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ロイヤルエンフィールド・クラシック350(5MT)

新車で買えるクラシック 2024.12.28 試乗記 後藤 武 ロイヤルエンフィールドの歴史を体現するクラシックなモーターサイクル、その名も「クラシック350」。往年のバイクの姿を今日に伝える一台だが、受け継いできたのはスタイルだけではなかった。伝統の積み重ねが生んだ、味わい深い走りを報告する。
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その形に歴史が宿る

レトロなデザインはいろいろな分野で人気が高く、バイクでも往年の名車のモチーフを取り入れたモデルがたくさんある。しかし、レトロ風マシンの多くは、当時のイメージを取り入れつつ、現代風にアレンジしているものがほとんどだ。

ロイヤルエンフィールドのクラシック350が違うのは、1948年に原点となるモデルが登場したときから、そのデザインを守るべく努力していることだ。変えない、というのは簡単そうなことだが、実はとても難しいことでもある。工業製品は時代に合わせて進化していく宿命にあるからだ。求められる性能を満足させながら、変化を最小限に抑えるべく努力してきた結果が、現在のクラシック350なのである。

今回発表された2025年モデルでは、LED式のヘッドランプが採用され、USB Type-Cのソケットを設置。スマホと連動してナビの道案内を表示するディスプレイも追加されている。このディスプレイは、曲がる方向と距離という最低限の情報を表示するものになっていて、外観はコンパクトかつクラシカルにまとめられている。これで、ハンドルにスマホを取り付けて雰囲気を台無しにする必要もなくなるだろう。他の変更点といえば、カラーバリエーションが7色になったくらいなのだが、このモデルに関してはそれでいいのだろう。変わらないことがアイデンティティーだからである。

搭載されるエンジンは、2021年発売の「メテオ350」から導入が始まった、排気量349ccの空冷単気筒SOHC。空冷でありながら高い信頼性と耐久性、環境性能を持っている。このエンジン、特に高いパフォーマンスを追求したものではないが、ストリートを走ってみるととても完成されていることがわかる。空冷のエンジンは油圧タペットのおかげでメカノイズが少なく、とても滑らかな回り方をするし、シフトペダルをローに踏み込むと軽いタッチでスコンと気持ちよくギアが入る。エンジンを始動して走りだすまでの短い時間でも、とても高い精度を持っていることが伝わってくる。

「クラシック350」は、2008年登場の「ブリットクラシック」を直接の起源とするロイヤルエンフィールドの基幹車種だ。今日では「ブリット350」ともども、往年のモーターサイクルの姿を今日に伝える存在となっている。
「クラシック350」は、2008年登場の「ブリットクラシック」を直接の起源とするロイヤルエンフィールドの基幹車種だ。今日では「ブリット350」ともども、往年のモーターサイクルの姿を今日に伝える存在となっている。拡大
試乗会場に飾られた、往年の「ロイヤルエンフィールド・ブリット500」。ブリットは1932年に登場した画期的なモーターサイクルで、1948年に戦後型のモデルが登場(発売は1949年)。その意匠は、今日の「クラシック350」に受け継がれている。
試乗会場に飾られた、往年の「ロイヤルエンフィールド・ブリット500」。ブリットは1932年に登場した画期的なモーターサイクルで、1948年に戦後型のモデルが登場(発売は1949年)。その意匠は、今日の「クラシック350」に受け継がれている。拡大
上級モデルのメーターまわりには、新たにTFTディスプレイを追加。ロイヤルエンフィールドの携帯アプリと連携させれば、バイク用ナビゲーションシステム「トリッパー」の道案内を表示させることができる。
上級モデルのメーターまわりには、新たにTFTディスプレイを追加。ロイヤルエンフィールドの携帯アプリと連携させれば、バイク用ナビゲーションシステム「トリッパー」の道案内を表示させることができる。拡大
カラーバリエーションは全7種類。きらびやかなクローム仕様に加え、モダンなダーク調のカラーや、軍用バイクを思わせる迷彩色、ヘリテージを感じさせるブルーやレッドなども用意される。
カラーバリエーションは全7種類。きらびやかなクローム仕様に加え、モダンなダーク調のカラーや、軍用バイクを思わせる迷彩色、ヘリテージを感じさせるブルーやレッドなども用意される。拡大

