ジゴワットレポート

映画とか、特撮とか、その時感じたこととか。思いは言葉に。

漫画のウソは音楽のホント。『SOUL CATCHER(S)』はなぜこんなにもファンタスティックなのか

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改めて数えてみたら、私が吹奏楽を始めて約20年が経っていた。

 

まあ、絶え間なくやっていた訳ではなく、離れた時期もあったけれど、その間もよく吹奏楽の演奏を聴きに行っていた。パートはパーカッション(打楽器)。高校時代の青春はその9割が吹奏楽だし、就職してからも社会人バンドで音と付き合う日々を送っていた。

 

そんな私が愛して止まない漫画が、2013年に週刊少年ジャンプで連載を開始した『SOUL CATCHER(S)』という作品だ。ソウルキャッチャーズ、つまり「魂を掴む者(達)」というこの漫画は、高校吹奏楽を題材にジャンプらしいバトルとスポ魂を魅せてくれる作品である。なんとも意味不明な説明だが、どうしようもなくマジなのだ。

 

SOUL CATCHER(S) 2 (ジャンプコミックス)

SOUL CATCHER(S) 2 (ジャンプコミックス)

SOUL CATCHER(S) 2 (ジャンプコミックス)

  • 作者:神海 英雄
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2013/11/01
  • メディア: コミック
 

 

※当記事は、移転前のブログに掲載した記事を転載し、加筆修正を行ったものです。(初稿:2015/7/24)

 

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あらすじを簡単に説明すると、主人公は神峰翔太という高校生で、人の心がビジュアルとして「見える」能力を持っている。その心が喜んでいるのか、悲しんでいるのか、どう変化しているのか。とにかく、常日頃から人の本心が「見えて」しまうのだ。いかにもジャンプらしい特殊能力設定だが、下手に人の心が見えてしまうことで人付き合いに恐怖心を覚えてしまった彼は、文化祭でも独りぼっちになり、人と関わるのを諦めていた。


そこに現れたのが、吹奏楽部に所属するサックス奏者・刻阪響。天才的なサックスの音色で人の心を「掴む」ことができる男。しかし彼は、誰よりも救いたいはずの幼馴染の少女の心を掴むことができず、大いに悩んでいた。その少女は歌手を目指していたが、声が出なくなり入院し、心を閉ざしてしまっていたのだ。

 

人の心が「見える」神峰翔太、しかし彼は心を「掴む」ことができない。対して、サックスで人の心を「掴む」ことができる刻阪響は、幼馴染の少女の心が「見え」ずに悩む。この2人が出会い、「見える」神峰と「掴む」刻阪が協力して幼馴染の心をサックスの音色で「救い上げる」のが、この『SOUL CATCHER(S)』第1話のクライマックスである。この経験から、刻阪は神峰を「指揮者」として、吹奏楽部に招き入れる。その「見える目」は、自分たちの音を導けるはずだ、と。


こうして神峰翔太は吹奏楽部に入部するが、いきなり同年代が「指揮者志望」として入部しても歓迎されるはずがない。当然、顧問の先生が指揮者なのだ。各楽器のパートリーダーたちと対立を繰り返しながら、神峰翔太は人付き合いという茨の道を進んでいく。その結果、鳴苑高校吹奏楽部は次第に変わり始めるのであった・・・。


作者は、『ジョジョの奇妙な冒険』荒木飛呂彦のアシスタント経験もある、神海英雄。独特のタッチとテンポ、唯一無二のセリフ回しと表現力は、荒木門下の成せる技か。前作『LIGHT WING』は、今でも一部でカルト的な人気を誇っている。『SOUL CATCHER(S)』はVomic化を果たしたが(主演声優は鈴木達央と阿部敦)、未だ映像化の報は聞こえず・・・。アニメで観たい。とにかく観たい。同時に、聴きたい。

 

ジョジョリオン(21) (ジャンプコミックス)

ジョジョリオン(21) (ジャンプコミックス)

  • 作者:荒木 飛呂彦
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2019/07/19
  • メディア: コミック
 
LIGHT WING 1 (ジャンプコミックス)

LIGHT WING 1 (ジャンプコミックス)

  • 作者:神海 英雄
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2010/12/29
  • メディア: コミック
 

 

そんな本作のストロングポイントは、「音楽」と「心」の描き方だ。

 

主人公・神峰翔太は人の心が見えるため、相手が何に悩んでいるのか・何に葛藤しているのか、それをビジュアルで捉えることができる。リーダーとしての重圧に苦しんでいる者、純粋に楽しむ気持ちを隠してしまった者、二番手につい甘んじてしまい実力が発揮できない者・・・。神峰はそこにどう切り込んでいくべきか真剣に悩み抜き、それが刻阪響の協力を経て、「音楽」という形の特効薬となる。

 

「音楽」は、もちろん目に見えない。その日の演奏者の気分ひとつで、音色がガラッと変わったりする。仲が悪い人同士の演奏は綺麗なハーモニーになりにくいし、信頼関係が築かれていればテンポや拍子が一瞬で合ったりする。

 

「音楽」はただ楽譜通りに演奏してそれでOK、というものではない。特に吹奏楽でコンクールに出るとなると、数十人で行う究極のチームプレーだ。野球よりサッカーより、他のどの部活より大人数での一体感が求められる。高校吹奏楽となると、友情も恋もあるし、人間関係がガタガタになるのはある程度明白。高校吹奏楽経験者は、口をそろえて「人間関係が面倒臭い」と言うだろう。だからこそ、それを乗り越えて本番の演奏に辿り着いた時、感動はプライスレスなのだ。


