【再掲】なぜ円安は止まらないのか 円相場「1ドル200円超え」の暴落リスク? エコノミストのエミン・ユルマズさんに「高井さん」が聞く!
高井「マイナス金利解除を織り込む形で日米の金利差は縮小してきている。金利差だけから見ると、円相場は1ドル140円程度まで円高方向に修正されてもおかしくない」
ユルマズ「その通りだ。ではなぜ年初来、円安が進んできたかと言えば、まず日銀がマイナス金利解除後も急いで利上げはしないというメッセージばかり出してきたことがある。そして、もう1つの要素が新NISAの外国株買いだと思う。1月、2月とも、月前半にドルが大きく上昇し、後半は横ばいか少し調整した。これはNISAの積み立ての設定日に関係しているのだろう」
高井「NISAの積み立てのドル買いは『出っぱなし』になるし、今後だんだん膨らんでいく可能性がある」
ユルマズ「その通りだ。放っておけば多分年間で1ドル5~6円の円安要因になる。それを先に織り込んで為替市場が動いていると考えると、日米金利差以上に円安が進んでいる実態と辻褄が合う」
今の円安には構造的な理由がある
ユルマズ「実は私は、あまり日銀関連の動きは気にしなくていいと考えている。2023年にYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)を修正した際にも、一時的に円高になったがすぐに円安に戻った。今の円安には構造的な理由があり、やはり日本の貿易収支が関係している。かつては延々と金融緩和をやっていても円の水準を支えられる分厚い貿易黒字があった。今は日本のデジタル化が進めば進むほど、お金が海外へ出ていく。ソフトウェアにしてもAI(人工知能)にしても、リードしている会社は日本にはない」
高井「クラウドなどのITサービスの利用が、サービスの赤字として出ていく」
ユルマズ「その一部はインバウンドの円買い、外国人が日本に来てお金を使うことで相殺はできるとは思う。ただ日本はまだデジタル化の初動にある。今後どんどんデジタル化・AI化が進み、データセンターやクラウドの利用が増える。やはり日本の貿易サービス収支はどんどん悪化していく。これは継続的な円安要因になる。それを金融政策で阻止する覚悟が日銀にあるかと言うと、私はないと思う。そうした円安を阻止したいと考えるなら、マイナス金利解除にとどまらず、2~3%ぐらいまで金利を上げなければならない」
高井「通貨防衛の意味合い、円安発のインフレ圧力まで止めたいと思うなら、そこまでやらなければいけないだろう」
ユルマズ「そうだ。私は日銀が2%程度まで金利を上げるとは思えない。だから目先のドル円は米国の金利が主因で動く。長期の円安シナリオは変わらない。一方で、長期にわたって金融政策を緩和的にすると、何か起きた場合の急速な円高リスクを高める。(低金利通貨を借りて高金利通貨に投資する)キャリートレードが膨らんでしまうからだ」
高井「リスクオンの間にキャリートレードが積み上がり、リスクオフになるとその巻き戻しで売っていた円を買い戻す。その場面だけ取れば、すごい円高圧力になる」
ユルマズ「私は日本の金融政策は為替を不安定にしていて、ボラティリティを大きくしていると思う」
制御不能の円暴落リスク
ユルマズ「1ドル150円ぐらいをキープすることで日本にサプライチェーンが戻ってくるという議論はその通りだろう。ただ、長期的に見て150円で止まる保証はどこにもない。コントロールを失ってしまうと200円、 250円といった水準もあり得る。金融市場とはそもそもコントロールできないものだ」
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。