飛ばさなくても楽しめる

外観だけでなく、昔のシングルが持っていたフィーリングが大事にされているのも、このエンジンの魅力だろう。最近のエンジンは高効率化や小型化などのためにクランクマスが小さめなものも少なくないが、クラシック350はクランクマスがたっぷり確保されている。簡単に言うと、クランクが重いのである。重いクランクは回りだすのに力が必要だが、一度回ってしまえば、その回転には大きな慣性が働くので、粘り強く、力強いフィーリングを生み出す。ロングストロークの単気筒エンジンは爆発と爆発の間隔が長いので、ガタガタとしたフィーリングになってしまうこともあるが、これも重いクランクがスムーズなものにしてくれる。

その結果、クラシック350のエンジンは、単気筒の鼓動と排気音を心地よく感じさせてくれながらも、とても滑らかな加速を生み出している。多少回転を落としてもエンストしないし、クラッチ操作をゆっくり行えば、アイドリングのまま平然とスタートできてしまうくらいのイージーさがある。

気をよくして走りだすと、それなりにキビキビと走ることもできそうな感じがするのだが、実際の加速自体は大したことがなく、速度計の針の上がり方もゆっくりとしたものだ。ただ、力強いフィーリングのおかげでそれでも十分に楽しい。速度違反をまったく気にすることなく加速感を楽しめるというのが、このマシンの魅力なのだと思う。

反面、高回転の回り方はそれなり。引っ張っていっても、特にパワーが盛り上がることもなくリミッターが作動してしまうが、そもそもそんな楽しみ方をするバイクではないので、問題にはならないだろう。高回転でも振動は多くないので、高速道路の巡航も法定速度レベルならつらくはないはずだ。

前後サスペンションの動きはとてもスムーズ。ダンピングは強めではないけれど、適度にサスの動きを抑えてくれている。エンジン同様にサスペンションの外観もクラシカルなのだが、とてもしっとりとした動きは旧車のそれとは大違い。ブレーキも不安なくバイクを止めてくれる。

ハンドリングは安定性が強めな味つけだ。積極的にマシンをコントロールしてコーナリングを楽しむという感じではないが、十分に乗りやすくて安心感もあって、クラシック350にマッチした性格である。スポーツライディングなどは特に想定していないはずだが、足まわりや車体がしっかりしているので、多少ペースを上げてコーナーに飛び込むような走り方をしても、まったく不安感はなかった。適度なスピードでワインディングロードを楽しむのにも、十分な性能を持っている。

