『地獄の一季節』の中に
「錯乱 (Délires)」=「言葉の錬金術(Alchimie du verbe)」と題する詩がある。
その一節に、「音」と「色彩」を表現している部分がある。
そこを抜粋すると、
『おれは母音の色彩を発明した!
― "A" は黒、"E" は白、"I" は赤、"O" は青、"U" は緑』
よく知られた一節でもあるが、彼の説く所によれば、母音そのものには色彩があって、
"A" の音は黒というイメージがあり、"E" という音は白を表わすという、、
これをオレは見つけ出したんだ!というところだろう。
聴覚を色彩で表わすと言えば、異色の動物学者ライアル・ワトソンは、
動植物界や人間界における超常現象などを正面から取り上げ、
それに科学的分析を加え解いていこうというニューサイエンスの学者だった。
動物学や植物学といった地味な学問を
ダイナミックなものへと変貌させた人物と言っていいだろう。
その彼が研究のためインドネシアのバリ島の調査に出掛けたとき、
そこで予知能力のある12歳の少女ティアと出会った。
この少女の不思議な能力のことについて書いているが、その一つに、
聴覚を色彩的に捉えるという個性を挙げていた。
音を色彩で表現するというのであれば、我々日本人も、今でこそ言わなくなったが、
子供や女性などの甲高い声のことを「黄色い声」という色彩的な表現をしていた。
ところが、この不思議な少女は、そんなナマ易しいものではない。
楽器の音を
「ドラムが話をする時、柔らかい砂のような絨毯を地面に敷くように見える。
銅鑼(どら)の音は、緑や黄色を呼びこみ、私たちが遊ぶ森を作るの。
フルートの音は、白い糸がたなびいて、家への道を示してくれる」
彼女が何気なく話す「音」に対するこんな表現は、
詩人以上に独創的な香りに包まれている。