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発売から3年で生産終了 電気自動車「ホンダe」に何があったのか

2023.12.21 デイリーコラム 佐野 弘宗
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生産終了の決定打は欧州での販売不振?

ホンダ初の本格量産バッテリー電気自動車(BEV)といえた「ホンダe」が生産終了する。この原稿を書いている2023年12月中旬現在、ホンダeの公式ウェブサイトには、次のような文言が赤字で掲載されている。

「Honda eは、2024年1月をもって生産終了いたします。生産分が売り切れ次第、Honda eは販売終了となります(以下略)」

ホンダeは欧州でも販売されていたが、その欧州での受注もすでに停止した。欧州発売が2020年夏、国内発売が2020年10月末だったから、その生産・販売期間はわずか3年強ということになる。

その理由については、各メディアともほぼ例外なく「販売不振」と伝えている。国内販売計画は年間1000台だったが、実質3年間での累計登録台数は1800台弱というから、計画の半分強ということになる。ただ、日本はまだマシだ。年間1万台の計画だった欧州にいたっては、3年間で1万1000台強と、計画のわずか3分の1にとどまった。

その販売計画からも分かるように、ホンダeは、軸足を完全に欧州に置いた商品だった。実際、開発陣も「このクルマの企画は欧州CAFE(企業別平均燃費基準)対応のためにスタートした」と明言していた。これでしっかり欧州CAFEをクリアすれば、主力のハイブリッドも遠慮なく売れるし、利益率の高い「シビック タイプR」のようなクルマの台数も増やせる。

そう考えると、ホンダeは本来なら英国スウィンドン工場でつくられるべきクルマだったはすだが、「ホンダ、英国工場閉鎖へ」と日本経済新聞が報じたのは、ホンダeがちょうど開発中だった2019年2月(実際に同工場で生産が終了したのは2021年7月)だった。

結局ホンダeは寄居工場で全数が生産されて、日本での販売は欧州市場のいわばオコボレ(?)というのが実情に近かったと思われる。生産終了の決定打になったのも、日本より欧州での販売不振と考えるほうが自然か。

2020年10月30日に発売されたホンダ初の本格電気自動車(BEV)「ホンダe」。都市部での利用を想定したコンパクトなBEVとして登場した。上級グレードの「アドバンス」(写真)の車両本体価格は495万円。
2020年10月30日に発売されたホンダ初の本格電気自動車(BEV)「ホンダe」。都市部での利用を想定したコンパクトなBEVとして登場した。上級グレードの「アドバンス」(写真)の車両本体価格は495万円。拡大
ボディーサイズは全長×全幅×全高=3895×1750×1510mm、ホイールベースは2530mmで、新開発のリアモーター・リアドライブのBEV専用プラットフォームを採用。4.3mという小さな最小回転半径と、後輪駆動ならではの走りもセリングポイントとされた。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=3895×1750×1510mm、ホイールベースは2530mmで、新開発のリアモーター・リアドライブのBEV専用プラットフォームを採用。4.3mという小さな最小回転半径と、後輪駆動ならではの走りもセリングポイントとされた。拡大
ダッシュボードに12.3インチのモニターを2枚並べた「ワイドスクリーンHonda CONNECTディスプレイ」を配置。クラウドとAI技術を活用した対話型のインフォテインメントシステム「Hondaパーソナルアシスタント」を組み込んでいた。
ダッシュボードに12.3インチのモニターを2枚並べた「ワイドスクリーンHonda CONNECTディスプレイ」を配置。クラウドとAI技術を活用した対話型のインフォテインメントシステム「Hondaパーソナルアシスタント」を組み込んでいた。拡大
「ホンダe」は欧州への輸出用も含め、埼玉の寄居工場(写真)で全数が生産された。デビュー時にアナウンスされた国内販売計画は年間1000台だったが、実質3年間での累計登録台数は1800台弱にとどまった。
「ホンダe」は欧州への輸出用も含め、埼玉の寄居工場(写真)で全数が生産された。デビュー時にアナウンスされた国内販売計画は年間1000台だったが、実質3年間での累計登録台数は1800台弱にとどまった。拡大
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趣味的BEVは時期尚早だったのか

