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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第14回

音楽に新しい憧れを 初音ミク・古川Pが語る

2010年01月23日 12時00分更新

文● 四本淑三

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ニコニコ動画のクリエイター、古川Pの代表曲「Alice」より。卓抜したビジュアルセンスでも人気を集める

 初音ミクを使うクリエイターの中でもとりわけ異色なのが古川Pと彼の楽曲群だ。

 エレクトロニカやポストロックの影響がうかがえる音の選び方は斬新かつ、一般受けが狙えるとは思えない音作りだ。にも関わらず人気は非常に高い。ニコニコ動画で「ピアノ・レッスン」が公開されるや、どんどんと再生数を伸ばし、代表曲の「Alice」はそろそろ20万再生を超えそうな勢いだ。

 当然ながら他のボーカロイドPの間でも、一体あれは誰でどういう人なのかという話題で持ち切りで、我々も取材のタイミングを狙っていた。古川Pの仕事の関係もあってなかなか折り合いがつかなかったのだが、今回やっと登場してもらえることになった。



 古川Pは関西出身のバンドマン。CDデビューのために鳴り物入りで上京するも、バンドは空中分解。そのまま東京に残って、今はデザイナーとして働いている。写真も実名も明かすことはできないがなかなかの男前で、バンドで苦労してきただけあって物怖じしない発言がカッコいい人でもある。

 はかなく繊細な音楽から受けるイメージとは、正直言ってかなり違っているのだが、それも話を進めていくうちに納得できた。バンドで一度挫折した経験を持ち、勤め仕事をこなしながらボーカロイドを操る古川Pは、意外なまでに骨太な思想の持ち主だった。


バンドで上京するも、帰れず

――さて、どこから話をしましょうか。いまおいくつでしたっけ?

古川P 29歳です。

――プロデューサー名である「古川P」の由来は?

古川P 僕の地元に古川パーキングという駐車場があるんですね。「なんとかP」と付けばいいのか、ということで。

古川P。その容姿や曲のカッコよさから「モテカワP」と呼ばれることもある。顔を見せられないのが残念

――音楽はいつ頃から?

古川P バンドやってたんですよ、14歳くらいから。スポーツは一切できなくて、特に勉強が得意なわけでもなかった。ただバンドを始めたからには真面目にやりたい。野球部員がプロ野球を目指すように、これも「就職活動」の一環だと。普通に大学を出て就職するステップは踏めないであろうという気はしていたので、ミュージシャンという職につくことで一生懸命普通に仕事している人になりたいと思ってました。そんなに甘くなかったですが。

――それはなかなか立派な動機というか。当時はどんな音楽を?

古川P ビジュアル系から入ったんですけど、当時のビジュアル系の人は、テクニック重視というか、メタル出身の人が多かったんですね。「速い」か「重い」。そのどちらかが満たされていればいい、というような。あと、周りの人間のステータスが、いかに他の人より多く曲を知っているかみたいなところもあったので、マニアックなCDショップに通ったりはしてました。それでも聴いていたのは「激重」とか「獣神光臨」みたいな帯のものばかりでしたけど。


――それは意外、メタルだったんだ!

古川P 大学の軽音サークルに入ってやっと広がりましたね。渋谷系とかスウェディッシュポップとかの北欧ものとか。僕からしたら北欧イコールメタルだったので「あー、こういうのもあるんだ!」って感じでした。で、地元でライブをするような活動が20代半ばまで続きましたね。

――ちなみにその時のバンドは何系?

古川P ギターロックですね。そのバンドが結構なトラブルでポシャってしまって、これはもう手出しできないなあ、やめるしかないなあ……と。

――あんまり聞かない方がいいみたいですが、どういうトラブルですか?

古川P メンバー間のいざこざですね。これは手を出すと怖い人が寄ってくるなと。CDを出す話は決まっていたんですが……。それからまったくやっていません。

――そんなにスパッとやめられるものですか?

古川P やめられないですね。でも地元に帰れる状況でもなかったんですよ。意地がありましたから。で、今からでも何か出来ることはないか、と。デザインは昔から好きでやっていたので、ひょっとしたらこれならなんとかなるかなあと思って、こっちの世界に入りました。

――デザイナーになったわけですね。……ん、どうしましたか?

古川P (机に顔を伏せて手をバタバタさせながら)いやー、すみません、苦手なんですよねえ、こういう話。キャラじゃねえんだよなー。

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