春の訪れを告げ初夏には消えるカタクリ
カタクリ(片栗、学名:Erythronium japonicum)はユリ科カタクリ属の多年草。北海道、本州、四国、九州に分布、平地から山地の落葉樹林の中に分布していますが、関西以西では自生地が少なく貴重です。
花期は早いところで3月、遅いところで6月、直径4~5 cmほどの反り返った赤紫の花を咲かせます。
芽を出すとすぐに花、そして早々に消えてしまう……
芽を出すと早くも10日程度で花を咲かせます。しかし花の期間は1週間程度で、花が終わって、樹木の葉が茂る初夏には葉が枯れて、約2~3か月程度で消えてしまいます。
このように早春から夏前に消えてしまう植物を「春の妖精(スプリング・エフェメラル)」と呼び、ほかにイチリンソウ、ニリンソウ、ショウジョウバカマなどがあります。
ちなみにエフェメラルとは「はかない存在」という意味。この短命に見える存在にファンタジーを感じる人も多いようです。
意外と「はかなくない」!?結構長いカタクリの一生
カタクリは2か月程度しか地上には出ませんが、それ以外はずっと地中で生きています。光合成できる期間が短いので、なかなか栄養が溜まらず、種子から花が咲くまで7~8年かかり、なんと平均寿命は40~50年!それまで毎年花を咲かせます。
カタクリの一生は意外とはかなくなかったんですね。
かつては片栗粉の原料|カタクリにまつわるエピソードの数々
春に美しく咲き、初夏には、はかなく枯れるカタクリは、意外と面白いエピソードが多い花でもありました。
かつては片栗粉の原料だった
天ぷらなどの料理には欠かせない片栗粉。この「片栗」の由来はカタクリです。
かつては片栗粉はカタクリの鱗茎と呼ばれる球根のでん粉から製造されていました。江戸時代、片栗粉は食用だけではなく、滋養薬や胃腸薬にも重用されたため、江戸末期にはカタクリが激減。明治時代、北海道で栽培され始めた馬鈴薯(ばれいしょ、じゃがいも)のでん粉から製造するように変わり、今に至ります。
つまり、カタクリの代用としてじゃがいもを使っているのが今の片栗粉。本来は「馬鈴薯でん粉」が正式名称ですが、今でも片栗粉と呼ばれています。
カタクリは片栗粉だけではなく、鱗茎を甘く煮て金団にしたり、若芽をおひたしや酢の物にしたり、様々に調理され食用とされていました。今でも貴重な山菜として食用されることもあるようですが、とりすぎないように注意されています。
ちなみにアリもカタクリが好物。アリは種子の成分を好み運んでいきます。このようにアリに種子を運んでもらう植物を「アリ散布植物」といいます。
諸説あり!名前の由来
カタクリという名前の由来には諸説あります。
- ①.栄養が溜まる鱗茎と呼ばれる球根が、栗の片割れに似ていることから「カタクリ」と呼ばれた。
- ②.花が「かたむいた籠(かご)」のユリに見えることから、「カタカゴユリ」からカタクリとなった。
- ③.カタクリの葉が、栗の子葉(種子から出た最初の葉)に似ているから。
など様々。決め手はないようですね。
また、花言葉は「初恋」「寂しさに耐える」「嫉妬」。
寂しい地中で長く耐え、花を咲かせると恥じらうようにうつむいて咲く姿が、「寂しさに耐える」または「初恋」を連想させるからのようですが、「嫉妬」は反り返って咲く花びらがまるで嫉妬の炎のように見えるから。同じ花でもいろんな見方があるものです。
見つけたら超ラッキーなシロバナカタクリ
カタクリは日本では1種ですが、実は北半球に20種ほど確認されています。その中でも北米は15種と一番多く、園芸種として知られるキバナカタクリもそのひとつ。
なお、日本は赤紫色の花を咲かせる1種のみですが、まれに白花も存在します。シロバナカタクリと呼ばれるますが、別種ではなく変異を起こした個体。
この変異は、なんと1万分の1の確率だそう。見つけたらかなりラッキーです。
カタクリを見るならココ!
