ジゴワットレポート

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感想『ジョン・ウィック:パラベラム』 三度目の復讐相手は、彼を裏社会へ引き戻す「世界」そのもの

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きっかけは、趣味の友人からTwitterで勧められたものと記憶している。改めて、厚く御礼を申し上げたい。

 

『ジョン・ウィック』は、キアヌ・リーブスがアラフィフの身体を酷使しながら銃と柔術を融合させた「ガン・フー」を披露するアクション映画だ。亡き妻が遺した愛犬をロシアンマフィアのドラ息子に殺され、復讐心に駆られた元殺し屋のジョンは、勢いのまま組織ごと壊滅させてしまう。殺し屋ご用達のホテルや、アンダーグラウンドな裏社会のシステムなど、その作り込まれた世界観にも見事に引き込まれた。

 

その続編である『ジョン・ウィック:チャプター2』は、前作で好評だったアクションと世界観設定をひたすらに強化。復讐中毒となったジョンに、街中からエンドレスで殺し屋が襲いかかる。前作で犬と友人を失い、続いて車も家も無くしたジョンは、その魂を猛烈な勢いで擦り減らしていく。そして遂に、聖域ホテル内で殺人を行うという禁忌に触れたジョン。彼は追放処分を受け、世界中から狙われることとなる。悪夢に追われて逃亡するジョンの後ろ姿が、ラストカットとして印象的だ。

 

そして、満を持しての『ジョン・ウィック:パラベラム』(原題には『Chapter 3』の記載あり)。期待がかかるのは、更なるアクションのバリエーションと美麗さ、そして逃亡者となったジョンの終着点である。本当に楽しみにしていた続編だったため、なんとか仕事の都合をつけ、公開日朝イチの劇場に駆けつけることができた。

 

John Wick: Chapter 3--Parabellum (Original Motion Picture Soundtrack)

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まず何より、アクションの多彩さに尽きる。この点において、本当に期待以上のものを観ることができた。

 

同シリーズのアクションは、あまりに洗練されたプロ仕様を楽しむ作りになっている。泥臭い戦いや拳を交わすといった内容ではなく、はたまた、CGを駆使した人工的な戦いでもない。キアヌ・リーブスが身体を張って挑む、元殺し屋の美しいアクション。正確に銃口を向け、無駄なく頭を撃ち抜き、一対多の戦線を見事に突破していく。その独特のテンポがあまりにお見事なので、拳を握って興奮しながらも、思わずうっとりと眺めてしまうのだ。この点、1作目のキャッチコピー【見惚れるほどの、復讐】は、実に的を射ていた。

 

そして、その洗練されたアクションを彩るのは、戦いが繰り広げられるシチュエーションやギミックだ。自宅に侵入してくる敵を待ち構える銃撃戦に始まり、洞窟での乱戦、地下鉄構内でのサイレンサーの撃ち合い、鏡張りの美術館での戦闘など、ビジュアル面でもかなりの工夫が見られる。ここに、「ガン・フー」だけに留まらず、ナイフは当然ながらバイクや車を駆使した文字通り「体当たり」なアクションが取り揃えられている。なんと豪華な見本市だろう。

 

この点、『パラベラム』は前作以上の進化を見せてくれた。

 

まず冒頭、図書館でのアクション。本棚より背が高そうなノッポの殺し屋相手に、本一冊で挑むジョン。本を盾のように使ったかと思えば、お次はグローブのように活用し、最後は首に本を突き立てて思いっきりドン!次々と披露されるアイデアの数々に、否が応でも期待が高まっていく。

 

続く、観ている側もアドレナリンが爆発する乗馬アクション。ダークスーツに身を包んだジョンが颯爽と黒い馬にまたがり、夜の街を駆ける。通り過ぎていく車のライトや街のネオンも合わせて、もうこのビジュアルの奇天烈さ、一周しての妙な説得力が素晴らしい。そして、馬に乗りながらバイクで迫りくる敵を見事に倒していく。なんと痛快なことか!一歩間違えば最高に馬鹿馬鹿しいからこそ、最高なのだ。『ジュラシック・ワールド』での、バイクと並走するラプトル軍団を思い出す。

 

そして、アクションのバリエーションは尽きることがない。敵の銃を奪いながら犬を従えて繰り広げられる乱戦では、ハル・ベリー演じるソフィアが新たな見どころとなっている。長い髪を振り回しながら、的確に犬への指示を飛ばすハル・ベリー。2匹の犬が次々と敵の股間を噛み砕いていく様子に、どうしようもなく拍手したい衝動に駆られてしまう。

 

その後も、ホテルに乗り込んでくる敵兵士との白兵戦、美術品に囲まれた部屋で豪快にガラスに叩きつけられながらのインファイト(ガラス割りがあまりにテンドンすぎて笑えてくる)、ナイフとベルトを使った近接戦闘、そしてドス。キアヌ・リーブスは、一体どれだけアクションの訓練を積んだのだろう。見応えばかりであった。

 

