間違えたくないアイゼン選び!ベストなアイテムを選ぶには?
雪山登山で欠かせないのが、登山靴に装着する滑り止め・アイゼン。けれども多本爪アイゼン・軽アイゼン・チェーンスパイクなどさまざまな種類があり、どれを持って行くか悩みますよね。基本的に「登る山」が判断材料になりますが、同じ山でも登山道の積雪・凍結状況によってベストなアイテムが変わる場合も。
実録・アイゼン選び間違えたかも…?
たとえば雪山登山の入門とされる八ヶ岳エリアの北横岳は、通常軽アイゼンでも登山可能といわれています。2020年1月に訪れた際、筆者もそれに追従。
しかし山頂直下は、斜面を直登するため傾斜のきつい登山道が続きます。さらにこの日は気温が低く、多くの登山者によって踏み固められた道が凍結状態に。雪道がツルツルとした「滑り台」のようで、スリップしそうになる体験をしました。
とくに下山時はひやひやしたので、事前に登山道状況を確認してアイゼンを選ぶべきだったと痛感。
このように「どこに登るか」でなく「登山道がどんなコンディションか」を基準に、アイゼンを選ぶのがおすすめ。そこで今回は、どれを持っていけばいいのかわからない!という人へ向けて、雪道のシーン別にベストなアイテムを紹介していきます。
チェーンスパイク・軽アイゼン・多本爪アイゼンの特徴をチェック
より適切なアイゼン選びをするために、まずはそれぞれの特徴を押さえましょう。
■チェーンスパイク
樹脂製のボディへ連結されたチェーンに、小さな爪がつま先からかかとまでバランス良く配置されている。■軽アイゼン
チェーンスパイクよりも長めの爪が土踏まず付近に集中。つま先・かかとは登山靴の靴底がむき出しになる。■多本爪アイゼン
つま先から前方に伸びる前爪が特徴。足裏全体が、軽アイゼンよりも鋭利で長い爪に覆われている。
今度の雪山登山…どのアイゼンを持って行けばいい?
強みと弱みで歩行の向き不向きは把握できますが、気になるのは実際の使用感。いざ雪山登山となった時に、どれを選んでいいのかまだ不安が残ります。そこで今回は実際の雪山で、3種類のアイゼンを使って歩行テスト。登山道のコンディション別に、どのアイテムが快適・安全に登山できるのかを検証しました。
雪山登山テスト@北横岳〜3種類のアイゼンで歩行検証〜
冒頭で紹介した通り、かつてアイゼン選びに失敗した経験のある北横岳。今回はチェーンスパイク・軽アイゼン・多本爪アイゼンすべてを持参して、それぞれの使用感を比較してみました。ルート概要は、以下の通りです。
①区間 | ②区間 | ③区間 |
平坦な登山道 (北八ヶ岳ロープウェイ山頂駅 | 傾斜のある登山道 (坪庭周回路分岐〜三ツ岳分岐) | 急傾斜の登山道 (北横岳ヒュッテ〜 |
距離約0.4km/標高差約18m | 距離約0.8km/標高差約109m 距離約0.2km/標高差約17m | 距離約0.4km/標高差約98m |
区間①:平坦な登山道では軽アイゼンよりチェーンスパイクが快適
①区間は、溶岩台地に伸びるほぼ平坦な登山道。積雪は数10cmといったところでしょうか。傾斜のない場所では多本爪アイゼンの強みが発揮されないため、ここではチェーンスパイクと軽アイゼンで比較しました。
○良かったところ
アップダウンがほとんどなく、雪の積もった平地を歩くのと同じ感覚。チェーンスパイク・軽アイゼンどちらでも、歩きにくさや違和感は感じませんでした。
△気になったところ
上の写真のように雪面から岩肌が露出した場所では爪が短いチェーンスパイクの方が快適。爪と岩がぶつかった時の足に伝わるショックが軽アイゼンより少なく、足の疲労やバランスを崩す危険性が軽減されます。積雪が少なく、地面や岩肌が頻繁に露出している状況であれば、チェーンスパイクの使用がおすすめです。
区間②:傾斜のある登山道はチェーンスパイクより軽アイゼンが安心
②区間には、急斜面をジグザグと進む箇所があります。こちらも軽アイゼンとチェーンスパイクを使用して、どのくらいの登山道コンディションまで耐えうるかを検証しました。
○良かったところ
①区間ではストレスになった軽アイゼンの爪ですが、傾斜があり雪に覆われている②区間では効果を発揮。「フラットフッティング(※)」で足を置いた時に、中心部分の爪が雪面をしっかりとらえ、安心して次の一歩を踏み出せました。
△気になったところ
傾斜が増すにつれて、爪の短いチェーンスパイクを装着している右足が、写真のように踏み込んでも斜面下部(登りの場合は後側)に流されてしまうことが多くなってきました。雪の斜面に対して踏ん張りがきかず、なかなか進めないためその分体力を消耗。
