロよりも、先輩や友人といった信頼関係がある人の方が効果的だからだ。

「潜在的な転職希望者には優れた人材が多い」と語る中嶋汰朗社長(写真=稲垣 純也)
「潜在的な転職希望者には優れた人材が多い」と語る中嶋汰朗社長(写真=稲垣 純也)

 口コミでサービスを広げるため、広告費も大幅に削減できる。冒頭の高橋さんはSNS(交流サイト)で1000人以上友達がいて、幅広い人脈を持つ。高橋さんのような相談員が悩みを聞くことで転職市場へと自然と導くのだ。「潜在的に転職を希望する人には優秀な人が多い。どう掘り起こせばいいのかを考え、今のサービスを思いついた」(中嶋汰朗社長)

 高橋さんは後輩から相談を受けながら、スカウターのデータベースに希望する年収や業界、勤務地などを登録していく。スカウターの社内にいる専門の社員の支援も受けて、転職者の条件に合致しそうな企業を探す仕組みだ。

 スカウター経由で転職が決まると、同社は企業から転職者の年収の30%を成功報酬として受け取る。この中から転職者と相談員それぞれに年収の5%を支払う。例えば年収500万円なら、25万円ずつ支払われる計算だ。最高額はあるIT企業の事業部長に転職したケースで75万円だったという。

 相談員にとってもメリットは大きい。
ビジネスパーソンの間でも、副業への関心は高まっているが、収入は少ない場合が多い。エン・ジャパンの調査によると、副業経験者の月収は5万円未満が70%を占める。だが、スカウターの相談員は人脈を生かせば、短時間で高収入を得られる可能性がある。

副業を認める動きが追い風に

 ロート製薬やソフトバンクなど副業を認める会社が増えていることも追い風だ。厚労省は11月に企業が就業規則を決める際のひな型となる「モデル就業規則」を副業を認める内容に改正する案を有識者検討会に提示。これまで原則禁止としてきたが、事前に届け出を行うことを前提に「副業ができる」と明記した。今後、このような働き方が広がる可能性が高い。実際にスカウターの相談員は、副業を解禁した企業で働く社員の登録が増えているという。

 中嶋社長は大学時代に友人と人材紹介の会社を起業。当初は一般的な人材紹介業を営んでいたが、業績は伸び悩んだ。16年に現在のモデルに転換したところ、瞬く間に人気になった。

 18年には医師や看護師向けの転職支援サービスも始める予定だ。勤務が不規則で、転職したくても専門家に相談できる時間が少ない。一方、同僚や先輩とのつながりが深いため、チャンスが大きいと中嶋社長は考えている。

 副業や転職が広がると、企業にとっては人材を引き抜かれる懸念が高まる。企業には人材をつなぎとめる魅力を磨くことが求められている。

まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

初割実施中