一時大いに流行したビジネスが、しばらくすると廃れてしまうのは、シリコンバレーでよく起こることだ。最近、ふと気がつくとすっかり下火になっていたのは「フラッシュセール」のサイトである。
フラッシュセールとは、8時間や24時間といった一定の短い時間の間に商品を激安価格で販売すること。アメリカでは、その手のサイトがファッション、アクセサリー、インテリア小物、レストランやエステのクーポンなど多様な業界に登場した。「Groupon」や「Gilt Groupe」「Rue La La」「Fab」「Zulily」「HauteLook」「MyHabitat」「One Kings Lane」などが人気を呼んだサイトだ。
一時は9億ドルの評価額が3000万ドルで売却
ところがここ1、2年でその多くが、一時の人気と企業評価額の高さはどこへやら、という感じで、二束三文で売却されているのである。ごく最近では、おしゃれなインテリア小物のサイトだったOne Kings Laneが3000万ドルで米Bed Bath & Beyondに売却された。
One Kings Laneは、かつてユニコーンにも手が届く9億ドルの企業評価額を付けたこともある。ちょっと普通では見つけられないようなクッションやラグ、アンティーク調の額縁やバスケットなど、本物志向のセンスのいい多数の品物が毎日サイトに並んでいて、私も2、3度買ったことがある。買わなくても、毎日フラッシュセールの商品を見ているだけで結構楽しめたサイトだ。
One Kings Laneは2009年の創業以来、投資家から5度の投資(5ラウンド)、総額2億2500万ドルを調達している。それが3000万ドルだというのだから、本当にひどく安値で売り払われたことになる。
同社の共同創業者が、ソーシャルゲームの米Zyngaの共同創業者Mark Pincus氏の妻であることも話題になっていたが、それでも大成功を収めることはできなかった。買収したBed Bath & Beyondは、石けんやシャンプー類などごく一般的なバスルーム製品を売る小売店チェーンだ。
インテリア業界ではFabも売却された。Fabはモダンデザインの部屋にぴったりなアイテムが並ぶサイトで、ユニークな家具、キッチン用品、文房具、寝具などが見つかる場所だった。
Fabを買収したのは、アイルランドを拠点にする企業で、中国での請負製造をコーディネートするPCH Internationalだ。PCHは、サンフランシスコでハードウエア・アクセラレーターの「Highway 1」を経営することでも知られている。Fabは、11ラウンドで総額3億3600万ドル以上を調達していたが、売値は1500万ドルだったと言われている。投資家の中には、日本企業も数社含まれていた。
これら以外にも、Guilt GroupeとZulilyも売却されている。前者は有名デパートの親会社が、後者は大手通信販売の米QVCが買収した。既存の小売企業にとっては、フラッシュセール・サイトを持つことで、新商品をテストする機会を得たり、補完的な収入源が得られたりする。しかしフラッシュセール・サイト自体のビジネスモデルは、もう通用しないと言われている。
景気低迷時は、売れ残り処分で人気
理由はいくつかある。フラッシュセール・サイトは、景気低迷時に売れ残った多量のブランド商品をさばくのに役立った。しかし景気がいくらかでも戻った現在はその必要がないということ。また、同様のサイトが増え過ぎて、新鮮味が無くなったこともある。
さらに、消費者はみんなが欲しがるようなブランド商品よりも、隠れた手づくり風の商品を求めているという、趣向の変化もある。それに何と言っても、いくら安くても毎日買物ばかりしていられない。フラッシュセールは、「得した感」や「勝った感」がユーザーを夢中にさせるのだが、意外なことにそんな気持ちは長持ちしないのだ。
今後は、次の安売りの仕組みが求められているという。だが、買物をしたくない、モノを持ちたくないという現在の風潮の中で、それは簡単ではなさそうだ。
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