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『ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版』服部正也 46歳で超赤字国家の経済を再建した日本人がいた

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50年売れ続けているロングセラー

オリジナル版の『ルワンダ中央銀行総裁日記』は1972年刊行。同年の毎日出版文化賞の文学・芸術部門を受賞している。およそ、半世紀前。かなり昔に刊行された中公新書である。

2009年に新章が追加された「増補版」が登場し、2021年時点で13版まで売れているという人気の一冊である。NHKの記事によると累計14万部のロングセラーになっている。

ルワンダ中央銀行総裁日記 [増補版] (中公新書)

この本で得られること

  • 組織を生かすも殺すも、結局は「人」次第
  • 途上国支援の在り方について学ぶことが出来る

内容はこんな感じ

1965年。46歳の服部正也はアフリカ、ルワンダの中央銀行総裁に任命され現地へと赴く。世界最貧国。超赤字国家。旧態然とした組織。旧宗主国ベルギーによる外国人支配。最悪とも言える状況下で、服部は実績を積み重ね、六年の任期中にルワンダ経済再生への道を切り開く。退任後に起きた、ルワンダ動乱についての記事を追加した増補改訂版。

目次

本書の構成は以下の通り

  • まえがき
  • I 国際通貨基金からの誘い
  • II ヨーロッパと隣国と
  • III  経済の応急措置
  • IV 経済再建計画の答申
  • V 通貨改革実施の準備
  • VI 通貨改革の実施とその成果
  • VII 安定から発展へ
  • VIII ルワンダを去る
  • 増補1 ルワンダ動乱は正しく伝えられているか
  • 増補2 「現場の人」の開発援助哲学(大西義久)
  • 関係略年表

増補1、2は2009年の「増補版」で追加されたパートである。

なろう小説、異世界転生モノの主人公みたい

異世界に転生した主人公が、転生前の特殊スキルを元に、現地で無双しまくる。なろう小説系、異世界転生モノのフォーマットをなぞったかのような成功譚として、本書はネットで話題になっていた。

1960年代のルワンダに派遣され中央銀行の総裁に就任。やる気のない官僚。経済、金融の知識が皆無な閣僚たち。既得権の維持拡大しか考えていない旧宗主国勢力。およそ最悪とも言える状況の中で、筆者は日本銀行や、国際通貨基金時代に培った豊富な世界経済、金融に関する知識を元に大改革を実行。見事に結果を出し、現地の人々に愛され、惜しまれつつもルワンダを去る。

筆者は次々に現れる難題、抵抗勢力を、潤沢な経済、金融の経験知識を元に打開していくのである。この展開は確かに小気味が良い。望めば簡単に大統領に会えて、助力してもらえたり、「ハビさん」呼ばわりしていたちょっと頼りない同僚が、その後、大統領になってしまったりと、ふつうに日本で生きていたらありえない展開が次々に起こる。

自身による回想録の形を取っているので、さすがに本人に都合よく書かれ過ぎなのではないか?とも思える点もあるのだが、それでも本書の面白さは揺るがない。

戦前生まれのエリート

筆者の服部正也(はっとりまさや)は1914年生まれ。東京帝国大学法学部を出て海軍に入り、戦後は日本銀行に入行。アメリカ留学や、パリ他、世界各地での駐在を経験。国際通貨基金(IMF)に出向し、1964年に当時の世界最貧国であるアフリカ、ルワンダの中央銀行総裁に就任した人物。ルワンダには六年間滞在し、退職後は日銀に復職。その後、世界銀行に転じて、日本人初の副総裁にまで上りつめている。1999年没。

戦前生まれのバリバリのエリート層である。筆者の面白いところは、これだけのキャリアを持ちながら、生涯で途上国支援の仕事に関わり続けた点にあるだろう。

筆者の長所は、人種的偏見や、蔑視の念から出来る限り囚われまいとする点にある。現地人の怠惰さや、能力の低さに対しては手厳しいが、どうしてそうなったのか、どうすれば改善できるのかを考える。理性的な対話の可能性を常に模索している点には頭が下がる。

増補版で追記されたこと1「ルワンダ動乱」

ルワンダの名を世に知らしめたのは1990年代起きた虐殺事件である。

ルワンダでは旧支配層で人口の15%を占めるツチと、旧被支配層で人口の84%を占めるフツの階層対立が続いており、1994年のルワンダ虐殺では、50万人~100万人が犠牲になったとされている。この虐殺により、大量の難民が発生。日本の自衛隊が難民キャンプに救援派遣されたので、覚えておられる方も多い筈である。

オリジナルの『ルワンダ中央銀行総裁日記』は1965年~1971年までのルワンダしか描かれていない。「増補1」では、その後に発生した1980年代のルワンダ紛争、1990年代のルワンダ虐殺について筆者の見解が追記されている。

筆者はルワンダ駐在時、フツ系の大統領カイバンダに仕えているので、視点的にフツ寄りで、その後ツチ優位となった新しいルワンダ政権には良い印象を持っていないよう読めるかな。カイバンダ時代の弾圧についても触れていない。

増補版で追記されたこと2「服部正也はルワンダで何をしたのか」

「増補2」は、筆者の死後に書かれたものである。筆者の長女の夫であり、日本銀行の後輩でもあった大西義久が執筆を担当している。

大西は、服部正也のルワンダでの実績についてまとめてくれているので、この章は実質的に本書の「まとめ」として機能している。筆者の実績として挙げられているのは以下の二点。

  1. 二重為替制度の廃止。通貨改革を成功させる
  2. 物価統制の廃止と流通機構の整備

本書を概観する上でも良い「増補」だったのではないかと思われる。最初にこのパートを読んでから、全体を読み直した方が、実は理解が早いかもしれない。

発展を阻むのは人、発展の最大の要素となるのも人

本書で特に印象に残ったのは、旧版の最終章「VIII ルワンダを去る」の末尾にあるこの言葉である。

途上国の発展を阻む最大の生涯は人の問題であるが、その発展の最大の要素もまた人なのである。

『ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版』p298より

筆者はルワンダにおける人材育成の重要さを再三述べている。法律を変えて、経済の仕組みを整えても、それを動かす人材がいなければ国は変わらない。そして人材の育成は一朝一夕には進まない。長期的な展望が必要である。

これはルワンダ一国に限らず、全ての国や組織にもあてはまる普遍的な考え方だ。本書が時代を超えて長く読まれているのは、こうした点にもあるのだろう。

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