TCFD提言への対応 2024
気候変動対応の基本的な考え方
日本経済新聞社(以下:日経)は、気候変動への対応を重要かつ優先的に取り組む経営課題と位置付けており、すべての事業活動において環境負荷の低減をはかるとともに、メディアの特長を生かし関連する情報発信に努めることで、企業としての社会的責任を果たしていきます。
日経ではメディアの責務として国内外の脱炭素の取り組みや技術革新の最新動向などを手厚く報じています。一方で日経はじめ日経グループ全体では、再生可能エネルギー由来の電力使用を推進しているほか、新聞資材の省資源化や、紙や電気の適切な使用、自然災害に対するサプライチェーンの対応策を含めたBCP強化など、自らの取り組みも進めています。
2022年7月にTCFD提言に賛同し、提言に沿った情報開示を2023年から始め、持続的に取り組んでまいります。
日経の環境情報を含めたサステナビリティ情報については、弊社ウェブサイトや有価証券報告書にも掲載しております。
ガバナンス
気候変動の取り組みは2022年9月に発足した「サステナビリティ委員会(委員長:長谷部剛社長)」で原則年2回審議し、役員が経営方針を議論するグループ経営会議で承認します。グループ経営会議で承認した内容は、定期的に取締役に報告し、取締役会の監督を受けることとします。
取締役会は、気候変動問題の担当役員を任命するとともに、経営計画などのレビューや投資の判断の際、気候変動問題全般を考慮して決定を下します。
排出量削減の目標達成にあたっては、各事業部門が削減に取り組み、サステナビリティ委員会がその進捗を監視します。

戦略
日経はTCFD提言で例示している気候変動によるリスク・機会をベースに、シナリオ分析を実施しました。気温上昇を「2°C以下」とするケースを含む複数のシナリオについては、低炭素社会への移行を想定した「1.5°Cシナリオ(※1)」と、気候変動の物理的リスクを想定する必要がある「4°Cシナリオ(※2)」を選びました。2つのシナリオにおける中長期(2030年、2050年)の事業環境の変化、気候変動のリスクと機会を確認しました。分析したシナリオのいずれにおいても、分析対象事業ではレジリエントな経営を行うことが可能だと確認しています。
▼[1.5°Cシナリオ(※1)]
産業革命前からの気温上昇が21世紀末で1.5°Cに抑えるシナリオ。脱炭素社会が進むことに伴う政策規制、技術などのコスト、市場動向、評判などのリスクが生じる。試算ではIEA(国際エネルギー機関)やIPCC(気候変動に関する政府間パネル)などの情報をもとに、2050年のネットゼロを達成する「IEA NZE」などを採用した。
▼[4°Cシナリオ(※2)]
気候変動への対策が進まず産業革命前からの気温上昇が21世紀末で4°Cに到達するシナリオ。自然災害の激甚化、海面上昇などの気候変動に伴う物理的リスクが高まる。試算ではIEAやIPCCなどの情報をもとに、気温が2.6~4.8°C上昇する場合の「IPCC RCP8.5」、各国が表明済みの政策を実施することを織り込んだ「IEA STEPS」などを採用した。
項目 | 概要 | 事業への影響 | 対応策 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
1.5°Cシナリオ | 4°Cシナリオ | ||||||
2030年 | 2050年 | 2030年 | 2050年 | ||||
リスク | 炭素価格変動 |
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小 | 小 | 小 | 小 |
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原材料コスト |
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中 | 中 | 中 | 中 |
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エネルギーコスト |
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小 | 小 | 小 | 小 |
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物理的リスク対応 |
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小 | 小 | 中 | 中 |
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機会 | 災害情報需要 |
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小 | 小 | 中 | 中 |
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ESG情報の需要 |
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中 | 大 | 小 | 小 |
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「1.5°Cシナリオ」では伐採税導入やエネルギー価格上昇による原材料コストの増加、「4℃シナリオ」は森林火災の激甚化による用紙コストの増加、自然災害による被害額増などが、事業・経営に一定の影響を与える可能性があります。他方、1.5℃シナリオでは、サステナビリティに関心の高いミレニアル世代やZ世代、海外を含めたESG投資家向けの情報提供の拡大、4℃シナリオにおいては、自然災害情報の即時提供や関連記事の展開などで、大きな役割を果たす必要があると認識しています。2023年に策定した2030年グループ長期経営計画を反映するなどした結果、前回の分析よりリスクが小さくなった部分と、機会が大きくなった部分があります。
これらの分析結果を踏まえ、日経グループ全体で再生可能エネルギー由来の電力の調達を拡大するとともに、これまでも取り組んできたエコインキ、古紙配合率の高い新聞用紙の利用を引き続き進めてまいります。メディアとしては2022年に創刊した脱炭素社会への変革のヒントを探るデジタルメディア「NIKKEI GX」などを通じ、これからも脱炭素化をめぐる積極的な情報発信を行います。社内ではエネルギー効率の高い機器やサービスへの見直し、各種機器の利用頻度の適正化などを進めていきます。
リスク管理
日経グループでは、気候関連のリスクをグループ全体の経営リスクと位置付けています。経営の安定性を保ち、企業価値の向上につなげるため、業務内容に応じたリスク管理体制を整備しております。具体的には、各事業部門が日経のサステナビリティ委員会、サステナビリティ委員会事務局と協働し、リスクの識別と管理を行います。そのうえで、サステナビリティ委員会がリスクを評価します。
リスクは中長期的な観点から、低炭素社会への移行を想定した「1.5°Cシナリオ」と、気候変動の物理的リスクを想定する必要がある「4°Cシナリオ」の2つを想定し、経営や事業への影響を定期的に識別・評価します。評価にあたっては、各リスクの発生に伴う財務へのインパクトを総合的に判断し、とりわけ影響が大きいリスクについて、大・中・小の3段階で評価することとしています。こうしたリスク評価の結果はグループ経営会議と取締役会に適宜報告し、グループ全体で取り組みを点検・監督します。
識別・評価 | 管理 | 報告 |
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指標と目標
世界共通の課題として国際社会が脱炭素に向けた動きを加速し、温室効果ガス(GHG)排出量削減による地球温暖化抑止は必須の活動となっています。日経グループも脱炭素社会の実現に向け、政府の排出削減目標と連動した取り組みを進めています。事業活動におけるGHG排出量を把握し、着実な削減につなげます。
日経と連結対象会社を含むグループでGHG排出を実質ゼロにする「カーボンゼロ」を目標に掲げています。2019年のGHG排出量(=CO2排出量。CO2以外は5%未満のため省略)は自社の燃料燃焼やエネルギー消費に伴う排出(スコープ1およびスコープ2)が4.5万トン、バリューチェーンの排出であるスコープ3を含むと合計80.6万トンでした。2030年までにスコープ1とスコープ2の実質ゼロを実現し、さらに2050年にスコープ3を含めカーボンゼロを目指します。

グループのGHG排出量の推移
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
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80.6万トン | 72.7万トン | 60.4万トン | 55.8万トン | 54.1万トン |
※2021年は算定をより精緻にしたことによる減少も含みます。 2024年7月には、新聞用紙購入に伴う排出量(スコープ3に該当)について
「購入金額」ベースから「購入物量」ベースに、過去の排出量を含めて算定し直しました。