2007'10.03 (Wed) 04:16
「蒼天航路」という漫画があります。曹操を主人公にした三国志の漫画です。
名セリフがたくさんある作品なんですけど、そのたくさんある名セリフの中で、僕的にはトップ3に入るほど印象的なセリフが、孫権の発したこれ。
「"要は"って言うな」
赤壁の前、孫呉軍勢が果たして曹操と戦うのか、戦わないのかで魯粛と張昭が激しく議論して、その際に張昭が発したセリフ、「要は曹操と結ぶか戦うか!道理か無謀かの処決でございまする!」に対する孫権の返事です。
あまりにもたくさんのことを感じ取れるがゆえに、あまりにもたくさんの感情が生まれ、あまりにも意思を発するのに慎重な孫権(蒼天航路だとそんなキャラ)。
感情というのは、言葉で表現できるとは限りません。悲しい、嬉しいなどの感情は、先になにか得体の知れない感情というモノが自分の中に生まれているのを確認した上で、その後に、感情に名前を付けるのです。思考もそう。言語を使うけど、言語だけで行われているわけではない。言語が生まれるずっと昔から、人間は感情を持ってるし思考をしてきたのですから、当たり前ですけど。
僕らが喋ることも、考えを何かに表すことも、全てその、言語で行っていないことを言語に書き直して、行っているのです。でもそれって、十分に感情や思考を表しているワケではないですよね。胸の中のモヤモヤを何と喩えていいのか分からなかったり、脳内では筋道立っているのだけれど、言語に直すとどうにも穴だらけになったり。その時々の感情・思考に、完璧に一寸の狂い無く当てはまる言葉が存在しているなんて滅多にないし、当てはまりそうな言葉を探し出すのも一苦労。
言葉を発するだけでも、自分の中のたくさんのものを、実は切り捨てている。
全てをあますところなく伝えるためには、どれだけ言葉を尽くしても足りない。大なり小なり、感情や思考を切り捨てて、要約して、言葉に直しているのです。
孫権が要約することを嫌うのは、その辺りにあるでしょう。
あまりにもたくさんのことを感じ取れるから、その『要約』の中で切り捨てられたものの大切さが、わかってしまう。切り捨てられたものを全て知った上で・孕まれた上での要約ならまだいいのですが、そんなことは『要約』という言葉の意味からして、無理でしょう(てゆうかそれじゃ要約じゃなくなっちゃう)。
"要は"という言葉の裏には、その要約の過程で切り捨てられたあまりにもたくさんのことがあるゆえに、それを"要は"と簡単に切り捨ててしまうことに、孫権は怒りを覚えているのです。
【More】
"要は"で切り捨ててしまったら、違うものになってしまう。
そういった、どうでもいいんだけど切り捨ててしまったらいけないものを、この「スケッチブック」は描いているような気がします。
第1話のお話を纏めると、
高校の美術部に入っている無口な少女空が、出された課題「興味があるものを描く」に、仲間たちと一緒に取り組む。
という感じです。
でも、これが"どういうものなのか"は、上記の様な要約だと全然伝わらないと思うんですよね、きっと。
この要約の内容を描くだけならば、無くてもいいシーンや映像がたくさんありすぎるのです。でも、それが決して要約できない、この作品の良さを表してもいる。
この辺、別に無くても困らない描写だと思うんですよ。要約しても、まったく問題ない。うどんのくだりとか、無くても大勢になんら影響しない。
でも、無かったら何か違うな、とも思うんです。描写されなくてもほとんど同じだけど、無かったらなんか違うな、と思う。
つまり、"要は"で切り捨てられる部分がたくさんあるのですけど。
こういう、"要は"で纏めれば切り捨てられてしまいそうな部分に(部分にも)、この作品の大切なところがいっぱいあるんじゃないかなと。
「いつもスケッチブックを持っている。なぜかカメラじゃダメなのだ」
「なぜカメラじゃダメなのかというと……」
「ビデオカメラでもダメで……」
「ミケの、顔に似合わず可愛い声も、スケッチブックには描けない」
「描きたいもの、描けないもの、たくさん、たくさんあって」
「この時期、ここのミラーに反射する光のふしぎ。これもきっと、スケッチブックには描けないだろう」
記録できないからこそ、スケッチブックなんだろうな、と思った。
写真もビデオカメラも、物事を記録できるのですけど、それはつまり『要約』でもあるのです。その時の場面、というのを記録できるじゃないですか。でも、その時の気持ち、想い、そこに至ったまでの道筋、そんなものは記録できない。写真にもカメラの映像にも、感情や想いを込めることはできるけど、その時の感情や想いを完璧に込めることはできない。要約になってしまう。
要約してしまうというのは、たくさんのものを切り捨てているのです。空が無口な理由も、カメラじゃダメな理由も、そんなところにあるのかな、と個人的には思っていて。
先に、この作品には、「描写されなくてもほとんど同じだけど、無かったらなんか違う、"要は"で切り捨てたらいけない部分」がたくさんあると、書きましたけど。
