日産パトロール(4WD/9AT)
頼れるタフガイ 2024.12.24 試乗記 「日産パトロール」がフルモデルチェンジ。かつてわが国でも「サファリ」として販売されていたラージサイズの本格クロスカントリーモデルだ。プロダクト以外のところがなにかと騒がしい日産だが、果たして仕上がりはどんなものか。苦境に立つ日産
ホンダとの統合協議を始めるとの報道に揺れる日産。解説者やらによる電気自動車へのシフトの出遅れやハイブリッド戦略の誤りなど的外れな指摘や、ステークホルダーでもないのに経営陣を知った顔でののしる専門家など、おかげさまで日本の痛いところを思い切り見せていただけている今日このごろだ。
クルマ屋の側からは、現在の日産は商品のポートフォリオが軒並みエアポケットに入ってしまっている。そこが最大の課題のように見える。特に主力たるB~Dセグメントのアーキテクチャーはルノー上位の資本提携時代を引きずりつつ、独自の新しいパワートレインへの移行が果たせず、骨格時点でもう古いし、その古さが走りにもあらわれている状況だ。
産みの苦しみといえばそれまでだが、6年も前になる逮捕劇を契機に、出資比率の変更を織り込めるに至ったのは2023年頭の話なわけで、水面下で進捗(しんちょく)を想定しながらもう少し早く動けなかったものかという無念さはある。つまり経営戦略以前に商品戦略のスピード感のなさや、車台更新がなくとも改良を重ねればまだまだ売れるというおごりが、澱(おり)のように堆積したのが今であって、財務的なところが詰め腹を切らされるような段階ではないという風に見えてならない。コロナが明けるやアメリカの在庫がダブつき、中国に思い切りはしごを外されたのはどこも同じなわけで。
じゃあ日産のエンジニアが独自性をもって新たに開発を手がけると、どんなポテンシャルを発揮するのか。ラッキーなことにこのタイミングで、その答えに好適なサンプルに巡り合うことができた。
ラダーフレームもエンジンも新規開発
2024年の秋、アブダビで発表されたパトロールは中東を中心に、南アフリカやフィリピン、豪州などでも展開を予定するラダーフレームの大型SUVだ。日本ではサファリとして親しまれつつ、2007年に販売が終了しているが、Y63型となるこの新型は日産的カウントでは7代目となる。ちなみに2010年に登場した6代目のY62型では、すでに「アルマーダ」やインフィニティ銘柄の「QX80」など、北米向けの骨モノ系とエンジニアリングを共有していた。全モデルで四輪独立サスを採用するとともに、さらなる差別化のために油圧ハイドロリックのボディーコントロールシステムを備えるなど、エンジニア的にはかなり攻めた内容となっている。日本で売られていない間に、パトロールはかような進化を遂げていたわけだ。
そして新型パトロールは、ラダーフレームの完全刷新に伴いパワートレインやサスペンションも更新された、まったく新しいエンジニアリングを採用している。その大きなトピックとなるの四独エアサスの採用だ。堅牢(けんろう)さを狙ったラダーフレームにロバストネスで不安が残るエアバネを組み合わせるというのはこれまた挑戦的だが、エンジニアはさまざまな耐久検討を重ねて問題のないレベルに達したと胸を張る。が、コスト調整や保険的な意味合いもあるのだろう、エアサスはトップグレードの「プラチナム」のみのアイテムとなる。
ちなみにエアサスの車高調整機能による可動域は120mm。ドライブモードや運転状況に応じて乗降モードからオフロードモードまで、最低地上高は174mm~294mmの範囲で可変し、アプローチやデパーチャーなどの3アングルも走破向けに最適化される仕組みだ。対して四独コイル仕様は車高調整機能を持たず、地上高はちょうど中間値の244mmで固定となる。
ラダーフレームはクロスメンバーをサイドメンバーに貫通させながら溶接固定する新しい構造と工法を採用。ハイテン鋼の使用率を20%高めるなどして、曲げ側で57%、ねじり側で40%も単体剛性を向上させている。そこに搭載されるエンジンは従来の5.6リッターV8の代替的位置づけとして新設計された3.5リッターV6ツインターボのVR35DDTT型で、日産にとっては最後の新造内燃機になるのではとうわさされるものだ。そのアウトプットは最高出力425PS/最大トルク700N・mといずれも前述のV8を上回る。砂丘のアップダウンのような高回転・高負荷域での連続使用を想定し、潤滑系に高圧のスカベンジポンプを採用。油圧系統はボアピッチやバンク角が同じ「GT-R」のVR38DETTのノウハウを活用しているという。製造はVQ以降、日産のV6エンジンの生産拠点となっているいわき工場が担う。
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大人が普通に座れる3列目シート
そのエンジンに組み合わせられるのは北米の「フロンティア」や「フェアレディZ」にも採用されるワイドレシオの9段ATだ。トランスファーの要たる四駆システムはオートを基本とする「オールモード4×4」で、基本は前後が0:100、最大50:50の駆動力配分をドライブモードや走行状況に応じてリニアに可変。それに加えてローギアの副変速機とセンターデフロックも配される。駆動配分はメーター上にバーグラフのようなかたちで視認できるが、サンドやマッドなどのオフロード系モードでは50:50を基本に走行状態に応じて駆動を可変、オンロード系のモードでは前輪側にごくわずかに駆動をプリロードして応答レスポンスを高めた状態でほぼ後輪駆動していることが視認できた。思えばこのあたりのアルゴリズムにも、第2世代GT-Rに搭載された「アテーサE-TS」から連綿と続く日産のノウハウが生き続けている。
