日経ビジネスは8月3日号の特集「社畜卒業宣言」で、バブル入社世代の意識を調査した(写真:(c)Bohemian Nomad Picturemakers/CORBIS/amanaimages)
日経ビジネスは8月3日号の特集「社畜卒業宣言」で、バブル入社世代の意識を調査した(写真:(c)Bohemian Nomad Picturemakers/CORBIS/amanaimages)

「会社のキャリア支援を受けると決めてから、体調がすぐれません。私はもうすぐ退職するので、これからは休暇を消化していきます」

 関東地方が梅雨入りしてほどなく、大手電機メーカーのある部署で働く社員たちは一斉にこんなメールを受け取った。差出人はバブル前夜に入社した、50代前半の部長だ。メールでの「宣言」通り、それまで普通に働いていた部長はその日からほとんど、オフィスに姿を見せなくなった。

 どうやら数カ月前に、会社から転職支援プログラムを受けるように打診されていたようだ。「景気が良い今のうちに『次』を考えるほうが、あなたにとっても幸せだ」と、人事に諭されたらしい。会社の業績は悪くない。今決めると割増退職金の金額がかなり良いみたいだ、という噂はあっという間に部署中に広がった。

 「転職自体は個人の選択だからいいけれど…」と、この部署で働く中堅社員は言葉を濁す。問題は、引き継ぎがほとんどないままに、部長が突然いなくなってしまったことだ。バブルの絶頂期に入社した40代後半の課長たちは動揺し、その日から応接室にこもって相談ばかりしている。部下のいない担当課長まで一緒に、一体何を話しているのか。まさか、身の上話じゃないよな。「とにかく様々な業務が、遅々として進まなくなった」

中堅・若手層の忠誠心も崩壊しかねない

 細かい数字などをぼかしているが、これは最近、ある企業で本当にあった出来事だ。経営再建中の企業ではなく、黒字を出している日本の会社だ。勝手な部長だと思う反面、長年、滅私奉公して働いてきた部長の気持ちが萎えてしまったのも、わからなくはない。ただこの話を聞いているうちに、もう一つ気がかりだったことに、確信を持つようになった。登場人物たちが皆、「負の連鎖」に陥っていることだ。

 流れはこうだ。まず、若き日にバブル景気を謳歌した部長が思いがけぬ「肩たたき」に合い、会社に対する忠誠心を一気に失う。次に、先輩の切ない姿を目の当たりにした「バブル入社組(1988~1992年入社)」の心にも不安がもたげる。そもそもの採用人数が多く、ポストと人数のギャップの大きさをすでに痛感している世代のためだ。早期退職・転職支援の対象を「45歳から」としている企業は多く、年齢的な現実味もある。

 バブル入社組の不安によって、どんよりとした空気が部署全体を覆う。管理職がそんな状況なので部署としてのパフォーマンスが下がり、中堅・若手の担当者たちはそれに苛立つ。彼らの冷たい視線が再び、バブル入社組のモチベーションを低下させる。有給休暇なのか、さぼっているだけなのか、相変わらず部長は来ない。会社にとっても、マイナスばかりだ。

 それゆえ、多くの企業の人事部では「バブル入社組(と、その少し上の世代)にやる気を持ち続けてもらうこと」に相当、神経を尖らせている。日経ビジネス8月3日号特集「社畜卒業宣言」の連動コラムでも触れたが、社員の6人に1人いるバブル入社組にやる気を維持してもらおうとするあまり、「なかなか人事制度の改革に取り組めない」という企業も、1社や2社ではなかった。

バブル入社組は裏切られたと思っている?

 ところで、多くの企業が懸念する「モチベーション」なるものを、今のバブル入社組はどのぐらい持っているのだろう。

 編集部では8月3日号の取材に際して、7月9~17日まで日経ビジネスオンラインの読者に「仕事と会社に関するアンケート」をウェブで実施した。全世代で782人、バブル入社組では154人から有効回答を得たので、そのデータをもとに「バブル入社組のモチベーション」について考えたい。

 編集部はまず、「会社に裏切られたことはあるか?」と率直に聞いた。処遇や昇格などで、入社時に抱いていた所属企業の姿と実際の姿にギャップはあるかを問うたのだ。その結果は、バブル入社組では「ある」が59%、「ない」が41%だった。

 モチベーションはすでに落ちているのでは、と不安になるが、全体でも「ある」が56%、「ない」が44%だった。純粋な割合だけ見れば、バブル入社組で「裏切られた」と思う人は全体平均よりやや多い程度だ。ちなみに、回答してくれたバブル入社組の属性は88%が男性、12%が女性。約8割が結婚しており、約6割に子供がいる。6割超が関東圏に住んでおり、平均年収は882万円だ。

会社に「裏切られた」と感じているのは59%。全体平均よりやや多い。
会社に「裏切られた」と感じているのは59%。全体平均よりやや多い。
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 ただ、裏切られた内容を細かく聞いていくと、いくつかの項目で他世代との違いが目立つ。

 全体平均よりバブル入社組の回答が目立つのは、「昇進・昇格が期待通りにできなかった(出世のギャップ)」「人事・賃金制度が変わり定期昇給がなくなった、あるいは給与が大幅に減った(制度変更のギャップ)」「リストラ・雇用整理の対象になった、または、なりそう(雇用のギャップ)」の3項目だ。これらの項目で、理想と現実のギャップが大きく、バブル入社組のモチベーションを押し下げていると考えられる。

出世、制度変更などに会社の裏切りを感じるバブル入社組
出世、制度変更などに会社の裏切りを感じるバブル入社組
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 ちなみに「出世」という観点では、取材の途中で、バブル入社組の処遇対策として部下のいない(=管理職ではない)担当部長や担当課長が増えているという話を聞いた。ウェブアンケートでも「経営者・役員級」「部長級」「課長級」だと回答したバブル入社組が62%いた一方で、「管理職だ」と答えたのは55%と7ポイントのギャップがあった。部下がいなくても重要な任務もあるため、これだけで良し悪しは判断できないが、部下なし部長・課長はそれなりに一般的のようだ。

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