全国のカタクリ観賞地を紹介します。高山植物ではないので、低山が多いことが特徴。
自然公園として整備しているところもあり、散策しやすいところが多くあります。
突哨山(とっしょうざん:北海道)標高239m
見ごろ:4月中旬から5月初旬
北海道旭川市と上川郡比布町にまたがる突哨山(とっしょうざん)は、日本国内最大級のカタクリ群落が広がることで有名です。散策路は1時間30分程度、一緒にエンゴサクも咲き誇り、紫と水色の水彩画のような風景が楽しめます。
笹倉山(ささくらやま:宮城県)標高506m
見ごろ:4月初旬から4月中旬
宮城県黒川郡の七つの山が連なる「七ツ森(ななつもり)」の主峰、笹倉山はカタクリの群生地が続く名所としても有名。
山頂付近は特に多く、多くの登山者でにぎわいます。
三毳山(みかもやま:栃木県)標高229 m
見ごろ:3月中旬~下旬
三毳山は一帯を「みかも山公園」として整備されており、歩きやすい散策路が続きます。カタクリの季節になると、公園の中の「かたくりの園」として、4,000平方メートルの斜面の約80,000株のカタクリが咲き誇ります。
御前山(ごせんやま:東京)標高1405m
見ごろ:4月下旬から5月上旬
奥多摩三山のひとつ「御前山」。花の百名山であり、四季折々の自然を楽しめると多くの登山者が訪れる人気の山です。
カタクリの自生地としても有名で、惣岳山から御前山へ向かう登山道の脇で多く見られます。
坂戸山(さかどやま:新潟県)標高634m
見ごろ:4月上旬〜4月中旬
新潟県南魚沼の坂戸山は、山頂から山全体に戦国時代の城跡や遺構が見られる歴史の山です。カタクリの花は山麓から山頂まで登山道脇で見られ、ほかにイチゲ、エンゴサク、イワカガミなどの春の花もいっしょに観賞できます。
文殊山(もんじゅさん:福井県)標高365m
見ごろ:3月下旬~4月上旬
福井県鯖江市の文珠山は、越知山五山の中心に位置する、泰澄大師が開いた霊山です。四季を通じ人気の山ですが、特に春のカタクリの群生は人気。
群生は小文殊から大文殊の間にあり、「群生地」の看板が立っています。
鳩吹山(はとぶきやま:岐阜県)標高313 m
見ごろ:3月下旬
岐阜県可児市の西端、鳩吹山は地元の人の里山として親しまれている山です。
鳩吹山遊歩道が整備され、鳩吹山の北斜面に位置する可児川下流域自然公園には、カタクリの群生地が広がっています。
大和葛城山(やまとかつらぎさん:奈良県・大阪府)標高959 m
見ごろ:4月中旬から下旬
大和葛城山の春は、「一目百万本」と称されるツツジで有名ですが、それに先立ち、自然研究路を中心にカタクリの花が咲き誇ります。
一緒に “春の女神” と呼ばれる蝶の「ギフチョウ」も見ることができ、“春の妖精と女神”の競演を楽しめます。
船通山(せんつうざん:鳥取県・島根県)標高1,142 m
見ごろ:4月中旬~5月初旬
鳥取県日南町と島根県奥出雲町との県境にある船通山は、「ヤマタノオロチ」伝説にも登場する神話の山です。
春、山頂付近を、まるで赤紫のジュウタンのようにカタクリが咲き誇り、たくさんの登山者を魅了します。
赤星山(あかぼしやま:愛媛県)標高1,453m
見ごろ:4月下旬~5月上旬
愛媛県四国中央市の赤星山は、伊予小富士の別名を持つ秀麗な山容の山。夏にはサソリ座のアンタレス(和名は赤星)が山の真上に来ることからこの名前が付いたといわれています。
カタクリの群生は山頂付近に広がり、四国では最大規模といわれています。
雁俣山(かりまたやま:熊本県)標高1,315m
見ごろ:4月下旬
九州脊梁山地北端の雁俣山は、九州では唯一のカタクリの生育域で、日本のカタクリ自生地の南限にあたります。
カタクリの群生地は、山頂近くにあり、九州内外からたくさんの登山者が訪れます。
番外編:白水湿生花園(大分県)
見ごろ:3月下旬~4月上旬
九州ではカタクリの自生地は熊本県の雁俣山のみですが、大分県由布市、くじゅう山麓の「白水鉱泉」内の白水湿生花園では、カタクリが栽培されています。
カタクリは熊本県では絶滅危惧Ⅱ類に指定されるなど、九州では希少な花で、なかなか見ることができませんが、こちらでは誰でも鑑賞することができます。
春の妖精に会いに行こう!
春に咲くあまたの山野草の中でも美しく可憐で、森の中に凛とたたずむ姿が人気のカタクリ。まさに“春の妖精”の呼び名がピッタリの姿は、多くの人を惹きつけてやみません。
こちらで紹介した全国の観賞地を参考に、あなたも春の妖精に会いに行ってみませんか?