【日時】2022年5月14日(土)16:00~
【会場】東京文化会館 大ホール
【演目】オルフ『カルミナ・ブラーナ』
【管弦楽】東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
【指揮】齊藤栄一(O.F.C.桂冠指揮者)
【演出振付】佐多達枝
【ソロ歌手】
ソプラノ中江早希
テノール金沢青児
バリトン加耒 徹
【舞踊】酒井はな 浅田良和 島地保武 三木雄馬 植田穂乃香 上野祐未 宇山たわ
浦山英恵 岡 博美 斎藤隆子 齊藤 耀 坂田めぐみ 清水あゆみ 樋田佳美
土肥靖子 贄田麗帆 森田真希 荒井成也 吉瀬智弘 牧村直紀 安村圭太
他。
【合唱・コロス】オルフ祝祭合唱団
【児童合唱】O.F.C.少年少女合唱団 O.F.C.少年少女合唱団 新宿少年少女合唱団
東京滝野川少年少女合唱団 戸田市児童合唱団 バレエこんぺいとうの会
日高市少年少女合唱団コーロ・トゥッティ
【曲目解説】
カルミナ・ブラーナ(ラテン語: Carmina Burana)は、19世紀初めにドイツ南部、バイエルン選帝侯領にあるベネディクト会のベネディクトボイエルン修道院(ベネディクトボイエルン: Benediktbeuern)で発見された詩歌集。その中の歌(少数の宗教劇を含む)は約300編にのぼり、ほとんどがラテン語、一部が中高ドイツ語あるいは古フランス語で書かれていた。歌詞のテーマは、I) 時代と風俗に対する嘆きと批判、II) 愛と自然、愛の喜びと苦しみ、III) 宴会、遊戯、放浪生活、IV) 宗教劇である。
カール・オルフがこれに基づいて作曲した同名の世俗カンタータがあり、様々な映像作品などで利用されるなど、一般においてはこの曲によって名が知られている。
オルフの「カルミナ・ブラーナ」は、舞台形式によるカンタータであり、『楽器群と魔術的な場面を伴って歌われる、独唱と合唱の為の世俗的歌曲 (Cantiones profanæ cantoribus et choris cantandæ comitantibus instrumentis atque imaginibus magicis 英訳例:Secular songs for singers and choruses to be sung together with instruments and magic images)』という副題が付いている。オルフは前記の詩歌集から24篇を選び、曲を付けた。「初春に」「酒場で」「愛の誘い」の3部から成り、その前後に序とエピローグがつく。1936年に完成し、翌1937年6月8日にフランクフルト歌劇場で初演され、全世界に名前を知られるようになった。
【作曲者】カール・オルフ(Carl Orff/1895-1982)WIKIPEDIAより
軍人の家系で誕生したが、家族は早くから秀でた彼の音楽の才能を伸ばす事に協力した。その後、公立学校を中退。ミュンヘン音楽学校で学ぶ。初期の作曲(歌や管弦楽)と音楽劇の試みは(特にリヒャルト・シュトラウスによる)身近な環境に影響された。ドビュッシーの音楽とメーテルリンクの著作に惹かれていた。その間シェーンベルクの研究も続けていた。
1915年から1919年までは戦役のために短い中断があったが、ミュンヘン室内楽団(1917年)とマンハイムやダルムシュタット(1918-19)の劇場で指揮や合唱等の指導をした。1920年ハインリッヒ・カミンスキー(Heinrich Kaminski, 1886年 - 1946年)に師事。カミンスキーは9歳年長で1930年代にベルリン音楽大学のマスター・クラスの教授をした作曲家で、ドイツ・バロック音楽復興に大きな寄与をした人物である。
1920年代に舞踏教師のドロテー・ギュンター (Dorothee Günther) に出会い、彼女と共に、1923年ミュンヘンに体育・音楽・舞踏を教えるギュンター・シューレ(Günther Schule 学校)を設立した。1925年、このギュンター・シューレに参加して1936年まで音楽を教えていた。クルト・ザックス からの提案に従いモンテヴェルディの劇作品を発見。オルフによるモンテヴェルディのオルフォイスの編曲(初演は1925年マンハイム)は好評を博し、ドイツ語でのモンテヴェルディの舞台を復活させた点で決定的なものとなった。オルフはモンテヴェルディの作品を通して、彼独自の音楽言語と彼の音楽劇を特徴づけることになった。
