今回は、みなさんにも一緒に考えていただきたいある“事件”を取り上げる。

 テーマは、男と女の違い…。いや、違う。男のプライドの境界線?とでもいうのだろうか。

 実は、今年に入ってから、知り合いの女性2人が会社を辞めた。どちらも私のフィールドインタビューに、以前、協力してくださった方で、会社も業種も別。共通点は、二人とも“女性初”の執行役員ってこと。

 そんな2人が辞めた理由とは……、「イジメ」だ。

 いい年をした男性からのイジメに苦悩した、50代の優秀な女性2人が、相次いで辞めたのだ。

 50を過ぎたオジさんのイジメは、「マジ? そんなことするんだ」とショックを受けるほど幼稚なモノで。ひとりは心身のバランンスを崩し、もうひとりは「女らしくしろ」と上から言われキレた。

 っと、ここでアレコレ説明するより、実際の語りの方がよりリアルに伝わると思うので、先週、お会いできた前者の女性(現在自宅療養中……といっても、もうお元気になられてます)の話をお聞きください。

「まぁ、そのあとのイジメは凄かったですよ」

 「最初も苦労したけど、最後もこんなカタチで終わるのかと思うと…、なんか情けなくて。結局、私は何だったんだろう?って。本当、自分が情けないです。

 河合さんにインタビューしていただいたのが、2年半くらい前ですよね? 私は30年ぶりの女性の執行役員でしたが、変化が起きたのは、業界紙の取材を受けてからです。ちょうど女性活用に注目が集まっていた時期で、記事を見た他社から講演を頼まれたり、他のメディアで取り上げられたりと、外から注目されて。会社もあとに引けなくなったのか、私を盛り立てなくちゃいけないみたいな空気になってきて。その頃からです。イジメがエスカレートしてきました」

 「エスカレートしたってことは、既にイジメがあったってことですか?」(河合)

 「はい、ありました。役員になってからですね。でも、取るに足らないイジメだったので、スルーしていました。ところが、“その後”のイジメは業務に支障をきたすモノになった。ある日、外出していたら部下から慌てて電話がかかってきて、『役員会議に出ないことを社長が激怒してる』って言ってきたんです」

 「実は、私、その会議があることを知りませんでした。役員会があるときは、事前に会議資料が回ってくるんですね。見たら判子押して、次に回すといった感じの。なんかアナログですよね。でも、そういう地味で封建的で、古い業界なんです。

 つまり、私は飛ばされていた。しかも故意に。誰がやっているかもわかりました」

 「なんか……、すみません。話したくないことを無理に聞きだしてしまったようで。でも、経営会議に出席する人が、そんな幼稚なことをするのかなぁって、正直信じられなくて。その人は前から、そういった意地悪をしていたんですか?」(河合)

「自分の実力を過信するな!」って

 「私も驚きました。しかも、彼は長年、私をサポートしてくれていた人で。仕事も教えていただきましたし、部長に昇進するときも、その人が反対派を押しきってくれたからです。

 本人は私が気付いてると思っていないので、表面上はニコニコしているし、人間不信になりました。ただ、その段階ではまだ私も頭にはきたけど、いじめられてヘコむほどじゃなかった」

 「決定打は、会議です。……ああ、これを話すと……うちの会社の恥をさらすようになってしまうんですけど、どこの部署も厳しいし、誰も責任をとりたくないので、会議では足の引っ張り合いみたいなところがあります。それで、あまりにも非生産的な議論ばかりするので、自分の意見を言って、ある役員とちょっとバトルみたいになった。そしたら『自分の実力を過信するな!』って、怒鳴られたんです。最初は何を言われているのか意味がわからなくて……」

 「つまり、女性活用の象徴に過ぎないってことですか?」(河合)

 「まぁ、そういうことです。でも、それだけならまだ、なんとか無視できた。許せなかったのは、私が今まで、いかに独善的にやってきたか、どれだけ周りが感情的な振る舞いに迷惑してきたか、を言い始めて……。『周りを否定ばかりして、どれだけ男性部下たちのプライドを傷つけてるのかわかっているのか』って。そう言われてしまった。しかも、周りは無言で。むしろ、『よくぞ言ってくれた』って感じでした」

「気にしなきゃいいって。でも、倒れてしまった」

 「えっと、それを言った人と、会議の資料をわざと回さなかった人は、同じ人ですか?」(河合)

 「いいえ、違います。それが余計にショックで。つまり、四面楚歌です。そこで私の中の何かが狂い始めた。ナニかが、ブチッと切れたんです。会議のあと、私、部下たちのいる現場で、倒れちゃったんです。

