2月16日、東急グループの食品スーパー、東急ストアの本社に、東急電鉄のリテール事業担当をはじめ、グループの流通担当者、約50人が集まった。「地域との共生・地域に根差した施設運営(タウンマネジメント)」をテーマに、グループ各社の取り組みを紹介し、情報を共有し合うためだ。
この「東急リテール総支配人会議」は昨年10月に初めて実施。2回目となった今月16日は、田園都市線たまプラーザ駅直結の複合商業施設「たまプラーザテラス」(横浜市)や「ながの東急ライフ」(長野市)での取り組みが代表例として紹介された。参加者はその後、グループの本拠地である東京・渋谷でのタウンマネジメントの手法について、グループディスカッションを行った。
受験生向け合格祈願祭も
たまプラーザテラスでは夏にラジオ体操、今月末には天然木のお雛様に好きな色を塗ってオリジナルの雛人形を作る催しなど、子供向けのイベントを多く開いて両親、祖父母を含めた3世代での来場を促す。ながの東急ライフでも今月末、地元神社の宮司を招き、受験生向けの合格祈願祭を開く。他の商業施設でも地域密着型のイベントを開くことは多いが、受験生向けの合格祈願祭はほとんど聞いたことがない。そのきめ細かさと、目の付け所の良さに驚いた。
東急リテール総支配人会議は、こうした取り組みをグループ各社で応用し、集客につなげることを目指す。その根底にあるのが、今の東急グループが掲げる経営形態「楕円型経営」だ。
●東急グループの組織と概念
多くの企業では親会社がグループの頂点に位置し、その下に子会社や孫会社がぶら下がる「短冊型」の組織体系をとる。これは親会社に全ての情報を集約する点では非常に効率的だ。だがグループ会社の情報が一度親会社を通ってから別のグループ会社に回るため、情報伝達に時間がかかりやすい。情報が親会社を通る間に、親会社からの横やりが入りやすい欠点もあった。かつての東急グループも、電鉄を頂点にした短冊型だった。
東急電鉄が新たに作り上げた楕円型の組織は、東急電鉄を核に位置付け、周辺にグループ企業を配する。これにより、東急電鉄と各グループ会社の距離を縮めることに成功した。グループ各社が東急電鉄を介さずに、直接連絡・情報共有もできる仕組みを整えた。
だが、これでは中核の東急電鉄に情報が入りにくくなり、グループ経営に支障をきたすのでは――。私はそう懸念したが、野本弘文社長は「グループ会社同士で直接やり取りしてもらって全然構わない、それがインターネット時代の組織論だ」と話した。
情報分析・対応のスピードを上げる
野本社長の主張はこうだ。ネット時代になると、世の中のあらゆる情報がほぼ同時に出回る。その中で他社との競争に打ち勝って成長を続けるには、手にした情報をいかに早く分析して、適切な対策を講じるかに尽きる。そのためには、分析や対応策をいちいち親会社を介してグループ会社で伝えあっていては出遅れる。時には親会社も通さず、縦横無尽に連絡を取り合って物事を進めてほしい――。
東急グループという楕円を広げて全体の成長につなげるためには、円周に位置するグループ会社の役割も重要。東急電鉄は、時にそれらをサポートする立場も担うという理屈だ。
こうした組織論になったのは、野本社長自身の経歴によるところが大きいだろう。グループとしてネット接続サービスを始めた1990年代から担当部署に籍を置き、ケーブルテレビ大手、イッツ・コミュニケーションズ(イッツコム)社長として経営再建を果たすまで、10年以上にわたりネット関連事業に携わった。ネットの普及がもたらす時代の変化をグループの誰よりも実感し、それに対応した適切な手を打つ必要性を感じていたのだろう。
楕円型経営は着実に成果を上げつつある。東急ストアでは東急百貨店のバイヤーが選んだ高価格帯ワインの専用コーナーを用意。イッツコムでは電力小売り会社、東急パワーサプライの電気サービスとのセット利用で、各種サービスの月々の利用料金を引き下げるサービスを始めた。店舗での売り上げや、契約数の伸びという形で表れてきている。東急グループでは今後も様々な連携策を打ち出そうとしている。
創業90年を過ぎ連結売上高で1兆円を超えるなど、歴史と規模を兼ね備えた東急電鉄を中核とする、東急グループの大胆な経営転換。この取り組みは他の企業でも大いに参考になり得るだろう。
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