オルフの作品の基礎はこの時代に遡ることができる。身振り手まねの音楽 (Gesticulative music) を当初から目指していた。オルフにとって「フーガやソナタといった純音楽を書くことは不可能である。そういった形式の可能性は、すべて18,9世紀に使い果たされてしまった。劇場音楽こそ未だ開拓されざる世界であり、そこに可能性を見いだすことができる」という。
当時、最も興味をもって研究したのは、スイスの教育者・作曲家エミール・ジャック=ダルクローズ (1865-1950) の提唱したリトミックの理論であった。ダルクローズは音楽教育の実践を提唱して20世紀のバレエに少なからぬ影響を与えた(例 ニジンスキー、クルト・ヨース等)。一方、ヒンデミットの提唱した実用音楽 (Gebrachsmusik) の理論に影響を大きく受けており、音楽教育者としてリトミックと実用音楽のシステムによる教育用の作品を書き始める。
1930年頃の作品が「教育音楽(Schulwerk)」であり、1950年から1954年にかけて、彼の門下のグニルト・ケートマン (Gunild Keetman) の協力の下で全面的に改定されムジカ・ポエティカ に纏められている。初歩レベルの子供達がミュージシャンとして、容易に、楽しく演奏ができるため、世界中の教育現場で利用されている。
カルミナ・ブラーナの成功編集
1937年6月8日、フランクフルト・アム・マインの市立劇場で初演された「カルミナ・ブラーナ」は大成功を修めドイツ各都市で上演された。
しかし、第2次世界大戦の勃発によってドイツと他国との文化の交流が断絶したため、カール・オルフの名は同世代のイベール (1890-1962)、プロコフィエフ (1891-1953)、オネゲル (1892-1955)、ミヨー (1892-1974)、ヒンデミット (1895-1963)(ドイツ人だが1938年亡命))等よりも国外で知られるようになるのは遅かった。国際的に名が知られるようになったのは1954年で、59歳頃でレコード化された後である。カルミナ・ブラーナの成功によって自信を得たオルフは、出版社ショットに寄せた手紙の中で、「今までの作品すべて破棄して欲しい。と言うのは私にとってカルミナ・ブラーナが本当の出発点になるからである」と記している。
【曲目】
〇全世界の支配者なる運命の女神(フォルトゥナ) FORTUNA IMPERATRIX MUNDI
- おお、運命の女神よ(合唱)O Fortuna (Chorus)
- 運命の女神の痛手を(合唱)Fortune plango vulnera (Chorus)
〇第1部: 初春に 1. PRIMO VERE
- 春の愉しい面ざしが(小合唱)Veris leta facies (Small Chorus)
- 万物を太陽は整えおさめる(バリトン独唱)Omnia sol temperat (Baritone Solo)
- 見よ、今は楽しい(合唱)Ecce gratum (Chorus)
〇芝生の上で UF DEM ANGER
- 踊り(オーケストラ)Dance (Orchestra)
- 森は花咲き繁る(合唱と小合唱)Flore silva (Chorus & Small Chorus)
- 小間物屋さん、色紅を下さい(2人のソプラノと合唱)Chramer, gip die varwe mir (Sopranos & Chorus)
- 円舞曲: ここで輪を描いて回るもの(合唱) - おいで、おいで、私の友だち(小合唱)Reie: Swaz Hie gat umbe (Chorus) - Chume, chum, geselle min (Small Chorus)
- たとえこの世界がみな(合唱)Were diu werlt alle min (Chorus)
〇第2部: 酒場で 2. IN TABERNA
- 胸のうちは、抑えようもない(バリトン独唱)Estuans Interius (Baritone Solo)
- 昔は湖に住まっていた(テノール独唱と男声合唱)Olim lacus colueram (Tenor Solo & Male Chorus)
- わしは僧院長さまだぞ(バリトン独唱と男声合唱)Ego sum abbas (Baritone Solo & Male Chorus)
- 酒場に私がいるときにゃ(男声合唱)In taberna quando sumus (Male Chorus)
〇第3部: 愛の誘い 3. COUR D'AMOURS
- 愛神はどこもかしこも飛び回る(ソプラノ独唱と少年合唱)Amor volat undique (Soprano Solo & Boy's Chorus)
- 昼間も夜も、何もかもが(バリトン独唱)Dies, nox et omnia (Baritone Solo)
