読者のみなさん、明けましておめでとうございます。月に一度の読書コラムです。仕事始めはいかがでしょうか。

 年の始めで気持ちも改まっていることでしょう。仕事が始まると、ついつい、「今月の目標を達成しよう」とか、「今期の目標はこうしよう」とか、短期的な目標にばかり思いをめぐらせがちですが、お正月ぐらいはもう少し、長期的な視点で、いろいろなことを考えてみてはいかがでしょうか。

 考える時に何が大きな力になるかと言えば、正しい知識を得ることです。知識を咀嚼して、自分の頭で考えて、自分の言葉でまとめてアウトプットしてみなければ、物事を本当に考えたことになりません。そんな気づきをもたらす良書を紹介します。

トンデモ論を排した、正しいデータと誠実さ

 新年にお薦めの一冊目は、東京大学大学院理学系研究科教授の早野龍五さんと糸井重里さんによる『知ろうとすること。』です。

 東日本大震災によって引き起こされた東京電力福島第一原子力発電所の事故。情報が錯綜する中で、事故直後から専門家としての立場からツイッターで情報発信を続けた早野さんと糸井さんがツイッターを通じて知り合いました。それから3年、改めて事故を振り返った本です。

 ベンチャー企業経営をする筆者のもとにも、多くの情報が寄せられました。中には、放射能汚染のリスクが高いから、従業員を東京からすぐ避難させたほうがいいと助言してくれる人もいました。筆者が通常通りの業務を続けようと決断した最大のよりどころになったのは、実は早野先生のツイッターでした。本書を読んで、この国にはまだたくさんの希望がある、と心を洗われました。「正しい方を選ぶときに考え方の軸になるのは科学的な知識」「(トンデモ論に対しては)正しいデータを出して、誠実でゆるぎない態度で撃破する」その通りです。

 知ろうとすることは本当に重要です。それは専門家にとっても同じことです。特に、未曾有の出来事に直面したときこそ、謙虚に現実を見極める姿勢が求められます。早野さんは本書でこう言います。「端的にいえば、自分が研究したり、発言したりする分野において、過去に何が起きて、いまどこまでがわかっていて、どこからがわかってないかというようなことは、勉強しなくちゃいけない。それは必須です」。

 『知ろうとすること。』を読んで、次に自分の国の風景を見直してみたくなったら、『日本景観論』を読むべきです。

 この本は、日本の風景を愛してやまない米国人のアレックス・カー氏が、本来の美しい日本の自然や景観が、いかに損なわれているかという事例を気づかせてくれる本です。若干、単なる美的感覚の違いではないか?と思われる記述もありますが、日本の景色を愛してやまない著者の情熱と愛情があふれており、今の街の風景にすっかり適応してしまった私たちには分からない視点がたくさん得られて、敬意を払わずにはおられません。

 普段は意識せずに接している、本当はもっときれいかもしれない身の回りの「景観」について、じっくり考えてみてはいかがでしょうか。

フレームワークで「美しさ」を捉える

 さて、「美しい景観とは何か」について目を開いたら、『プラスチックの木でなにが悪いのか』を読んで、景観論をもう少し掘り下げてみましょう。

 この本は「環境美学入門」とうたっています。たとえば「自然」といった時、自然という概念の正体は一体何か、果たして「美的な経験」とは何か、について考察する本です。先ほど触れた、「もしかして、単なる美的感覚の違いなのでは?」という疑問についても、この本が提示してくれる「美的フレーミング」という概念を用いて、考えてみてはいかがでしょう。少し硬派な本ですが、とても読み応えがあり勉強になります。

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