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水道民営化で世界の都市が舐めた辛酸 その1 ~アメリカ・アトランタ市の水道再公営化の経緯~

アメリカにおいて「公共サービス事業」 は、独占的な供給になりがちという事業特徴から、他の産業全般よりも政府の直接的管理下に置かれてきました。公共サービス事業体を管理する方法として、政府による事業体の所有、または、政府が指名した規制委員会が民間事業体の料金設定やサービスの内容を監督する、という形が取られています。
当初、アメリカの水道のほとんどは、民間が所有し運営していました。1800年以前にあった16の水道事業は、1つを除いてすべてが民間の所有であり、1870年でもアメリカ国内に244あった水道事業の52%が民間の所有でした。しかし、その後に地方自治体の権限と重要性が高まるにつれ、公営水道が劇的に増加。1896年には、アメリカの水道事業体の数は3,000を超え、その大半を自治体が所有し運営するようになっていきました。1924年には、水道事業の70%を自治体が所有、運営しています。
こうした背景の中にありながら、1980年代後半から世界的に水道事業の民営化が始まると、アメリカでも民営化が進んでいきました。しかし、2000年代に入ると民営化水道はさまざまな問題が起こり、水道事業を再び公営に戻す国が増えています。

ワールド・オブコカ・コーラ
アトランタ市といえばコカ・コーラ発祥の地。写真はワールド・オブ・コカコーラ(コカ・コーラ博物館)。そして2006年アトランタ五輪で有森裕子選手が2大会連続メダル獲得で「自分で自分を褒めてあげたい」と記憶に残したシティです。

アトランタ市の水道民営化で起こったこと

アメリアカのジョージア州アトランタ市は、1999年、ユナイテッド・ウォーター社[*注]と4億2,800万ドルの契約を締結しました。しかし、約束不履行や質の悪いインフラ事業、また、汚水事件などの問題を起こし、この契約をわずか4年で打ち切りました。
ユナイテッド・ウォーター社が水道を請け負うようになってから、雇用が大幅に削減、水道料金が17%も引き上げ、また、蛇口から茶色い水が出たとの苦情にも適切な対応が取られませんでした。その結果、いくつもの市民団体と公務員労組が連合を組み、この4億2,800万ドルの運営管理契約を破棄するよう市に圧力をかけたのです。
[*注]米企業だったユナイテッド・ウォーター社は2000年、フランスの水企業大手のスエズ社に12億米ドルで買収された。その後、アメリカの3大水道企業はすべてヨーロッパの大手水企業に買収されている。ヨーロッパの水企業は米国内で積極的に政治ロビー活動を展開。水ビジネスに関する献金額はそれ以前の3倍に膨れ上がったという。

アトランタ市バックヘッド地区では、2002年夏、水道水への混入物が大きな問題となりました。夏の間中、何百人もの住民が、水道の蛇口から茶色の水が出てくると苦情を訴えており、その水には目に見える固形物が混入していたということです。
1999年1月から水道の管理契約を請け負っているユナイテッド・ウォーター社は、この赤茶の泥水と錆びで汚染された水を、停電と老朽化した水道管のせいにし、水は単に汚く見えるだけで有害ではないと発表しました。
ユナイテッド・ウォーター社の広報担当者は、「多くの人が、茶色い水は民間企業のせいだと考えているが、問題は古い水道インフラにあり、企業のミスによるものではない」と主張。しかし、当時の市長フランクリン氏は、責任がユナイテッド・ウォーター社にあると非難し、6ヶ月間にわたって運営を綿密に精査、2003年1月に同社との契約を解消しました。
アトランタ市は、水道事業をふたたび市営に戻すことになりました。これは、8,200万ドルもの財政赤字を出した市にとって、財政的にも厳しい状況であったと思います。かつて市では、ユナイテッド・ウォーター社との契約によって、この財政問題が解決されると期待していたのです。しかし、市の委託調査の報告書の中で、フランクリン元市長は、ユナイテッド・ウォーター社が恒常的に職務に怠慢であったと批判。消火栓は交換されず、料金の請求は遅滞し、上下水道の維持管理もスケジュール通りに行なわれていませんでした。

無題アトランタ水道破裂
(水道管が破裂したアトランタ市の道路) 

契約当時の市長キャンベル氏は、年間2,080万ドルの契約料で20年に及ぶ水道契約をユナイテッド・ウォーター社と締結しました。複数の市会議員が長い契約期間に反対していましたが、この契約でユナイテッド・ウォーター社は市の上水道の運営権を手にしました。
2002年1月にフランクリン氏が市長に就任したときには、その契約の他に同社が行なった業務代金として、市が8,000万ドルを支払うべきかの論争がすでに始まっていました。ユナイテッド・ウォーター社は、この仕事が契約には含まれていないと主張。この支払いを求めて、契約当時の市長キャンベル氏と手紙で契約料を引き上げる合意をしたとしています。しかし、キャンベル氏はこれを正式に否定。後に、市の検事局は手紙の無効性を主張し、ユナイテッド・ウォーター社は賠償請求を取り下げました。
しかし、キャンベル氏の後任の市長フランクリン氏もまた、水道会社と深い関係を築いてきており、ユナイテッド・ウォーター社の競合他社の参入を後押ししていたといわれています。

 アトランタ都市圏には527万人(2010年国勢調査)が暮らし、10年間で116万人も増えています。2004年当時、都市計画を審議しているアトランタ地域委員会は、今後20年間で水需要は50%増加すると予測していました。深刻な水間題に直面するアトランタでは、水道管は100年以上前のもので老朽化が進み、地域の都市化に対応することができていません。アトランタはアメリカの中でも最も急成長している都市の1つです。水の85%以上が川や湖などの地表水を利用していますが、人口増によって過剰な取水が行なわれています。しかし、水源は限られています。水は公共のものという位置づけのもとで、利用者に説明ができる運営管理が求められる大切な事業なのです。

アトランタの状況から思うこと(私感 5つ)

*急激な都市化のインフラ整備の運営に企業が絡むと、利益の追求に走る。
*公共であるからこそ、できる市民サービスがある。その見極めをしっかりすべき。
*特に命の源である「水」の権利を握ることは、世の中を支配する事にも通じる。
*自治のしくみをしっかりと確立し、まちのことは自分たちで決めることが大事。
*水は当たり前にあるのではなく、自然の恵みであることを忘れてはいけない。

文まとめ 小山美香

そして日本では現在
「水道法の1部を改正する法律案」(平成30年3月9日提出)が、2018年6月29日より衆議院厚生労働委員会において審議が始まりました。この法案は水道事業の広域化と民営化を推し進めようする法改正です。民営化が本当に必要か? はなはだ疑問の多い法案です。
「水道法の1部を改正する法律案」の「概要」については厚労省のHPをご覧ください。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/196-16.pdf                    
2018・6・30 記


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Tokyo no Mizu

Author:Tokyo no Mizu
プロフィル

東京都は水道水のほぼ60%を利根川水系・荒川水系に依存しています。
つまり、自給率はほぼ40%。こんな自給率で異常気象や大地震が引き起こす
災害に備えることが出来るのでしょか。
私たちは大変に危うい水行政の元で暮らしています。
これまで東京の河川・地下水の保全と有効利用をめざしてきた市民グループ、
首都圏のダム問題に取り組んできた市民グループらが結束して、
「東京の水連絡会」を設立しました。
私たちは身近な水源を大切にし、都民のための水行政を東京都に求めると同時に、
私たちの力でより良い改革を実践していきます。
東京の水環境を良くしようと考えている皆さま、私たちと共に歩み始めましょう。
2016年9月24日。        
                   
      

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