繰り広げられるアクションは、ただ垂れ流されるだけでなく、絶妙なカメラワークとカット割りで捉えられる。スタントを極力使わない生身アクションも見所のため、カットが細かく割られることは少ないのだが、だからといってテンポの良さが損なわれることはない。

 

例えば、序盤の屋内での戦闘シーン、戦う手をぴたりと止めたジョンと敵は、互いに見合わせたように陳列棚のガラスを割り、そこにあるナイフを手に取って戦闘に戻る。これを一度見せておいて、新たな敵が追加で現れ同じように陳列棚のガラスを割ると、カットが切り替わった直後、ジョンもすでに別の棚をガラスを割ってナイフを手にしているのだ(そして気付いた時にはナイフを使った次の攻撃に移っている)。シチュエーションから戦法を学び敵の一手先をいくマシーンのような技術を、絶妙なテンポで表現しているのである。

 

ジョンの「プロフェッショナルさ」を演出するシーンは、枚挙にいとまがない。咄嗟に銃を改造するシークエンスや、闇医者との信頼関係を思わせるくだり、彼を庇ったことで窮地に陥るも何だかんだでジョンのことを想っている裏社会の権力者たち。ジョンが裏社会で過ごした年月とそのキャリアを感じられただけで、なぜこうも嬉しくなってしまうのだろう。

 

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物語は、世界そのものとも言える裏社会から追放されたジョンが、その運命に反抗する様を追っていく。来る日も来る日も殺し屋に狙われ、常に満身創痍のジョン。しかし彼は、亡き妻との思い出をこの世に留めるためにも、生き続けたいと願う。それは果たして、裏社会に舞い戻ることを意味するのか、それとも・・・。

 

『ジョン・ウィック』はよく「犬を殺されたから復讐する」という語り方をされるが、厳密にはあの犬は「犬」ではなく、「表社会の象徴」なのだろう。愛した妻と表社会で暮らすために、馴染みも信頼関係もある裏社会から脱したジョン。しかし、妻は亡くなり、犬も殺され、友人も亡き者にされた。彼を表社会に留めておく要素が、一枚一枚、確実に剥がされていく。そして、居心地の良い裏社会は、彼をもう一度引き戻すかのように手招きをし続ける。

 

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しかし2作目、車も家も失い「表社会の象徴」が遂に底を尽きたジョンは、復讐に我を忘れてしまう。それは哀しい殺し屋の性か、彼の人間性がそうさせるのか。そしてそのまま、裏社会に舞い戻るかと思いきや、そこにある秩序までもを破ってしまう。「表社会の象徴」が無くなり、間髪入れず、「裏社会の象徴」を自らの手で破壊してしまったのだ。彼の人生がマイナス方向にカンストした恐怖、それこそが『チャプター2』の大きなポイントであった。

 

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続く3作目『パラベラム』にて、彼は表社会に戻ることができるのか。あるいは、裏社会に忠誠を尽くすというバッドエンドが待っているのか。中盤、世界を統べる存在と相対したことで、彼に突きつけられる二者択一。彼の魂がどちらに転ぶのか、その結末に興味があった私にとって、同作の後半は非常に興味深かった。全てを犠牲にして表社会に殉じることもできず、かといって、裏社会に再び染まることも受け入れられない。ジョンの苦悩はいつまでも終わらない。

 

擦り切れたジョンの魂は、ロシアンマフィアへの復讐、誓印相手への復讐を経て、遂には世界(現実)そのものを相手に復讐をおっ始めるのだ。

 

クライマックス、物語の要として存在していたコンチネンタルホテルが戦いの舞台となり、物語は大見せ場に突入していく。「もっと強い酒をくれ!(意訳)」のシーンには心底笑ってしまったし、進化した防弾技術への対抗策にもニヤリ。ランス・レディック演じるホテルのコンシェルジュが遂に戦闘に参加するのも激アツであった。

 

愛聴しているラジオ番組「アフター6ジャンクション」の特集インタビューにて、チャド・スタエルスキ監督は、ダンス等のパフォーマンスショーの哲学を本作に盛り込んだと語っている。弾を込め直す様子や敵と取っ組み合う柔術は、「もたついて見える」という理由で、これまでやや避けられてきたという。しかし、リズム良くテンポ良く、パフォーマンスのようにそれらを披露することができれば、観客はきっと湧いてくれるだろう、と。

 

まさに、本作のアクションはさながらショーであった。「演舞」の概念にも近いだろうか。天晴である。絶妙なライティングにより彩られたサイケな世界観に、今回もまた見事に虜にされてしまった。報道によるとすでに2021年の続編公開が決定しているとのことなので、ジョンの終わりのない悪夢と復讐を、三度心待ちにしたい。

 

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あと、タイラー・ベイツとジョエル・J・リチャードによる、鳴り響く打ち込みのスコアがまた豪快&緻密であった。アクションの組み立てに合わせた強弱・フレーズ構成になっているので、叶うなら音の良いシアターでの鑑賞がオススメである。

 

ジョン・ウィック:パラベラム

ジョン・ウィック:パラベラム

 

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