いわゆる「ボーカロイド職人」にはマルチタレントが揃っている。活動の舞台が動画サイトということで、音、映像、コンピュータと、メディア操作のスキルがそのまま表現力の幅につながるからだ。
中でも「キャプテンミライ」こと映像作家の丹治まさみさんは、飛びぬけてマルチな人だと思う。昨年「幻想論」シリーズでニコニコ動画に登場し、ボーカロイド職人の中にもファンが多い。しかし彼の作品の魅力は、独自の世界を展開する歌詞にある。
その彼のバックグラウンドを如実に示しているのが、今年6月にアップロードされたリン&フューチャーナウの「ハローノストラ」※1という曲だ。鏡音リンとキャプテンミライが組んだバンドという設定で、80年代のジャパニーズパンクを髣髴とさせるサウンドが実にカッコいい。
そして彼は、90年代のインディーズロックバンド「アポジーズ」※2でギターを弾いていた「マサミ・タンジェリン」だった。個人的に好きなバンドだったのでその事実には驚いたが、同時に納得もした。幻想論やフューチャーナウのような曲は、そんなバックグラウンドの持ち主でないと、たぶん作れない。
なぜ彼はバンドからボーカロイドへ移行したのか? これはぜひ話を聞いてみたいと思った。
※1ハローノストラ:生バンドをテーマにしたボーカロイドのサークル"Out Wave Cluster"のオムニバスCD「Greatest misses」に収録
※2アポジーズ:90年代の終わりに活動していたサイケデリック/ネオGS系のグループ。丹治さん以外のメンバーは、古山啓一郎(key)、西川恭(bass)。「ALL OVER OVER ALL」(1998)、「デビルポップ」(1999)と2枚のアルバムを残している
いきなり挫折からスタートした音楽人生
―― 最初にプロとして活動したのは?
キャプテンミライ(以下、キャプミラPと略) バンド活動がきっかけで、アイドルグループに曲を書いたのが最初ですね。
―― それはいつ頃ですか?
キャプミラP 大学時代で21歳の頃です。でも作曲家として活動を始めた途端、そのグループが不幸な事故で解散してしまうんですよ。
―― それはきつい体験ですね。その後、アポジーズでCDデビューするわけですが。
キャプミラP 全然売れませんでしたけどね。良くある話なんですが、事務所などに所属していると各方面からもっと売れる曲を作れとプレッシャーがかかってくるわけです。それで……つぶれてしまいましたね。これで僕のプロとしての音楽歴は幕を閉じるわけです。
―― でもアマチュアとして音楽活動は続けていったと。
キャプミラP その後、知恵の輪というバンドを組みました。好き勝手にやるライブバンドとして。このバンドの音が、今のフューチャーナウと大体同じ音ですね。
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