みんな必読の岩田規久男『日銀日記』

 先週,岩田規久男前日本銀行副総裁の『日銀日記』が発売されました.すでに入手済みの方も多いかと思いますが,改めて本当にお薦め♪ 金融政策のお勉強と同時代史,日銀の中で何が行われているか・・・・・・同時に学べる本です.現在の金融緩和政策に好意的な人はもちろん,批判的な人にも楽しめるんじゃないかしら.

 

 就任当初から出版向けに日記をつけているとおっしゃっていたので,いつでるか・・・と心待ちにしておりました.あえて「日記」という形式にしたことで,金融政策の大転換から急速な経済状況の改善,その頓挫からの再生を巡る思考を時系列で追うことが出来る構成になっています.

 もちろん5年分の日記をそのまま転載したものではないため・・・ぜひ岩田先生におかれては日記の実物を保存いただき,10年後・20年後に次世代の歴史研究者の手にゆだねていただきたいと思います.
 
 さて,本書の第一のポイントは,登場する経済用語や経済のロジックの部分に加筆が加えられているところ.日本経済の動向を受けての岩田先生の思考や政策に関する見解を解説付きで追うことで「岩田流金融政策論入門」にもなっている良書です.2000年代の「量的緩和」と現在も続く「量的・質的金融緩和」の違い,マイナス金利政策やイールドカーブコントロール,オーバーシュート型コミットメントといった新政策がどのような思考から生み出されたのか追体験することができます.適度に雑談(住居や日銀幹部の日々の業務,食事など^^)が入っているので肩に力を入れずに読み進めます.
 第二のポイントは,国会での質疑に関する記述.日銀副総裁のお仕事の一つが,金融政策に関する説明責任を果たすことです.そのため,かなりの頻度で国会での質疑に登壇することになるわけですが……そこでの各政治家のやりとりの記録を見ることで登場する各議員の資質とキャラクターを知ることが出来るのも大きな特徴です.もちろん,リフレ政策への姿勢によって好悪の感情が入るのは致し方ないところですが,主張の面では全くの対局に位置する某議員さんへの意外な(失礼^^)高評価も興味深いところ.アベノミクス以降の経済政策において,誰のリーダーシップに期待したら良いのかを知る材料にもなります.
 
 章題でもある「リフレレジームの再構築」にむけて必要な政策は何なのか.これからのマクロ経済政策を考えるに当たって重要なヒントが得られる本書ですが,5年にわたる沈黙を経て復活した岩田節も全開なので……各方面から激しい批判が予想されます.その応酬を楽しむためにも手元に置いておくべき本でしょう..
 
 
 
(以下蛇足)
 ちなみに・・・・・・本書には私自身もちょくちょく登場します(といっても主に雑談部分や故岡田靖氏関連中心ですが).
 そのなかで私自身が僭越ながら岩田先生に意見具申をしたエピソードが数カ所取り上げられています. そのひとつが,2015年10月のランチミーティング.マネタリーベースの拡大よりも付利撤廃などが必要であり,財政政策としては人手不足の制約の少ない分野への公共支出が必要だと提案しています.一方で,2016年7月にはマイナス金利の拡大ではなく量の拡大が必要と提案しています.これを文字通りに解釈されると.矛盾しているように聞こえるかもしれないので少々解説を……
 2015年秋の具申は,追加的な緩和策を講じるとしたら何を行うべきかという話題についての私見です.次なる緩和策としては,現行の緩和スキームの延長・マイナーチェンジではない政策を打ち出していくべきだと考えました. その後,「これまでの延長」ではない金融緩和として,日本銀行はマイナス金利を導入するわけですが,これは今もあまりよい手ではなかったと考えています.実際,マイナス金利の導入は悪い意味で「これまでの延長」ではない--量的緩和の手仕舞いに向けた動きとマーケットに把握されました.この予想を振り払うには,「期待に働きかけるための」ベースマネーの量的拡大が必要になる.これが2016年7月のマネー拡大必要性の提案です.
 また,財政政策の有効性・無効性についてはこれまでの論文・エッセイでも書いて来たように,継続性が(予想され)ない公的土木建設事業は人手不足の壁によって十分な景気浮揚効果を持たないだろうとの予想は今も変わりません.この点をもって,飯田は反財政政策派だという人もあるようですが,それはあまりにも一面的な評価でしょう.一過性の公共事業拡大が景気浮揚効果を持たないという主張は,その他の財政政策の有効性を否定することにはつながりません.さらには,継続性がある(と企業や労働者が予想する)公的土木建設事業の効果を否定するものでもありません.公共事業の経済効果についてはごく短い論文にまとめたので近日中に紹介しようと思います.あと,最近発売された『デフレと戦う』(日本経済新聞社)でも財政政策の話をしているのでご興味の方はよろしくです. 

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