ひまわりの種

毎日の診療や暮しの中で感じたことを、思いつくまま書いていきます。
不定期更新、ご容赦下さい。

歳月

2015å¹´02月28æ—¥ | æ—¥ã€…のつぶやき
たまに食べに行くことがあった古い食堂が、今日限りで閉じることになった。
たまたま閉店を知ったので、夫とふたり、最後にもう一度食べに行くことにした。
まだ開店30分以上も前なのに、すでに数名並んでいた。
待っている間にも、ぽつりぽつりと並ぶ客が増えた。

ここの店は、わたしが中学生の頃にはすでに営業していたように記憶している。

中学・高校と叔父の家に下宿していたわたしは、週末毎に実家に帰っていた。
土曜の午後、仕事を終えた父が車でわたしを学校まで迎えに来る。
その帰り道沿いに、この店はあった。

父は時折、ひとりでこの食堂でラーメンなどを食べることがあったらしい。
わたしを乗せてこの店の前を通るとき、時々父が言った。

 ここのゆずワンタンメンは、案外味がいいんだ。
 食べていくか?

迎えに来てもらって、時間はちょうど昼過ぎ。
弁当は食べているけど、食べられないこともない。
でも、思春期の女の子が父親と一緒に入るには、あまりに普通の食堂だった。

 べつに。
 食べなくてもいい。お弁当食べたし。

わたしはいつもぶっきらぼうにそう答え、父もそうかと答え、
このようなやりとりが、年に数回あったのだけれど、
高校を卒業して父の迎えを必要としなくなるまで、
その食堂に、ついに父と一緒に入ることはなかった。

今日、しみじみと店内を見渡した。

父はひとりで、どの辺に座って何を食べたのだろう。
ゆずワンタンめんだろうか。
カツ丼だろうか。

      

      脇看板の「ゆずワンタンメン」の文字。
      父はいつも車を走らせながらこれを見ては、「食べていくか?」と聞いた。

  

  天井はよく見ると網代天井になっている。
  これは開店当時からのままなのだろうか。

  

  わたしが頼んだのはもちろん「ゆずワンタンメン」。
  あっさりしたスープに柚の香りがからんで、クセになる美味しさだった。

店主が体調をくずし、療養するための閉店なのだそうだ。
開店して48年とのこと。
震災のあとも、ほどなくして営業を再開したように記憶している。
どこのお店もまだ始めていない頃、ここで食べたラーメンはあたたかかった。

48年間、お疲れさまでした。ありがとう。