【1】はじめに

 

 連日の猛暑でグダグダになっていたが、ここに猛烈な台風が来て、少々へこんでしまった。被害に遭われた方には、心よりお見舞い申しあげます。

 

 世間では今週からお盆休みのようであるが、「1人ブラック企業」の私にはまったく関係ない。むしろ、お盆前に仕事をちょうだいし、締め切りがお盆明けになっている。まあ、どうせ暇だし、仕事するしかないのだが、寂しい末路である・・・。

 

 「軍師官兵衛」もおもしろいが、それにも増して目が離せないのが「同窓生 ~人は、三度、恋をする~」だ。鎌倉あけひを演じる稲森いずみの熟女のお色気がムンムンで、正直内容はバカバカしいように感じるが、つい見てしまう。そろそろ「軍師官兵衛」にもお色気ムンムンの熟女を登場させないと。

 

 今回、「軍師官兵衛」を見た人はお気付きかもしれないが、何となく官兵衛(役・岡田准一)の立場が危うくなり、羽柴(豊臣)秀吉(役・竹中直人)との関係もギスギスしていく・・・。今回は、その辺りに注目して見ていこう。

 

 閑話休題。

 

 今回もまた、突っ込みどころ満載でおもしろかった!

 

 

 

【2】小牧・長久手の戦いのこと

 

 実は以前、某所で講演を行なったとき、熱烈な官兵衛ファンの参加者の一人が吼(ほ)えた。私は官兵衛の一連の活躍は創作に近いと申しあげたのであるが、どうしてもそれが許せなかったらしい。その方の主張によると「官兵衛は生涯負けなしだ。小牧・長久手の戦いで秀吉が勝てなかったのは、官兵衛がいなかったからだ!」というものであった。大河ドラマのモチーフも官兵衛の「生涯負けなし」ということになっている。

 

 繰り返しになるが、『黒田家譜』は17世紀の中頃に成立し、黒田氏の正史として位置付けられている。執筆者の貝原益軒(かいばら えきけん)は、藩主・黒田忠之から命令を受けて書いたので、当然、黒田家の悪いことは書かない。「いつ、どこで、誰と戦った」という情報はある程度正確かもしれないが、同書での官兵衛の活躍はおおむね創作に近いと考える。それゆえ、官兵衛の「不敗神話」は、同書により創作されたといっても過言ではない。

 

 今回のドラマは、やはり『黒田家譜』史観に拠っていたといえよう。それは、官兵衛の先見性の正確さに求められている。その要点は、①官兵衛がいないのに、勝手に戦ってはならない、②徳川家康(役・寺尾聰)と戦ってはならない、というものである。

 

 ①はいうまでもなく、重要な戦いでは官兵衛の作戦が不可欠であり、いかに「天下人」の秀吉といえども、家康相手では勝てないだろうということ。②は家康の軍勢は譜代の家臣の「三河武士」で構成されており、諸大名の混成部隊である秀吉軍は、勝てないだろうということ。

 

 いずれも根拠薄弱でまったくあてにならない。

 

 昔、近所の阪神タイガースの熱烈なファンのオッサンが、阪神が負けたときに「なんであのとき代打で○○選手を出さんかったんや! あれは吉田(義男)監督の采配ミスや!」と怒り狂い、「吉田監督に抗議の手紙を書く」と息巻いたことがあった。しかし、冷静に考えてみると、○○選手が必ずヒットを打つという保証はない。上記の官兵衛の例も同じなのだ。

 

 官兵衛が負けなかったというのは、いったい何が根拠なのだろうか? それは単に、滅ぼされなかったということだけを意味しているのだろうか? ドラマなので、官兵衛の軍功を強調するのは止むを得ないところであるが、視聴者の皆様は少々割り引いて見てくだされといわざるをえない・・・。

 

 でも、家康は官兵衛のことを知らなかったようだ???

 

 

 

【3】息子・長政のことなど

 

 ところで、今回から急に秀吉の人格が変わってしまった。妙に官兵衛に対する警戒心が高まり、石田三成(役・田中圭)を登用するようになった。それまでは、何でもかんでも官兵衛だったのであるが、急に遠ざけるような趣だ。いささか唐突過ぎると感じるのは、私だけであろうか。

 

 それまで比較的ユーモラスであった秀吉も「おれは関白になる」と、なぜか宣言??? あれは、関白相論のドサクサに紛れて就任したのではなかったのだろうか??? いずれにしても、今後の展開では、秀吉と三成が悪者になりそうな予感がする。これは、2年前の大河ドラマ「平清盛」の主人公・平清盛(役・松山ケンイチ)と通じるものがあり、やや危険な香りがするところ。

 

 そして、もう一つは長政(役・松坂桃李)の扱いだ。どうも堤防作りが百姓の負担になっていたらしいのであるが、長政は「おまえたちのためだ(辛抱して、言うことを聞け!)」と彼らの意見を一蹴する。そして、最後は黒田家の政治が罵られたため逆上し、ついに刀の柄(つか)に手をかけてしまう。青臭さが出てて、非常に良いではないか!

 

 これでは「領民思いの黒田家」の評判がガタ落ちだ。そこを祖父・職隆(もとたか 役・柴田恭平)と父・官兵衛がうまくフォローする。ホームドラマ全開で非常によろしい。また、なかなか着物を新調しないなど、「質素・倹約の黒田家」のことも取り上げられており、あまりにベタな展開に安心感を覚えた!? ちなみに私が服を新調しないのは「質素・倹約」ではなく、単にボンビー(貧乏)だからである。

 

【4】最後に

 今回で職隆は、ついにお役御免。『黒田家譜』によると、亡くなったのは天正13年(1585)8月22日。享年62。柴田恭平がいなくなったので、舘ひろしとか石原軍団の面々を出演させるなど、検討してみてもよいと思う???

 

 今回の視聴率は、16.1%。また、下がってしまった・・・。隔週で乱高下しているようだ。理由はよくわからないが・・・。

 

 がんばれ「軍師官兵衛」!

 

 

 

 

 ※8月7日に拙著『謎とき東北の関ヶ原 上杉景勝と伊達政宗』(光文社新書)が刊行されましたのでご案内いたします。

http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334038120

 

 

 

〔参考文献〕

渡邊大門『黒田官兵衛 作られた軍師像』講談社現代新書

渡邊大門『黒田官兵衛・長政の野望――もう一つの関ヶ原』角川選書

渡邊大門『誰も書かなかった 黒田官兵衛の謎』中経の文庫

 

 

 




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