ボディーサイズは全長×全幅×全高が5350×2030×1945~1955mmと前型よりひと回りは大きい。外寸でみると国内で正規流通しているクルマとしては「キャデラック・エスカレード」や「ロールス・ロイス・カリナン」に肉薄、もしくは上回る巨体となっている。ホイールベースは3075mmと前型と変わらない。が、ラダーフレームの新設計に伴ってキャビン部のフロアレベルは下げられ、3列目シートへのアクセスや足置きの窮屈さは大きく改善されている。
実際、3列目にも座ってみたが確かに足まわりには余裕があり、大人でも普通に座れるくらいの居住性が確保されている。2列目の着座高も適切で、太ももが上がりがちになるラダーフレーム車の癖はほとんど気にならない。最大級の車格ゆえに当然ではあるものの、ミニバン代わりとしても十分に通用する空間を有している。
試乗コースは砂塵(さじん)混じりのワインディングロードや延々と続く直線道路、そこから足を踏み入れての砂漠のアップダウンなどバラエティーに富んだものだったが、岩場やぬかるみ地のようなセクションはなかった。最大市場の中東で想定されるハードユースを経験したという感じだろうか。
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目指したのは砂漠王
オンロードでの乗り味についてはまったくケチをつけるところはない。キャビン別体のラダーフレームならではの堅牢さや守られ感はそのままに、四独エアサスのいいところがうまく引き出せていて、上下のバウンシングや左右の揺すられなど、不快な動きは軒並み嫌みなくきれいに抑え込まれている。モノコックのSUVのようにはいかずとも、肉薄するような快適性を備えているといえるだろう。コーナリングでも操作に対する動きのズレや遅れみたいなものは感じさせず、ロールのダイアゴナル感もしっかりドライバーに伝えながら接地感豊かに振る舞ってくれるため、軽くはない巨体を気にすることなく自信をもって走ることができた。
開発者自ら「パトロールは砂漠王を目指し続けてきた」ということもあって、砂地でのトラクションにもまったく不安感はない。深さや砂質から足をとられて潜っていく恐れがありそうな丘でも、持ち前のパワーと前後輪の駆動制御で難なく越えていく。エンジンは高速燃焼を採り入れているというが、強い爆発に伴う振動や濁音はよく抑えられていて、高回転域までスキッと回ってくれる。そういう使い方をしていればもちろん燃費はダダ下がりだが、オンロードの100km/h巡航時の推移を見てみると、おおむね10km/リッターに近い数字は望めそうだった。
製造は九州工場という新型パトロールの、現時点での日本導入はまったくの白紙だ。が、商品力強化やラインナップのにぎやかし、はたまた純粋にエンジニアリング的な観点からも、日本での発売を望む声は社内には多いという。グレードにもよるものの、想定価格が4ケタ万円の大台前後と推察すれば、車格とも相まって日本には無理だろうという判断もなされそうだが、日産には3000万円級の「GT-R NISMO」に客が殺到するという不思議な引き出しもある。独自性が高く動的質感に優れたプロダクトに引かれるのは、昔からの日産の客筋なのかもしれない。
自分が判断できるのはその動的質感という点だが、それについて新型パトロールは文句なしで太鼓判を押せる。「ランクル“300”」や「ディフェンダー」、それにエスカレードといった思い浮かぶライバルたちが持ち合わせない走りの総合力と洗練ぶりが、確かにこのクルマには備わっている。明日、日本にやってきても十分に戦える。そんな仕上がりだった。
(文=渡辺敏史/写真=日産自動車/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
日産パトロール
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5350×2030×1945mm
ホイールベース:3075mm
車重:2813kg
駆動方式:4WD
ンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:425PS(313kW)/5600rpm
最大トルク:700N・m(71.4kgf・m)/3600rpm
タイヤ:(前)275/50R22 111H M+S/(後)275/50R22 111H M+S(ブリヂストン・アレンザ スポーツA/S)
燃費:--km/リッター
価格:--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:オンロード&オフロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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