翌日、由美に渡されたメモ紙の住所を訪ねて基が訪れたそこは、大きな病院で。彼を待っていたのは、生まれたばかりの赤ん坊だった。新生児室のガラスの向こうで淡い桜色の産着を着てすやすや眠っている赤ん坊。沢山の新生児の中に、間違いなく葵の面影を宿したその子を目にして、基は全身に震えが走った。
「…葵?」
その赤ん坊は、本当にぞっとするほど葵に似ていた。
「ご家族の方ですか?」
「え」
白衣の看護師が彼の背後で微笑んで立っていた。
「どの赤ちゃんですか? 抱っこしてみます?」
基は再び、赤ん坊に視線を移す。そして、その子を見つめたまま看護師に聞いた。
「あの子の…母親は」
「ああ」と看護師は声を落とした。「亡くなられました」
「どうして―」
「出産までお一人で相当無理をされたようで、最後の力を振り絞ってお子さんをご出産されたんです」
「どうして…」
看護師は基の顔を覗き込んだ。
「お父さま、ですか?」
基はただ黙って彼女を見返した。
「目元が似てますね。それと、その髪の色が。お母さんの髪はもっと柔らかい色でしたから」
「あの子の…名前は?」
「あおいちゃんです」
「葵?」
驚いて基は看護師の顔を凝視した。
「ええ」彼女は僅かに微笑んだ。「お母さまと同じ名前だそうですね。ただ、お子さんの名前はひらがなで‘あおい’です」
目の前で涙を零す男に、看護師は柔らかい笑みを浮かべた。
「抱っこしてみますか?」
白いエプロンをつけさせられて、そっと手渡されたその赤ん坊を腕に抱いた瞬間、基は嗚咽を抑えられなかった。
「葵…、葵…、葵。どうして…どうして」
ぽたぽたと零れる涙が赤ん坊の産着にいくつも染みをつくった。僅かに目を開けたその子は、まだよく見えない目で基を見上げ、澄んだ眼差しで彼を見つめた。
新生児室を出ると、先ほどの看護師が、白い封筒を差し出した。
「基さん、ですね」
真っ赤に泣き腫らした目で基は頷いた。差出人は由美だった。
「…葵?」
その赤ん坊は、本当にぞっとするほど葵に似ていた。
「ご家族の方ですか?」
「え」
白衣の看護師が彼の背後で微笑んで立っていた。
「どの赤ちゃんですか? 抱っこしてみます?」
基は再び、赤ん坊に視線を移す。そして、その子を見つめたまま看護師に聞いた。
「あの子の…母親は」
「ああ」と看護師は声を落とした。「亡くなられました」
「どうして―」
「出産までお一人で相当無理をされたようで、最後の力を振り絞ってお子さんをご出産されたんです」
「どうして…」
看護師は基の顔を覗き込んだ。
「お父さま、ですか?」
基はただ黙って彼女を見返した。
「目元が似てますね。それと、その髪の色が。お母さんの髪はもっと柔らかい色でしたから」
「あの子の…名前は?」
「あおいちゃんです」
「葵?」
驚いて基は看護師の顔を凝視した。
「ええ」彼女は僅かに微笑んだ。「お母さまと同じ名前だそうですね。ただ、お子さんの名前はひらがなで‘あおい’です」
目の前で涙を零す男に、看護師は柔らかい笑みを浮かべた。
「抱っこしてみますか?」
白いエプロンをつけさせられて、そっと手渡されたその赤ん坊を腕に抱いた瞬間、基は嗚咽を抑えられなかった。
「葵…、葵…、葵。どうして…どうして」
ぽたぽたと零れる涙が赤ん坊の産着にいくつも染みをつくった。僅かに目を開けたその子は、まだよく見えない目で基を見上げ、澄んだ眼差しで彼を見つめた。
新生児室を出ると、先ほどの看護師が、白い封筒を差し出した。
「基さん、ですね」
真っ赤に泣き腫らした目で基は頷いた。差出人は由美だった。
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