- 少女が立っていた(ソプラノ独唱)Stetit puella (Soprano Solo)
- 私の胸をめぐっては(バリトン独唱と合唱)Circa mea pectora (Baritone Solo & Chorus)
- もし若者が乙女と一緒に(3人のテノール、バリトン、2人のバス)Si puer cum puellula (3 Tenors, Baritone, 2 Basses)
- おいで、おいで、さあきておくれ(二重合唱)Veni, veni, venias (Double Chorus)
- 天秤棒に心をかけて(ソプラノ独唱)In trutina (Soprano Solo)
- 今こそ愉悦の季節(ソプラノ独唱、バリトン独唱、合唱と少年合唱)Tempus est iocundum (Soprano, Baritone, Chorus & Boy's Chorus)
- とても、いとしいお方(ソプラノ独唱)Dulcissime (Soprano Solo)
〇白い花とヘレナ BLANZIFLOR ET HELENA
- アヴェ、この上なく姿美しい女(合唱)Ave formosissima (Chorus)
〇全世界の支配者なる運命の女神 FORTUNA IMPERATRIX MUNDI
- おお、運命の女神よ(合唱)O Fortuna (Chorus): 冒頭の曲を再び最後に持ってきている。
【1曲目&終曲の歌詞詳細】
FORTUNA IMPERATRIX MUNDI
O Fortuna,1 |
おぉフォルトゥーナ |
velut luna2 |
あたかも月のような |
statu variabilis,3 |
ありさまは変わりやすく、 |
semper crescis4 |
常に満ち行き |
aut decrescis;5 |
あるいは欠け行き |
vita detestabilis6 |
生きざまは忌まわしく |
nunc obdurat7 |
今は無情にする |
et tunc curat8 |
またこんどは癒やしている |
ludo mentis aciem,9 |
戯れに、精神のまなざしに対して、 |
egestatem,10 |
貧困さえ、 |
potestatem11 |
権力さえ |
dissolvit ut glaciem.12 |
溶かしてしまう、氷のようにして。 |
Sors immanis13 |
運命、怖ろしい |
et inanis,14 |
そして虚しい、 |
rota tu volubilis,15 |
車輪、おまえは回り、 |
status malus,16 |
ありさまは邪悪で、 |
vana salus17 |
空っぽの救いで |
semper dissolubilis,18 |
常に容易に溶け去り、 |
obumbrata19 |
陰にかくれて |
et velata20 |
そしてベールに包まれて |
michi quoque niteris;21 |
私にもまたのしかかり; |
nunc per ludum22 |
今は戯れで |
dorsum nudum23 |
背中を裸で |
fero tui sceleris.24 |
差し出そう、おまえの悪行にあたり。 |
Sors salutis25 |
運命、救いの |
et virtutis26 |
そして美徳の |
michi nunc contraria27 |
私に今や背を向ける |
est affectus28 |
高揚は |
et defectus29 |
そして失意は |
semper in angaria.30 |
常にそれに隷従させられる。 |
Hac in hora31 |
ここで、この時に |
sine mora32 |
遅れることなしに |
corde pulsum tangite;33 |
弦を響かせて弾け; |
quod per sortem34 |
このことを、運命によって |
sternit fortem,35 |
打ち倒すことを、強者とて、 |
mecum omnes plangite.36 |
私とともにすべてのものが嘆け。 |
【器楽構成】
・合唱から編成される2重独唱(テノール2、バリトン、バス2)、大混声合唱、小混声合唱(大合唱から編成できる)、児童合唱
・フルート3(ピッコロ1持ち替え)、オーボエ3(コーラングレ1持ち替え)、クラリネット3(バス・クラリネット1持ち替え)、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ(5個、ピッコロ・ティンパニも含む)、打楽器: 奏者5(グロッケンシュピール、シロフォン、カスタネット、クレセル、クロタル、トライアングル、アンティーク・シンバル3、シンバル4、タムタム、鐘3、チューブラーベル、タンブリン、小太鼓、大太鼓)、チェレスタ、ピアノ2、弦五部
