ジゴワットレポート

映画とか、特撮とか、その時感じたこととか。思いは言葉に。

コロナ禍を最強の小道具とした自主制作映画『怪獣のいる暮らし』を「今」観て欲しい

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「特撮」という2文字には様々な意味がある、といったことは、このブログでも何度も取り上げてきた。今や「ヒーロー番組」として使われることの多い単語だが、その根底にあるのは、「現実には無いものを創造する」ための技術、ならびにアイデアの粋である。

 

現実に怪獣は存在しないから、着ぐるみを作る。実際の街は破壊できないから、ミニチュアを並べる。本当の爆発は起こせないから、人為的にそれをやってみせる。それらをカメラに収めることで、現実にはあり得ない世界が完成する。そこにこそ、「特撮」の魅力があるのだろう。その先がヒーローか怪獣かというのは、あくまで次の話だ。

 

しかし、「現実に無いもの」だからこそ、それが「現実」に肉薄する時、ハッと、何かに気づくことがある。例えば「初ゴジ」こと1954年の『ゴジラ』は、先の大戦の恐怖を擬獣化した性格を持っているし、『シン・ゴジラ』が持つ心臓を締め付けるようなパワーも、2011年の東日本大震災を外しては語れない。作中における「虚構」が、我々が生きる「現実」のすぐ裏にある。それに気付かされた時の、あの妙な感覚、冷や汗をかく体験こそも、「特撮」の醍醐味だと感じている。

 

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いつものように前置きが長くなったが、そんな「特撮」と「虚構」の面白さの観点から、Twitterで出会った自主制作の怪獣映画を紹介したい。

 

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www.youtube.com

 

 

keita nakashimaさんは、現在放送中の『ウルトラマンZ』でも監督を務められている田口清隆監督主催の全国自主怪獣映画選手権にも参加されている方である。(第14回にて上映された『izolla』もすごいので、こちらも同時にオススメしたいところ。)

 

 

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さて、『怪獣のいる暮らし』だが、いわゆる一般的な怪獣映画のイメージとは異なる物語になっている。巨体がビルを破壊してドンパチやる内容ではない。突如空から降ってきた怪獣が街中に居座ってしまい、それから発せられる有毒ガスによって一般市民の外出が制限されてしまった世界を描く、シミュレーション性の強いあらすじだ。

 

またもや話が逸れてしまうが、この、「怪獣が出現した場合のリアルシミュレーション」というものは、どうしようもなくオタク心をくすぐってくる。

 

『シン・ゴジラ』は政府や自衛隊の対応をシミュレーションと理詰めで描いた傑作だし、同じアプローチとしては、平成ガメラ一作目『ガメラ 大怪獣空中決戦』も外せない。『仮面ライダークウガ』もそういったフェチを存分に詰め込んだ作品だ。田口監督の『ウルトラマンZ』も、今まさに毎週土曜日、フェチフェチの拳で我々を殴り続けてくれる(最高!)。「怪獣」も描くけれど、同時に、あるいはそれ以上に、「怪獣が出現した世界」を描く。そんな魅せ方。(最近ネットで話題になった漫画『怪獣8号』もベースはこのアプローチですね)

 

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『怪獣のいる暮らし』はまさにそのパターンで、実際の作品でいくと、『ウルトラQ』が最も近いかもしれない。特筆べきは、そのリアルシミュレーションの内容が、今まさに起きているコロナ禍を扱っていることにある。このアイデアが、ばっちりとキマっているのだ。

 

まず冒頭、面接が中止になったことを嘆く主人公。「こんな状況だから仕方ないですよね・・・」という台詞が妙に生々しい。ここ数ヶ月、日本でこのフレーズが何万回発せられたことだろう。

 

しかし、主人公が遭遇しているのはコロナ禍ではない。突如現れ街中に鎮座する、動かない怪獣である。その怪獣に刺激を与えないために、外出が制限されてしまっているのだ。更には、発せられる未知の物質が人体に影響を及ぼすかもしれない、と。日常が、怪獣の存在ひとつで一変しているのだ。

 

ここで面白いのが、作中で扱われる「虚構」が、現実におけるコロナ禍にしっかり肉薄している点である。「離職されたかたへ」というリーフレットや配付されたアベノマスクが映るカットがあるが、これがそっくりそのまま、「怪獣災害における世界での政府の対応」として描写される。2020年現在、この設定であれば、小道具が無限に供給されているにも等しいのだ。

 

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怪獣災害において、どうして3密を避ける必要があるのだろう。人が集まれば集まるだけ怪獣を刺激する可能性が高まるからだろうか。洗濯ものも外には干せない。怪獣から放たれる物質が怖いからだ。もちろん仕事にも行けない。離職者も出る。求職者も困る。道路には誰もない。ニュースでは速報が相次ぎ、SNSや掲示板では政府を罵り嘆く人が多発する。

 

『怪獣のいる暮らし』は、コロナ禍という「現実」を巧みに「虚構」に引き寄せながら、「現実には無い世界」に肉をつけていく。

 

我々は怪獣が居る世界に住んだことはないけれど、その世界を疑似的に体験することはできるのだ。時代によって、戦争や大震災、未知のウイルスによる苦しい日常が、脳裏に刻まれているからである。自主制作映画なので、予算も手間も贅沢にはかけられない。だからこそ、観る側が持っている「実体験」や「肌感覚」を最強の小道具として活用する。なんとも真っすぐなアプローチだ。

 

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一般市民の声がガヤガヤする描写も、一昔前なら雑踏を撮る必要があったかもしれないし、あるいは新聞の印刷機がグルグル回って見出しがドーン!のパターンも王道だった。

 

しかし、今やSNSや掲示板である。そこに非科学的なデマが並んだり、かこつけて自分の主張を叫ぶヤツがいたりと、そういう情景こそが今の「リアル」最前線なのだ。『怪獣のいる暮らし』は、その辺りも非常に抜かりがなく、観ていてついニヤニヤしてしまう。

 

更には、物語の後半、これがどうして面白いテーマに踏み込んでくるから気が抜けない。怪獣出現により日常が破壊されたことを、どこか楽しんでいる自分はいないか。望んでいた自分はいないか。「非現実」に全く高揚感を覚えていないと言い切れるのか。そういった、どこかヒヤリとするテーマにも踏み込みつつ、王道のオチに至るまで、keita nakashimaさんの狙いが隙間なくぎっしりと詰め込まれている。私が思う「特撮の面白さ」は、つまりはこういうことではないだろうか。

 

上映時間は10分。ぜひ、コロナ禍という「現実」が記憶に新しい(というより現在進行形な)今だからこそ、観て欲しい作品である。「今」、「すぐ」、観ることの旨味がすごい。

 

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最後に。「めちゃくちゃ面白かったのでブログで紹介させて欲しい!」とTwitterでお願いしたところ、スクショの掲載まで含めて快諾してくださり、ありがとうございました。私もアベノマスクが「数日」で届く世界に住みたかったです。

 

ゴジラと東京 怪獣映画でたどる昭和の都市風景

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