空冷単気筒エンジンの粘り強いトルクと鼓動感、小気味よい排気音が魅力的な「クラシック350」の走り。大きなクランクマスもあって、エンジンの振動は存外にマイルドだ。
空冷単気筒エンジンの粘り強いトルクと鼓動感、小気味よい排気音が魅力的な「クラシック350」の走り。大きなクランクマスもあって、エンジンの振動は存外にマイルドだ。拡大
今日の「350」シリーズの骨格となるのは、新世代のツインダウンチューブクレードルフレームと349cc空冷単気筒エンジンからなる「Jプラットフォーム」である。2021年導入の新世代プラットフォームだけに、見た目はクラシックだが性能はモダンだ。
今日の「350」シリーズの骨格となるのは、新世代のツインダウンチューブクレードルフレームと349cc空冷単気筒エンジンからなる「Jプラットフォーム」である。2021年導入の新世代プラットフォームだけに、見た目はクラシックだが性能はモダンだ。拡大
メーターまわりでは、モノクロの小さなインフォメーションディスプレイに、ギアポジションのインジケーターが追加されたのもトピック。
メーターまわりでは、モノクロの小さなインフォメーションディスプレイに、ギアポジションのインジケーターが追加されたのもトピック。拡大
サスペンションは、前がφ41mmのテレスコピックフォーク、後ろが6段階のプリロード調整機能を備えた、ガス封入式ショックアブソーバー(ツインショック)の組み合わせだ。
サスペンションは、前がφ41mmのテレスコピックフォーク、後ろが6段階のプリロード調整機能を備えた、ガス封入式ショックアブソーバー(ツインショック)の組み合わせだ。拡大
フロントに備わるφ300mmのブレーキディスク。安全にかかわるポイントだけに、ブレーキやサスペンションといった足まわりの装備はモダンで、いずれも十分な性能を有している。
フロントに備わるφ300mmのブレーキディスク。安全にかかわるポイントだけに、ブレーキやサスペンションといった足まわりの装備はモダンで、いずれも十分な性能を有している。拡大
装備のアップグレードも2025年モデルのトピック。前後の灯火はLED式となり、ハンドルまわりにはUSB Type-Cポートを装備(写真)。上級モデルのブレーキ/クラッチレバーは、手のサイズに合わせて調整が可能なアジャスタブル式となった。
装備のアップグレードも2025年モデルのトピック。前後の灯火はLED式となり、ハンドルまわりにはUSB Type-Cポートを装備(写真)。上級モデルのブレーキ/クラッチレバーは、手のサイズに合わせて調整が可能なアジャスタブル式となった。拡大
シート高は805mmで、足つき性は良好。押し引きする際にペダル類がちょっと気になる程度だ。本国仕様はソロシートだが、日本仕様にはピリオンシートが標準で装備される。
シート高は805mmで、足つき性は良好。押し引きする際にペダル類がちょっと気になる程度だ。本国仕様はソロシートだが、日本仕様にはピリオンシートが標準で装備される。拡大
クラシックなスタイルやエンジンフィールと、モダンなパフォーマンスを併せ持つ「ロイヤルエンフィールド・クラシック350」。毎日乗れる、不安なく走らせられるクラシックモデルとして、広くお薦めできる一台だ。
クラシックなスタイルやエンジンフィールと、モダンなパフォーマンスを併せ持つ「ロイヤルエンフィールド・クラシック350」。毎日乗れる、不安なく走らせられるクラシックモデルとして、広くお薦めできる一台だ。拡大

古典の魅力とモダンな品質

クラシックバイクはデザインだけでなく、その走行フィーリングが魅力だ。特に往年のシングルエンジンのバイクは、完全に整備されていれば素晴らしく官能的な走りをする。ただ、古いバイクを維持していくのは簡単なことではないし、ブレーキやサスペンションなど、重要な部品を見ていくと現在の道路事情にはそぐわないところも多い。そういった点のすべてを現代のレベルで改善し、かつ当時のバイクの楽しさと美しさを失っていないというのがクラシック350の素晴らしいところ。長くつくり続けているからこそ可能になったことだ。

クラシックバイク好きは「現代の技術で当時の名車を再現してくれたら」と話したりすることがある。実際にはかなわぬことと知りながら、そんな妄想をすることがよくあるのだが、その夢を実現してしまっているのが、クラシック350なのかもしれない。

国産車にしか乗ったことがないライダーの間には、外車の信頼性を心配する人もいるが、クラシック350には新車から走行距離無制限で3年間の保証がつく。それだけ耐久性と信頼性に自信があるということなのだろう。旧車好きなライターの後藤としては、自分でメンテナンスができないことを少し寂しく感じてしまうけれど、多くの人はこの完成度の高さを歓迎するはずだ。

(文=後藤 武/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)

ロイヤルエンフィールド・クラシック350
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ロイヤルエンフィールド・クラシック350(5MT)【レビュー】の画像拡大

【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2145×785×1190mm
ホイールベース:1390mm(本国仕様)
シート高:805mm
重量:195kg
エンジン:349cc 空冷4ストローク単気筒SOHC 2バルブ
最高出力:20.2PS(14.9kW)/6100rpm
最大トルク:27N・m(2.75kgf・m)/4000rpm
トランスミッション:5段MT
燃費:--km/リッター
価格:69万4100円~72万8200円

後藤 武

後藤 武

ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。

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