ホンダeは、初代「シビック」を思わせるキュートなデザイン、全面液晶インパネやデジタルサイドミラーなどの先進性、リアモーターリアドライブ(RR)による小回り性能と超絶ハンドリング(上級モデルのタイヤは「ミシュラン・パイロットスポーツ4」!)……と、クルマ好きに刺さるキモがテンコ盛りだった。いっぽうで、搭載電池の容量は35.5kWhと小さめで、一充電あたりの航続距離は259km(WTLCモード)と短め。しかも、495万円という本体価格は、同40kWhで300km以上走る日産リーフより明らかに高価だった。

欧州メディアの論調も日本のそれとよく似ており、デザインや走行性能はそれなりに評価されたものの「航続距離が短すぎ。しかも高い」のがネガティブに捉えられたようだ。

ただ、それはホンダeが意図的にねらったところでもある。ホンダeの発売当時に筆者が直接聞いた開発陣の言葉は以下のようなものだった。

「航続距離は短いけれど、だからこそクルマが小さくできた。小さいからできる魅力を徹底的に追求した」
「EVは都市型コミューターであるべきというのが、われわれの考え。欧州では普段のクルマは自宅前の路上に駐車するのが一般的で、そこには小さな空間しかないのが普通」
「欧州ではCセグメント以上はカンパニーカーとして買われるケースが多い。カンパニーカーを所有している人がそれと同じサイズのBEVを買うことは少ないはず」
「正直いって、欧州において“HONDA”というブランドはメジャーではない。大きなドイツ車に乗っている人に、セカンドカーとしてホンダのBEVをあえて買ってもらうには、よほど飛びぬけた魅力や個性といったプラスアルファがないと無理」

……といった開発陣の言葉に、納得感をおぼえる日本のクルマ好きは多いだろう。なぜホンダeがああいうクルマになったのかも、こうした言葉の数々からなんとなく理解できる。

しかし、そんなホンダeをお金を払ってほしがる人が、現実には少なすぎたということだ。欧州のBEV市場がホンダの予測以上に速く進んでしまったのか、あるいは、逆にホンダeのような趣味的BEVは時期尚早だったのか……。

初代「シビック」を思わせるキュートなエクステリアデザインは、デビュー当時かなり話題になった。世界的なデザインアワード「レッド・ドット・デザイン賞」でプロダクトデザインの最高賞も獲得している。
初代「シビック」を思わせるキュートなエクステリアデザインは、デビュー当時かなり話題になった。世界的なデザインアワード「レッド・ドット・デザイン賞」でプロダクトデザインの最高賞も獲得している。拡大
170万画素の高精細カメラを用いたサイドカメラミラーシステムを搭載。天候に影響されにくい視界の提供と、Aピラーまわりの視野拡大を意図して採用したという。
170万画素の高精細カメラを用いたサイドカメラミラーシステムを搭載。天候に影響されにくい視界の提供と、Aピラーまわりの視野拡大を意図して採用したという。拡大
充電に要する時間は3.2kWまでのAC充電で9.6時間以上、6.0kWまでのAC充電で5.2時間以上。CHAdeMO規格の急速充電器を用いれば30分で202kmまで走行可能距離を回復できるという。
充電に要する時間は3.2kWまでのAC充電で9.6時間以上、6.0kWまでのAC充電で5.2時間以上。CHAdeMO規格の急速充電器を用いれば30分で202kmまで走行可能距離を回復できるという。拡大
床下に配置されたリチウムイオンバッテリーの容量は35.5kW。一充電走行可能距離は、「アドバンス」グレードで259km(WLTCモード値)と発表された。
床下に配置されたリチウムイオンバッテリーの容量は35.5kW。一充電走行可能距離は、「アドバンス」グレードで259km(WLTCモード値)と発表された。拡大
リビングをイメージしたという明るく広々とした車内。ぬくもりのある自然な風合いのウッド調パネルを採用し、スイッチ類を極限まで減らすことでシンプルなデザインと人にやさしい操作性を実現したという。開放的なガラスルーフも全車に標準で装備される。
リビングをイメージしたという明るく広々とした車内。ぬくもりのある自然な風合いのウッド調パネルを採用し、スイッチ類を極限まで減らすことでシンプルなデザインと人にやさしい操作性を実現したという。開放的なガラスルーフも全車に標準で装備される。拡大