 1週間ほど家で会社を休んで、家にいたんですが、なんか倒れたことで吹っ切れた。もういいかなって。こんなとこにいてどうする、って。だって、今まで散々リーダーシップがあるとか、決断力がある、って評価されてきたのに。それを独善的だの、感情的だの言われて、私はどうすりゃいいんだ?って感じでしょ? なので退職届けを出した。私はずっと女であることを言い訳にしたくないと思ってやってきました。でも、結局最後は、女……。ええ、女。そう女だった。そういうことです」

 最後は、女―――。

 彼女のこの言葉の真意は、何だったのだろう? それを、私は問いただすことができなかった。なんか、その行為自体が彼女を追いつめるような気がして。いや、私自身が、聞くのが恐かっただけかもしれない。立場は違えど、私も、女だから。とにかく、それ以上は突っ込みたくなくて。すみません。相当、情けないですけど、とにかくそれ以上は聞けなかったのである。

 “語り”を紹介するのは辞めたうちのお一人だが、どちらも男女雇用機会均等法世代で、さまざまなハードルを乗り越えてきたパイオニア的存在である。

 現場でひとつひとつ実績を積み上げ、自己啓発にいそしみ、結果的にヒエラルキーを上ってきた有能な人。並大抵の努力ではなかったことは、容易に想像できる。

辞める決意につながった役員の一言

 もうひとりの女性も、似たような「幼稚なイジメ」の連続に嫌気がさして辞めたわけだが、決定打となったのは、

 「少しは女らしくしろよ」

という一言だった。役員会議で役員のひとりが、わざと聞こえるようにつぶやくこの言葉を聞いたときに、辞めよう! と決意したのだという。

 彼女たちの決断に、「そんな些細なことで辞めるのか?」と疑問に思う人もいるかもしれない。でも、どんなにたわいもないことであれ、積み重なると心がひずむ。そして、ミシミシと音をたてて弱っていく心に、きっかけとなる一撃が打たれた途端、切れる。

 “ブチッ”という音とともに、「耐えている自分」がアホらしくなり、決意する。「もう。いいや」と。“解放”を選択するのだ。

 私は組織の人間でもないし、毎回出なきゃならない会議があるわけでもない。でも、時折「だから女は」とか、「感情的だ」とか言われることがあって、その度にエラく、へこむ。自分ではただただきちんと仕事をしているだけなのに、なぜ、矛先がそこに行ってしまうんだろう? と。自分ではどうやったって変えることのできない、“自分”への否定に、どうしていいのか分からなくなってしまうのだ。

 もちろん気にしなけりゃいい話だし、スルーすることも多い。それでも、「なんでやねん」というやるせなさが、ゼロになることはない。

“会議アレルギー”を示す女性マネジャーが半数以上

 

 いずれにしても、「女と男」という区別を、相手の息の根を止める切り札のごとく使う男性がいて。それが「経営会議」の場で行われたことに、彼女たちはショックを受けた。彼女たちにとって、経営会議は自分の存在意義を示す極めて重要な場。そこで「ひとりの人間=役員」としてではなく、「女」として扱われたことが悔しくてたまらなかったのだ。

「経営会議ほど、自分の意見を言いづらい場所はない」

 こう訴える女性たちは、実に多い。といっても、日本ではない。女性初の大統領が誕生するかもしれない、米国である。

 1年ほど前、「Woman, find Your Voice」というエッセーが、米国で話題になった。それは「フォーチュン・グローバル500」にランクインした企業の女性マネジャー270人に行ったアンケート結果をベースに執筆されたもので、回答者の半数以上の女性たちが、会議アレルギーを示したことに、多くの人が共感した。つまり、「経営会議」という場が女性マネジャーに鬼門であると、女性も男性も認識していたのである。

 一方、エッセーには女性たちが勤める企業の男性幹部たちへのインタビュー結果も示されていて、彼らは経営会議の女性たちの振る舞いについて、

「女性は反論されると自己弁護に走る」
「女性はすぐに動揺する」
「女性は話し方が論理的でない」
「女性は意見されると黙る」

といった具合に、“女性は○○”を連発した。

“女”の使い方が巧みだった“鉄の女”

 米国は女性が活躍している国というイメージがあるが、実際にはCEOの数は欧州に比べると少ないし、「なぜ、女性はリーダーになれないのか?」といった趣旨の特集が度々雑誌で組まれるなど、依然として課題が多い。

 例えば、女性であるヒラリー氏が権力を握れるかどうかを分析した記事は、彼女が出馬を表明してから何本も寄稿されていて、特に、ニュースウィーク誌に掲載された特集は面白かった。