この作品の、そういった丁寧さは、空が感じていることの構造と同じでもあるんでしょうね。
空お気に入りの、ミラーに反射する光。僕はこのシーン、凄い良かったと思うんですけど。
このミラーに反射する光の、何処が良いのか。それを空は言葉で表していません。
それと同じ様に、このシーンの何が良かったって、とても語り尽くせない。勿論、このシーンだけを切り取ったら、別に普通。この画像を見てもらうだけでは、このシーンの良さは全然伝わらない。じゃあ何が良かったかと言うと、それまでのどうでもいいようなシーンがたくさんあって、だから良かったんですよ。興味があるものを探して、見つからなかったりちょっとは興味湧いたり見つかったり、描こうとして描けなかったり、描かなかったり。色んな友達が居て、美術部の仲間が居て、彼女たちはみんな色んな人であって。空は全然喋らないけど、モノローグじゃいっぱい喋って。なんか他にも色々あって、とにかく、そういうのを全部ひっくるめた先に、良かった。
とてもじゃないけど、要約できない。
空が感じているのと同じ様に、カメラじゃダメなのと同じ様に、スケッチブックには描けないと思っているのと同じ様に。要約して、切り捨ててしまったら、違うものになってしまう。どれもこれもが大切で、そのどれもこれもがあったから、この感情がある以上、それを切り捨ててしまうことができない。
たぶん、その為に、大勢に影響しない、どうでもいいような場面も、丁寧に、描写しているんじゃないでしょうか。
公式サイトのストーリーの項なんかを見ると、余計にそう思います。
ストーリーと銘打ちつつも、その実、何も書かれていないに等しい。半ば単語の羅列です。たぶん、「こういうようなことがあった(ある)」と要約して書くことは出来るんでしょうけど、それじゃきっと違うんでしょうね。この作品においては、そうすることで切り捨ててしまったものの中にこそ、大切なモノがたくさんある。
だから、
誰の毎日にもある小さな発見やミニ事件をスケッチ。と書かれているように、要約せず、どうでもいいようなところも丁寧にスケッチするのでしょう、この作品は。どうでもいいようなところも、何もかも捨てずに、拾っていく。そういう、要約できるけど、したら違ってしまう部分、要約できない大切なコトを、この作品は大事にしているんじゃないかな、と思います。
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タグ : スケッチブック
大変身勝手なお願いではあるのですが、もし良かったらFirefoxでもレイアウトを確認していただけないでしょうか?
文字が左側に切れちゃって読めないのです…。
文字が左側に切れちゃって読めないのです…。
のなめ | 2007年10月04日(木) 04:43 | URL | コメント編集
アリア同様、作画崩れると観る気なくしそう。
そして、ほぼ確実に崩れる(たぶん3話以降)
そして、ほぼ確実に崩れる(たぶん3話以降)
1 | 2007年10月04日(木) 06:50 | URL | コメント編集
その場合、観なければいいだけのことでしょう。
| 2007年10月04日(木) 07:47 | URL | コメント編集
期待通り素晴らしかったですね!
そしてナシオさんの考察も期待通り!
そしてナシオさんの考察も期待通り!
ノトフ | 2007年10月04日(木) 10:25 | URL | コメント編集
>のなめさん
うわー、ごめんなさいでした。のなめさん以外の、ファイアフォックスユーザーの方々にも、ごめんなさい。毎日、ほぼ1割の人がfirefoxでいらしてました。なんという申し訳ないことを……ホントすいませんでした。
非常に遅くなりましたが、テンプレ変えて、対応させていただきました。
>1さんと名無しさん
ARIA知らないし、先のこともなってみなきゃわからないっす(・Д・;
作画崩れたら、またそん時考えましょ。
>ノトフさん
「"期待"って言うな」。やや、僕も含めて、別に期待してなかったじゃないスか~(^▽^;)。冗談はさておき、思ったよりも良かったですね。
うわー、ごめんなさいでした。のなめさん以外の、ファイアフォックスユーザーの方々にも、ごめんなさい。毎日、ほぼ1割の人がfirefoxでいらしてました。なんという申し訳ないことを……ホントすいませんでした。
非常に遅くなりましたが、テンプレ変えて、対応させていただきました。
>1さんと名無しさん
ARIA知らないし、先のこともなってみなきゃわからないっす(・Д・;
作画崩れたら、またそん時考えましょ。
>ノトフさん
「"期待"って言うな」。やや、僕も含めて、別に期待してなかったじゃないスか~(^▽^;)。冗談はさておき、思ったよりも良かったですね。
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