「なぜ、キヤノンに独占交渉権を付与するという決定になったのかをご教示いただきたい。回答期限は3月17日午後3時」。
富士フイルムホールディングスは3月16日、東芝メディカルシステムズの売却に関し、東芝の室町正志社長宛に質問状を送付した。売却手続きに疑問があると訴え、キヤノンと最終合意を結ぶ前に回答するよう求めている。
東芝は3月9日、キヤノンに対して東芝メディカル売却にかかわる独占交渉権を付与し、3月18日までに最終合意を目指すと発表した。これに先だって行われた入札で、キヤノンは富士フイルムや外資系ファンドなどを退け独占交渉権を獲得した。東芝は「企業価値評価額や手続きの確実性等の観点から総合的に評価」(プレスリリース)したという。
株式売却益の計上タイミングは?
東芝は2016年3月期に7100億円の最終赤字に陥り、期末の自己資本比率は2.6%まで落ち込む見込み。3月末までに東芝メディカルの売却益を計上できれば、債務超過に陥るリスクが遠のく。
富士フイルムが疑問視しているのは、この売却益計上のタイミングである。質問状では、「(キヤノンによる東芝メディカルの)株式取得手続きが本年3月までに完了し、2016年3月期決算で売却益計上が可能とは考え難い」と指摘している。
背景には、独占禁止法の規定がある。国内売上高が200億円を超える企業が同50億円超の企業を買収する場合、公正取引委員会に届け出る義務がある。そして、公正取引委員会が届出を受理した日から30日間は、禁止期間として株式を取得できない。キヤノンによる東芝メディカルの買収はこの規定に該当するとし、「3月9日時点で、3月末までに株式の取得が完了することを前提とすることに疑問がある」(質問状より)とした。
必要な条件を満たせば、禁止期間の短縮は可能だ。だが、独占禁止法に詳しいのぞみ総合法律事務所の大東泰雄弁護士は「3月中に売却手続きを終わらせるのは相当難しいだろう。日本の公正取引委員会はクリアできても、米国や中国の規制当局が短期間で審査を終わらせるとは考えづらい」と述べる。
「特別な対応策があるのか」
富士フイルムは「重要地域における必要な競争当局のクリアランス(認可)取得後のクロージング時に、東芝メディカルの売却益を計上すべきだ」と主張している。そして、提示した複数の疑問に対し、「東芝がどう認識しているのか。特別な対応策があるのか、ご教示いただきたい」と求めた。
富士フイルム広報は本誌の取材に対し、「期限までに誠意ある回答があると期待している」と述べた。東芝の広報は16日夜、「当社からコメントすることはない」としている。
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