都知事選に大量の候補擁立、ポスター掲示板を「販売」…禁止規定ないが専門家「民主主義への挑戦」
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「都知事選に30人の候補を擁立します」。政治団体「NHKから国民を守る党」が、東京都知事選(7月7日投開票)の立候補予定者を発表した4月11日の記者会見。立花孝志党首は選挙ポスター掲示板のおよそ半分を同団体のポスターで占めるイメージ画像を掲げながら、同団体に寄付した人の政治的主張をポスターに載せるプランを披露した。
立花氏によると、同団体に寄付すれば、都内に約1万4000か所ある選挙ポスター掲示板のうち1か所を選んで、自身で作成したポスターを貼れる。デザインや内容は原則、寄付者の自由で、自分や知人の氏名、犬の写真でも掲載できるという。寄付額は1口5000円以上、6月以降は1万円以上で、1口1万円で計算すると、1億4000万円の寄付収入が入る。同団体が候補者30人分の供託金(1人300万円)を支払っても、5000万円の利益が出る計算だ。
後日、候補者数を減らす方針を表明したが、擁立が決まった候補者はすでに20人を超える。当選者が1人の首長選で、同一の政党・政治団体が複数の候補を擁立するのは異例だが、立花氏は「政治に関心を持ってもらうには、多くの人が立候補を経験することが重要。立候補できない人はポスターで選挙に参加してほしい」と語る。
ただ、同団体のホームページでは「掲示板をジャックして、あなたの知名度やビジネスを広げるチャンス」などと、選挙ポスターを貼るスペースを候補者以外の人に販売するかのような宣伝を行っている。立花氏は「売買ではない」とするが、有権者が投票先を決める際の判断材料となる選挙ポスターをこのように扱うことは許されるのか。
総務省によると、選挙ポスターは他候補への応援や虚偽の内容でない限り、原則として内容は自由。販売行為は公職選挙法の想定外で、禁止規定はないという。担当者は「ポスターは候補者本人の責任で貼るもの。基本的に選挙管理委員会で内容を判断することはない」と話す。ただ、区市町村選管は立候補予定者の大幅増に伴い、前回選より大きな掲示板を用意せざるを得なくなっており、ある自治体の選管幹部は「当選を目的としているか疑わしい人たちのために、余計な税金が使われるのはおかしい」と複雑な心情を明かす。
近年の国政選や知事選を振り返れば、政見放送で候補者が個人的なトラブルの内容を相手の実名や勤務先を明かして語ったり、半裸になって卑わいな言葉を連呼したりする事例も相次ぐ。表現の自由を担保するため、公選法は、放送事業者が政見を「そのまま放送しなければならない」と定めており、カットされずに放送された。テレビやラジオを通じて有権者に政策を訴える場が、悪ふざけともとれる行為に使われている。
法の盲点を突くようなこれらの行為について、早稲田大の日野愛郎教授(選挙研究)は厳しく指摘する。「当選以外の目的で選挙活動を利用するのは、民主主義への挑戦とも言える行為。有権者の政治不信につながりかねず、野放しにしてはいけない」