景気って何だ――まずは景気動向指数の話から

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 1月15日に三ヶ月ごとに発表される日本銀行の地域経済報告(さくらレポート)が発表された.今回は「北陸」「東海」「中国」の3地方で景気判断を引き下げたものの,全体としては 「設備投資や個人消費といった国内需要が、増加基調を続けている」との判断.随分と悠長なことをいっているものだなぁと思った人も多いのではないでしょうか.

 そもそも,景気って誰がどのように判断しているのでしょう...

 この話を考えるためには,景気指標の基本を抑えておく必要があります.というわけで今回は準備編.日本の景気の現状を表す統計指標として広く用いられるのが,内閣府が毎月発表している景気動向指数です.今回は景気判断の基礎になる景気動向指数について解説していきましょう.

3つの景気動向指数

 経済の状態が上向いているのが景気拡大,悪化しているのが景気後退――なわけですが,「日本経済の現状」なんて都合の良いデータはありません.経済の現状を知るためには関連する様々な統計データを観察する必要があります.
 しかし,「いろんな指標を見て総合的に判断しようよ」では何も決めていないのと同じこと.「景気の現状・先行きに関する情報を素早く知りたい」というニーズにも応えられません.
 そこで,内閣府では経済状態を敏感に反映すると考えられる複数の経済指標を組み合わせた「景気動向指数」というデータを作成しています.

 景気動向指数は3種類.今後の経済動向を先取りして変化する先行指数・経済の現状を示す一致指数,実際の経済状況よりも少し遅れて動く遅行指数の3つ.

 例えば,先行指数は東証株価指数(TOPIX)や新設住宅着工床面積,実質機械受注などの11の経済指標を合成して作成されます.株式市場は経済の先行きを予想して取引が行われますし,新設住宅着工の増加や生産活動に必要な機械類の注文は不動産・製造業各社が「今後もっと売れるだろう」と予想しているからこそ行われるわけですよね.
 先行・一致・遅行各指数がどのようなデータを合成して作られているかは,内閣府のweb pageを参照ください.まずは,「景気動向指数には先行・一致・遅行の3種類あり,各指数は複数のデータを合成して作成されている」という点を抑えてください.

2つの景気動向指数

 複数のデータを合成するというとき,その合成の方法は主に二つ.DI(Diffusion Index)とCI(Composite Index)です.先行・一致・遅行それぞれにDIとCIがあるので,景気動向指数は都合6種類あるというわけです.

 まずは比較的わかりやすいDIから.
 これは合成のために使用している経済指標・系列の内「改善しているものの割合」を「景気動向指数DI○○指数」と考えます.例えば,先行指数は11系列を合成して作成しているので――ある月に11系列のうち6種類が改善していたら,6÷11(×100)≒54.5が景気動向指数DI先行指数となるわけです.単純でわかりやすいのでアンケート調査を数値化する際などにもDIが用いられることがあります.
 ちなみに,最近の景気動向指数DI一致指数は,図のようになっています.直近の10月・11月はなんと「0」……けしてexcelの入力ミスではありません.

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 しかし,一見してわかるように,DIはかなりジグザグで,景気の動向を一目で捉えるには向きませんよね.ここ2年ほどの傾向として,大幅に悪化しても次の月か次の次の月には改善しているというのが,二月連続「0」でもなお趨勢は変わらないという(いくら何でも苦しいと思うけど……)景気判断のひとつの根拠です.
 さらに,DIはその作成方法からして,景気の力強さをとらえることができません.すべての指標が大幅に改善しているときも,すべての指標がごくわずかだけ改善しているときも……DIは100で同じということになる.また,前指標が0.1ポイントだけ改善しているときのDIは100,1個だけ悪化している指標はあるが他は全部10ポイント以上改善しているという時のDIは90(採用系列が10個の場合)となんだか後者の方が景気が悪いかのようなイメージになってしまうのも大問題でしょう.

 これらの欠点を避けるために,近年,主に用いられるようになっている合成方法がCIです.
 CIは個々の指標・系列の変化率を合成することで作成します.しかし,指標によっては大幅に変化することがあるもの(在庫や機械受注など),急激には変化しないもの(消費関連など)があり,そのまま平均を取ると意味がわからない数字になってしまいます.
 CIの正確な作成方法は細かなルールが多いので,ここではざっくりと作成のイメージを説明しておきましょう(詳しくは「景気動向指数の利用の手引」参照).

(1)指標ごとの一般的な振れ幅をもとめる
(2)「各指標の変化率÷その指標の一般的な振れ幅」の平均値を求める
(3)(2)を前月の値に足す

ことでCIが作成されます.このようにして求められた景気動向指数CI一致指数は,下図のようになっています.

画像2

 えーと,これ素直に見たら2018年半ばから景気後退はじまっているんじゃないの……

景気判断のあれこれ

 DIでみてもCIでみても,景気の現状が「緩やかながら着実に回復」とはとても言えなそうなのに……なぜ政府等の発表では「景気拡大は継続中」になるんでしょう.
 その一つの理由はDIのところで指摘した,まだジグザグがあるので「明確な景気後退とは言えない」というもの.そしてもうひとつがCIは低下しているがまだその水準は比較的高いというところ(直近ではそうでもないけどね^^).
  景気の局面判断はDI・CIなどを使って行われるものの……DI・CIをなんとなく眺めて雰囲気で決めているわけではないのです.

 というわけで次回は「景気判断はどう行われるか」です♪ 多分週末くらいには書ける気がする.