可処分所得の推移と2017年の転換点

 直近の所得・収入の変化,格差の変容についてコメントを求められること際,いちいちPCを立ち上げてグラフを示したり,ファイルを送付するのは手間なので,memo代わりにここにあげておきます.

 使用データは総務省『家計調査(家計収支編)』,「勤労者世帯(農林漁家含)」の可処分所得です.ちなみに,

 

可処分所得=実収入-直接税・社会保険料

 

なのでイメージとしては手取り収入のようなモノだと思ってください.本来は月次データですが,細かすぎて見にくいので,四半期データに変換した上で自前で季節調整(X12加法)をかけています.

 

 まずは平均値から.縦軸の単位は万円.いわば勤労者世帯の月々の平均手取収入の推移だと思ってください.

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これをみると,リーマンショック後から2011年にかけて,手取り収入が低下していき,2012年頃に下げ止まったというイメージがわかります.

 アベノミクス開始後の2013年以降も2017年頃まで手取り収入はほとんど増えていない.この間,雇用者数そのものは急速に増加しています.既存の労働者の収入は変わらず,失業・不完全就労が減少したのが同時期の経済的変化とまとめられます.

 状況に変化が生じ始めるのが,2017年です.手取り収入の平均が明確に増加し始めていますね.人手不足の深刻化に注目が集まり,一部業界で給与の引き上げが報じられ始めるのもこの時期です.

 

 もっとも,ここまでの話はあくまで「平均値」だけのこと.もう少し所得階層や格差に注目してみましょう.『家計調査(収支編)』では収入を上位から下位まで10%(十分位)または20%(五分位)ごとに区切ったデータが示されています.

 そこで,まずは収入上位20%の可処分所得から見てみましょう.勤労者の上位20%層平均――ざっくり言うと月の手取りが60万円強・額面の年収が1000万円くらい*1のエリートサラリーマン片働きかミドル層共稼ぎ家計のイメージですね.

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こちらも2017年以降に明確な可処分所得の変化が生じていることがわかります.では,その一方で収入の最も低い20%の家計はどうでしょう.月の手取りが22万円,年収300万円代前半の世帯をイメージするとよいでしょう.

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こちらは,高所得層より気持ち早め――2016年頃から手取り収入の増加が始まっています.正規雇用よりも非正規雇用の方が賃金が動きやすいため,人手不足による賃上げの影響がこの階層で早めに出たという理解ができるでしょう.

 ちなみに,高所得層と低所得層の格差――低所得者層可処分所得と高所得者層可処分所得の比率には傾向的な変化は見られません.

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 ここから,スーパリッチの話や資産格差についてはさておき,勤労者間については「格差問題を拡大した」という批判は成り立たなそうです.

 なお,ここで示したのは「勤労者世帯」に限ったデータなことにもご注意を.現役世代で最も深刻な格差は「失業者と就労者」の格差ではないでしょうか.失業減少の格差縮小効果に注目すると,格差問題はごく緩慢にではあるが改善しつつあるという評価もできるでしょう.

 

 さてさて.データをざっと見ると,どうも2017年から勤労者世帯の収入が増加しているというのは確かなようです.実際,ここのところ春闘での賃上げも注目されてきましたしね.すると……みんなの収入増えてみんあハッピー!景気回復で脱デフレ!かといわれると全然そうはなっていないんです.

 収入はどうみても増えているのに消費は全然増えてません.これを「収入と消費のデカップリング問題」といいます.週末暇なときにでも,こちらのデータも掲載していきたいと思います.

 

*1:季節調整をしているので,ボーナスが各月に割り振られてしまっています.そのためグラフの「収入」がやや高めにでます.