【上演の模様】
或る音楽情報を見たら、この公演のことが書いてあり、そこには、「最終公演」とあるではないですか。こうした「舞踊劇」の存在は知っていたし、曲としての「カルミナブラーナ」も知っていましたが、ダンス、合唱、オーケストラの三位一体の上演は見たことがありませんでした。今後他の団体がやるかどうか分からないし、ひょっとしてこれが「舞踊劇」として観れる最後のチャンスかも知れないと思い、公演間近になって急遽チケットを求めたものです。
配布されたプログラムを見たら、演出・振付の佐多達枝と言う人は、わが国の女流作家の草分けの一人、佐多稲子の次女ではないですか。稲子は戦前、芥川龍之介や坪田譲治他の多くの文人達とも交流があり、女流プロレタリア文学で名を馳せ、戦後は文学賞を多数受賞しました。その高名は知っていました。何故なら自分が小さい時(多分就学前)、母親が色んな女流作家の小説が好きで読んでいて、そのうちの一人だったからです。自分は一度も読んだことがないのですが。達枝氏がこうしたバレエの分野に生涯を掛けられたのも、親譲りの才能と、育った環境が豊かだったからでしょう、きっと。 さて『カルミナ・ブラーナ』に関しては、上記の曲目解説にある様に、世俗カンタータとしてオルフが作曲したものです。バッハには多くのカンタータがあり、教会カンタータが多いのですが、中には「コーヒーカンタータ」の様な世俗カンタータも作りました。オルフのこのカンタータでは、どぎついとも言える程の、運命の女神に呼びかける強烈で印象的な旋律を使っていて、映画やCM、プロレスラーの登場BGMなどにさえ使われる歌が、「カルミナ・ブラーナ」の第一曲目と最終曲です。
「カルミナ・ブラーナ」の旋律は比較的単純で親しみやすいのが特徴ですが、何度も何度も繰り返される強烈なリズムが最大の特徴と言えます。
そして歌われる歌詞はラテン語(ラテン語で歌われる曲といえばモーツァルトなどのレクイエムやミサなど神聖な旋律が多いですね)ですが、繰り返される話し言葉のようなリズムによって歌われるため、非常に独特な歌詞に聞こえます。日本語で歌われているのではと勘違いする程です。
歌の内容は、中世の人々の生活の中でのことや恋のこと、楽しいことや悲しいこと、酒のことやお笑い草等々多岐に渡ります。一般に「カルミナ・ブラーナ」の詩が作られた中世は、暗黒の時代とも呼ばれることもありますが、ここで歌われているのは、現代の私達とあまり変わらない人間の生活の生き生きとした内容が多いのです。
歌は、三人のソリスト歌手と 90人規模のオルフ合唱団(混声)、それに幾つかの児童合唱団の混成チームからなり、特徴は合唱の他に「コロス」と呼ばれる歌いながら身振り手振り、或いは短い移動を同時にする部隊がいたことです。
またダンスの方は、東京バレエ団や東京シティ・バレエ団、谷バレエ団他の混成ダンサーチームプラス4人の我が国トップクラスのバレエダンサーを含めた30人近くから成る踊り手が舞台狭しと踊りまくりました。
以上が「カルミナ・ブラーナ」上演の二本柱とすると三本目の柱は、管弦楽団です。それを務めたのは、東京シティ・フイルハーモニック管弦楽団でした。コンマスは、戸澤哲夫氏、最近活躍華々しい若手ヴァイオリニストの戸澤采紀さんの父親です。
豊富な打楽器や色彩豊かな三管編成14型の大編成オーケストラで、聴きごたえがありました。その大編成オーケストラゆえに、合唱との音量バランスをとるのが難しい曲でもあります。結論を言うと全体的バランスは管弦楽優勢の上演だったかなー。合唱が少し弱い気がしました。勿論冒頭と最後の ❝O Fortuna~❞の歌は迫力がありましたが。舞台のダンスも動きを分解すると、幾つかの要素の組合せと繰り返しで、全体的に単調さは感じても、美しさは余り感じられなかった。ソリストも、一流の歌手陣ですから立派に役割をこなしていましたが、「それなりに」と但し書きが付くかな?圧倒する様な迫力にはもう一つと言った感じ。ソプラノが一番良かった気がします。
上演が終わってほぼ満員(9割以上は入っていたと思います)の会場からは大きな拍手が、いつまでも名残惜しそうに続いていました。自分としては、聴く前の期待値が大き過ぎたのか、満足度、上の中くらいでした。
追記:配布されたプログラムは、内容が豊富、詳細が良く分かる優れモノでした。これだけのページでこの内容だったら、通常有料に値するものです。最後の顧客サービスも充分ですね。