常用薬の作用によって「物忘れ」が生じるのはなぜか
認知症患者の中で最も多いのはアルツハイマー型認知症で、日本では全体の約7割を占めると推計されています。物忘れや見当識障害、不安やうつといった症状が特徴的で、近年は認知症という言葉が浸透したことで「高齢で物忘れが増えたら認知症に違いない」と考える方も多くいらっしゃいます。しかし、認知症の疑いで受診した患者さんの中には、処方薬が原因となる認知機能障害のケースも報告されており、特に高齢者では注意が必要です。
その原因のひとつに「第1世代抗ヒスタミン薬」が挙げられます。アレルギー反応を引き起こすヒスタミンをブロックする働きがあり、花粉症や鼻炎、皮膚のかゆみといったアレルギー症状に対して有効な薬です。一方で、ヒスタミンは脳内の覚醒や記憶を担っているので、ヒスタミンの働きが阻害されると、眠気を誘発したり覚醒が低下してボーッとするといった副作用が起こりやすいのです。
また、過活動膀胱や気管支喘息の治療薬には「抗コリン作用」を持つ成分を含み、副交感神経の神経伝達物質であるアセチルコリンを抑制します。アセチルコリンは脳の中でも使われている神経伝達物質でもあるため、抗コリン作用の強い薬剤を使用すると、高齢者においてせん妄や記憶障害、認知機能を障害するリスクを高めます。