本作における「心」とはこの場合の「人間関係」であり、これは「音楽」とは切っても切り離せない。ソロコンテンストに出るならまだしも、多人数での演奏に人間関係の問題は付き物だ。だからこそ『SOUL CATCHER(S)』は、それを何よりもメインのテーマに据える。人の心がビジュアルとして「見える」、そんな少年漫画的なギミックを用いてはいるが、衝突からの和解、友情や対立など、やっていることは現実の高校吹奏楽そそのままである。

 

超能力という漫画のウソは、音楽のホントなのだ。だからこそ面白く、フィクションなのにリアルで、妙に心にグッとくる。

 

SOUL CATCHER(S) 10 (ジャンプコミックスDIGITAL)

SOUL CATCHER(S) 10 (ジャンプコミックスDIGITAL)

SOUL CATCHER(S) 10 (ジャンプコミックスDIGITAL)

  • 作者:神海英雄
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2016/01/04
  • メディア: Kindle版
 

 

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高校吹奏楽のリアル、そして「人付き合い」という恒久のテーマにこれでもかと突っ込んでいく神峰翔太は、段々と部内の信頼を勝ち得ていく。

 

そんな彼が猛勉強の末に学生指揮者として成長していくのだが、彼はそこで驚きのスタイルを身に付けていく。何を隠そう、彼の指揮棒からは「虹」が出るのだ。うーん、実に「漫画」である。しかし、これも実は、正真正銘の「ウソがリアル」なのだ。

 

神峰が指揮をしながら発する虹には、演奏の指示が乗っかっている。テンポの指示、音程の指示、どんなふうに演奏すれば良いのか。彼は「虹で指示が出せる指揮者」として成長していく。それまでは演奏中に実際に声を上げたりもしていたのだけど、やはり喋りながら指揮をする訳にはいかない。

 

もちろん言うまでもなく、実際の指揮者は虹は出さない(むしろ出せない。当たり前である)。しかし、本当に熱を込めた指揮をする人からは、この漫画がウソに思えないほどに、的確な指示が飛んでくるのだ。演奏中の、指揮者からの一瞬のアイコンタクト。向けられる視線、膝から上半身へのほんのわずかな体重移動、肘から指先にかけての動き、表情。その全てがビームのように演奏者の脳天を直撃することは、実はよくある。演奏中の、ほんの一瞬の出来事なのだが、まさにウソの「虹の指揮」のように、具体的な指示が言葉でなく感覚で脳に届く。そんな瞬間が、確かにあるのだ。


それは、それまでの練習で紡いだ信頼関係や共通認識、そして指揮者の技術・力量にもよるのだけど、とにかく神峰翔太の「虹の指揮」はあながちウソではないのだ。もちろん漫画的にデフォルメされているし、まるで視覚的に虹が飛ぶように描かれているけれど、割とマジで指揮棒からビシッと「無言で具体的な指示」が飛んでくるのである。私と同じ吹奏楽経験者なら、共感してもらえるだろうか。

 

重ね重ね、一見それこそジャンプ的な(少年漫画的な)ウソが、音楽という場ではホントなのだ。だからこそ面白いし、ゾクゾクする。私はこの「虹の指揮」が初登場した回を読んだ時、一瞬で鳥肌が立ったのをよく覚えている。こんなに突飛な漫画なのに、なんて「リアル」なんだと。

 

エル・クンバンチェロ

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  • 吹奏楽fun(鹿児島情報高校吹奏楽部)
  • クラシック
  • Â¥204
  • provided courtesy of iTunes
春よ、来い

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  • KYOTO PIANO ENSEMBLE
  • サウンドトラック
  • Â¥153
  • provided courtesy of iTunes

 

『SOUL CATCHER(S)』の面白さは、このウソとホントの融合にある。

 

真に迫った漫画のウソ、怖いくらいのリアルをベースにした漫画のウソ、それらに次第に夢中になってしまうのだ。更には、ジャンプ漫画らしく「音の色」や「音の味」を感じることのできるライバルたちの存在や、部活内での友情・努力・勝利、主人公と同じ「心が見える能力」を持ちながらそれを悪用しようとする者など、多彩なバリエーションで読者を楽しませてくれる。友情も恋もあり、心が模す様々なビジュアルは創意工夫に満ちている。

 

この漫画は、決して「超能力吹奏楽漫画(笑)」などと馬鹿にする類のものではない。高校生たちの真剣な戦いを描いた、絶対に唯一無二の「バトルファンタスティック吹奏楽漫画」なのである。

 

怒涛の『エル・クンバンチェロ』対決や、金管パートの過去と再生、ついに始まる吹奏楽コンクールと、とにかく見所が尽きない。週刊少年ジャンプ本紙から『少年ジャンプNEXT』へ、更には『少年ジャンプ+』と、度重なる移籍を繰り返した本作。他でもない読者からの根強い人気がそうさせたのだろう。今でもずっと、映像化を願ってやまない。そんな大切な一作である。

 

shonenjumpplus.com

 

SOUL CATCHER(S) 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

SOUL CATCHER(S) 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

  • 作者:神海英雄
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2013/12/04
  • メディア: Kindle版
 
SOUL CATCHER(S) Interlude  小説版 1 (JUMP j BOOKS)

SOUL CATCHER(S) Interlude 小説版 1 (JUMP j BOOKS)

  • 作者:成上 真
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/11/04
  • メディア: 新書
 

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