“ホンダの伝統”からの脱却を願う

ホンダeの実質的な後継BEVとして、次に欧州で発売されるのは「e:Ny1」である。ホンダeとはうってかわった小型SUVスタイルは、まさに欧州BEV市場のど真ん中。電池容量は68.8kWhで一充電走行距離が400km以上。これなら「プジョーe-2008」や「ヒョンデ・コナ」などとガチンコで勝負できそうだ。

このe:Ny1はご想像のとおり、中国で生産・販売される「e:NS1/e:NP1」の欧州仕様というべき存在である。外観は「ヴェゼル」=欧州名「HR-V」によく似るが同じではなく、プラットフォームも新世代BEV専用「e:NアーキテクチャーF」を使う。駆動方式はFF。

まあ、これまでの数字や世の中の流れを見れば、ホンダeの生産終了も、その後継がe:Ny1であることも正論というほかない。しかし、残念なのは「RRレイアウト、前後重量配分50:50、前引きタイロッド」と、すさまじく走りにこだわって新開発されたホンダeのハードウエアが、どうやらこのまま姿を消してしまいそうなことだ。まあ、これだけ特殊な構造だと、転用できるのはスポーツカーくらいかもしれないし、まがりなりにもBEV専用車を累計1万台以上生産・販売した知見が完全に無駄になるわけではないだろう。それにしても、あまりにもったいない!

とはいえ、ホンダの歴史を振り返れば「必要以上に凝ったクルマをつくる→市場がついてこられずに販売不振→あっけないくらいに、すぐやめちゃう」という流れは、ホンダの伝統というか遺伝的体質なので、いまさら文句をいっても詮無いことである(笑)。今度こそは、健闘を祈る。

(文=佐野弘宗/写真=本田技研工業/編集=櫻井健一)

本田技研工業の英国現地法人であるホンダモーターヨーロッパ・リミテッドが2023年5月に発表した新型BEV「e:Ny1」。ホンダの新しいBEVブランド「e:N」シリーズの欧州市場向けモデルだ。
本田技研工業の英国現地法人であるホンダモーターヨーロッパ・リミテッドが2023年5月に発表した新型BEV「e:Ny1」。ホンダの新しいBEVブランド「e:N」シリーズの欧州市場向けモデルだ。拡大
15.1インチサイズのタッチスクリーンをダッシュボードセンターに配置。メーターパネルには10.2インチの液晶ディスプレイが用いられる。
15.1インチサイズのタッチスクリーンをダッシュボードセンターに配置。メーターパネルには10.2インチの液晶ディスプレイが用いられる。拡大
ホンダが「e:NアーキテクチャーF」と呼ぶ、新しいプラットフォームを採用する「e:Ny1」。正味容量61.9kWhのバッテリーを床下に搭載し、約412kmの一充電走行距離を誇る。
ホンダが「e:NアーキテクチャーF」と呼ぶ、新しいプラットフォームを採用する「e:Ny1」。正味容量61.9kWhのバッテリーを床下に搭載し、約412kmの一充電走行距離を誇る。拡大
このままなら、RRレイアウトや前後重量配分50:50、前引きタイロッドといったハードウエア上の特徴は「ホンダe」の一代限りで終わってしまう。必要以上に凝ったクルマをつくり、すぐにやめてしまうのはホンダの伝統か?
このままなら、RRレイアウトや前後重量配分50:50、前引きタイロッドといったハードウエア上の特徴は「ホンダe」の一代限りで終わってしまう。必要以上に凝ったクルマをつくり、すぐにやめてしまうのはホンダの伝統か?拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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