 特に興味深かったのが、あの“鉄の女”として知られるサッチャーさんの番記者が書いた記事だ。なんと、サッチャーさんの武器は“女”。彼女は、ひたすら“女らしく”振る舞うことで、男性たちを巧みに盛り立て、取り入り、“女“を全面的に利用することが彼女の処世術だったとしているのだ。

 サッチャーさんがフェミニストに一切興味を示さなかったのは知っていたけど、あのサッチャーさんが女性らしらさをアピールし、実に細かく男性たちを気遣い、ときに母親のように寄り添ってていたとは知らなかった。

 そして、もし、今の女性たちが、かつてのサッチャーさんのように振る舞ったら……。おそらく非難される。それこそ「女を使ってる」だのなんだのと、スキャンダラスに報じられ、尾びれ背びれが加わり、あることないこと言われるに違いない。だって、ノースリーブや少々短めのスカートを履いただけでも、いろいろと言われてしまうわけでして。

「男性部下たちのプライドを傷つけていることがわかっているのか」
「女らしくしろよ」
という男性たちは、サッチャーさんのような“女らしさ”を、求めているのだろうか?

 もし、そうだとしたら……今の女性たちはどう振る舞えばいいのだろう? 申し訳ないけど、私には気の利いた答えが見つからないのである。 

 ただ、ひとつだけ確かなことがある。それは女性であれ、男性であれ、「自らの存在をないがしろにされた」と感じたとき、幼稚な振る舞いや言葉で相手を攻撃してしまうことがあるということ。つまり、今回の事例も「男と女」の問題として捉えると、出口のない廻廊に迷い込んでしまうのだが、「コミュニケーションの問題」として考えると、何がしかの答えが見つかるんじゃないかと。 

 例えば、「ずっとサポートしてくれていた男性」は、ただただ「ありがとうございました。○○さんのおかげです」という一言が欲しかっただけかもしれない。

 「自分の実力を過信するな!」という言葉の裏には、「もっと俺の意見にも耳を傾けてくれよ。別にキミを否定してるわけじゃない」という気持ちがあるのかもしれない。

 「少しは女らしくしろ」という“つぶやき”は、「もっと自分たちに敬意を示して欲しい」って意味だったのかもしれない。

 そう感じた相手がたまたま「女性」だったから、「女は○○」的発言になったけど、もし、その相手が「高卒」だったら、「高卒は○○」となり、「外国人」だったら、「外国人が○○」となり、「営業出身」だったら、「営業しか知らないクセに」と経理出身の人は責めたてることだろう。

押すだけじゃなく、時には大きく引いてみる

 人は自分の存在価値を踏みにじられるような行為をされてまで、理性を保てるほど強くはない。そして、押さえつけていた情動がひとたび閾値(いきち)を超えた途端、幼稚な行動を繰り返す弱さもある。

 今回の男性たちのイジメや、「女は○○」という発言は、当然受け入れられるものではない。だが、もしリーダーになる女性たちが、“鉄の女”に見習うとするなら、押すだけじゃなく、大きく引いて謙虚すぎるほど振る舞うことが、処世術になるのではあるまいか。

 松下幸之助さんは、どんなに批判的な意見に対しても、必ず「そうですね。ええ、そうですよね」と相手を受け止め、謙虚な姿勢を示すと、長年関わってきた人から聞いたことがある。だが、最後はどういうわけか相手に、「自分の意見」を受け入れさせるのだそうだ。

 ついつい私も、「女性たちの周りで起こる問題」を、女と男の窓から見てしまいがちだが、今、問題とされていることも、「人と人のコミュニケーション」の問題として捉えると、意外な突破口が見つかるように思う。

 さて、男性たちは、この意見をどう受け止めてくれるのでしょうか?  

この本は現代の競争社会を『生き勝つ』ためのミドル世代への一冊です。

というわけで、このたび、「○●●●」となりました!

さて、………「○●●●」の答えは何でしょう?

はい、みなさま、考えましたね!
これです!これが「考える力を鍛える『穴あけ勉強法』」です!

何を隠そう、これは私が高校生のときに生み出し、ずっと実践している独学法です。
気象予報士も、博士号も、NS時代の名物企画も、日経のコラムも、すべて穴をあけ(=知識のアメーバー化)、考える力(=アナロジー)を駆使し、キャリアを築いてきました。

「学び直したい!」
「新商品を考えたい!」
「資格を取りたい!」
「セカンドキャリアを考えている!」

といった方たちに私のささやかな経験から培ってきた“穴をあけて”考える、という方法論を書いた一冊です。

ぜひ、手に取ってみてください!

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