今年も再生可能エネルギーへのバッシングが強まる時期がやってきた。

 10月15日、ドイツの送電会社4社は、2014年の再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)にともなうサーチャージ(賦課金)の金額を発表した。これは、毎年の恒例行事である。

 来年は今年に比べて18%増の1キロワット時あたり6.2セント(約8.3円)になる。ちなみに2013年のドイツの家庭向け電力料金は1キロワット時当たり28.6セント。このうち再エネ賦課金は5.3セントだ。

 10月11日には、再エネ賦課金の金額の公表に先んじて、欧州の大手電力10社のCEO(最高経営責任者)がずらりと顔を揃えて会見を開き、「FITは廃止すべき」と訴えた。9月末にはドイツの電力会社などで構成する独エネルギー水道事業者連盟(BDEW)も、FITによる負担増を指摘する声明を出している。

 ドイツがFITを導入したのは2000年のこと。日本はドイツに遅れること12年、昨年ようやくFITを導入したばかりだ。いわば日本にとってドイツは再エネ政策の先生だ。そのドイツの制度が揺らいでいては、日本の制度設計へ不安を感じる声があがるのも、やむを得ないことかもしれない。

 確かにドイツ国内では、電力料金の引き上げに繋がるFITに対して批判の声がある。ただし、欧州の電力会社がこぞってFIT廃止を求めているからといって、制度そのものが失敗かと言えば、そうではない。

経営悪化に苦慮する欧州電力会社

 こんなデータがある。2005年のドイツの電力市場は、大手電力4社が約80%のシェアを占めていた。ところが、2011年にはこれが約70%にまで下落しているのだ。シェアを奪ったのは、再エネを手かげる事業者たちだ。1社ごとの規模は決して大きくないが、FITの追い風に乗って電力市場での存在感を高めつつある。

 ドイツはFITの下、再エネは一定期間、固定価格で電力会社が買い取ることが義務付けられている。ただし、買い取りに伴うコストは再エネ賦課金として広く国民が負担する。電力会社が再エネに投資すれば、新興の発電事業者と同じく、再エネによる収益を得ることができる。ところが、大手電力会社の再エネ投資はさして増えることなく、現在に至っている。

 大手電力会社にとってみれば、既に投資済みの原子力発電所や火力発電所の稼働率を高め、収益をあげることの方が重要だったのだろう。だが、こうした戦略も、昨今の政策変更によって暗雲が立ち込めている。

 ドイツが2022年までに脱原発を果たす方針を固めたことで、電力会社は巨大な初期投資と引き換えに手に入れたはずだった原発による電力をあきらめざるを得ない状況に陥っている。さらに、火力発電も風向きが悪い。

 世界銀行を筆頭に欧米の政府系金融機関は今年に入って、二酸化炭素(CO2)排出量の大きい石炭火力発電所への融資を停止または削減する方針を打ち出し始めており、石炭火力の新設は世界的に難しくなりつつある。加えてドイツでは、再エネによる発電量の変動を調整するために、大手電力会社の火力発電は電力需要の小さい時間帯でも稼働させることを余儀なくされ、効率が悪い。電力市場での販売価格の低下などが引き金になって、独エーオンやRWEなどドイツの電力大手は今夏、石炭火力や天然ガス火力発電所を閉鎖する方針を明らかにしている。

 原発や火力発電を中心にした電源ミックスを死守してきた大手電力会社の収益は悪化している。RWEのように株主への配当を減らす電力会社も出てきている。「欧州ではステークホルダーが電力会社にビジネスモデルの変革を求め始めており、電力会社の経営を考えると再エネを増やすことが欠かせない」とある専門家は説明する。

 電力会社が今回のようにFITの見直しや廃止を求めるのは当然の流れだろう。この構図自体は日本も同じだ。「FIT導入前には家庭へのコスト負担増を理由に、再エネへのネガティブキャンペーンが繰り広げられた。日本の電力会社にとっても避けたい事態だからだ」(電力業界関係者)。

電気料金が上がっても再エネ賛成のドイツ人

 ドイツのエネルギー議論が成熟していると感じさせられるのは、電力会社がFITへの反発を強める反面、多くの国民は再エネ導入を推進することに理解を示していることだ。たとえば、ドイツの消費者団体VZBVが今年実施した調査では、82%のドイツ人が再エネに舵を斬ったエネルギー政策は正しいと答えている。先月のドイツ連邦議会選挙でも、主要政党はいずれも再エネ推進を表明した。

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