さらに雪の斜面をスリップすることで余分な力がかかり、靴底とチェーン部分にゆるみも発生しました。傾斜がある登山道では、チェーンスパイクの弱点が露呈する結果に。
区間③:急傾斜の登山道は軽アイゼンより多本爪アイゼンが安心
③区間は、山頂に向けてさらに登山道の傾斜が増します。先ほどの②区間の傾斜ですら、踏ん張りが効かず緩んでしまったチェーンスパイクでは無理と判断し、片足に軽アイゼン・片足に多本爪アイゼンを装着して登ってみることにしました。
○良かったところ
歩き始めてまず感じたのが、右足の多本爪アイゼンがしっかり雪面をとらえる感覚。長く鋭い爪がつま先からかかとまで配置されているため、雪面深くまで刺さります。傾斜が増しても、踏ん張りがきくという安心感は保持したままでした。
ただその分、雪から爪を抜くのに力が必要。多本爪アイゼンで長時間行動するには、それなりの脚力や技術がないと厳しいと感じました。
また斜面の傾斜がきつく「フラットフッティング」での歩行が難しい場所では「キックステップ(登りではつま先・下りではかかとのみを斜面に蹴り込む)」という歩き方が有効になってきます。
こうした場所では、つま先に前爪があり、かかとまで鋭く長い爪で覆われた多本爪アイゼンがベスト。
△気になったところ
軽アイゼンを装着している左足には、斜面の傾斜が増すにつれて先ほどのチェーンスパイク同様のストレスが発生。踏み込んでも、斜面下部(登りの場合は後側)に流されてしまうことが多くなってきたのです。それに伴って軽アイゼンに無理な力がかかり、本来の位置よりも前方向にずれてきてしまいました。
またつま先・かかとの靴底が露出している軽アイゼンでキックステップを行うと、蹴り込んで重心をかけた際に滑ってバランスを崩す危険も。
急斜面では、軽アイゼンだと心許なく感じました。
登山道シーン別おすすめアイテムはこれだ!
今回の雪山登山テストを通じて実感した、各アイテムの特性とそれに合った登山道コンディション。それぞれの総評をまとめてみました。
チェーンスパイク装着がおすすめのシーン
・平坦な登山道(林道や舗装路など本格的登山道へのアプローチ)・積雪が少ないアイスバーン状の登山道や一部が凍結した登山道
チェーンスパイクは爪が短いため、雪面から地面や岩などが露出していても比較的ストレスなく歩行可能。雪が踏み固められてアイスバーン状になっている場所や、水たまりなど一部が凍結している場所でも、効果を発揮するでしょう。ただし傾斜のある場所には向いていません。
軽アイゼン装着がおすすめのシーン
・傾斜が緩やかでフラットフッティングで登降可能な斜面・やわらかい雪で覆われた登山道
比較的緩やかでフラットフッティングでの登降が可能な斜面では、軽アイゼンがおすすめ。ただし爪が短くつま先とかかとは靴底が露出しているため、滑りやすいクラスト(凍結してツルツルになった)状態だと不安を感じます。またキックステップが必要な急斜面には不向きです。
多本爪アイゼン装着がおすすめのシーン
・キックステップでの登降が必要な急斜面
・クラスト(凍結してツルツルになった)状態の登山道
傾斜が急でキックステップでの登降やつま先をL字に開いてのトラバース時には多本爪アイゼンが必要。また凍結して爪が刺さりにくい場所でも力を発揮します。平らな道での利用も可能ですが、重くて爪が長いため、一歩を進めるのに快適とはいえません。
また爪を反対側の足や岩などに引っかけて、バランスを崩し転倒する事故事例も。状況に応じた正しい足の運び方や、多本爪アイゼンを着用して歩くための脚力を身に付けておくことが重要です。
登山道の傾斜やコンディションに合わせたアイゼン選びを
今回の雪山登山テストや、筆者のこれまでの体験から…
・同じ山でも区間毎の傾斜により
・同じ区間でも積雪・凍結状況により
ベストなアイゼンは異なるといえます。
ただすべての道に合わせて、1つの山で複数種類を使い分ける必要はありません。雪道状況に応じたそれぞれのアイゼンの強みや弱みをしっかりと頭に入れた上で、自分が何を履くのかを選択することが重要なのです。
なにより事前に地図を見ながらルートの傾斜を把握し、SNSなど最新情報から積雪・凍結状況をキャッチすることが大切。安全&快適な雪山登山を楽しむために、登る山だけでなく、登山道のコンディションを考慮した上でアイゼンを選びましょう。