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オタクによって生かされ、オタクによって殺される。黒字化施策が続けて不発に終わり、窮地に立たされるビリビリ

オタク向け動画共有サービス「ビリビリ」が窮地に立たされている。インストリーム広告、有料配信、縦型ショートムービーと収益化をねらった施策が、いずれも視聴者からの不評に合い不発に終わっているからだ。赤字幅は拡大する一方で、活路が見えてこないと黒馬公社が報じた。

 

上場後も黒字化を果たせないビリビリ

ビリビリは、初音ミクの動画を共有する場所として2009年に始まり、以後、ACG(アニメ、コミック、ゲーム)の動画を中心にして、オタク層から人気となった。しかし、ビリビリの大きな課題は黒字化だ。

ビリビリは営業収入を大きく伸ばしながら、米ナスダックと香港に上場以降、黒字になったことがない。しかも、営業収入を伸ばせばそれに比例して損失幅も増える状況が続いている。これはUGC(User Generated Contents)=投稿動画を中心にするサービスの宿命だ。動画の視聴数が伸び、それに伴う収益が増えれば増えるほど、配信主に対する分配も増えていくからだ。

▲ビリビリの営業収入。毎年順調に増えているように見える。

▲ビリビリの純利益。新たな施策に挑戦すればするほど赤字幅が増えていく。特に2021年はストーリーモードなどの開発を行ったため、赤字幅が大きく拡大をした。

 

TikTokのような縦型ショート動画を導入

そこで、ビリビリはストーリーモードという名称で、縦型ショートムービーを取り入れていった。YouTubeが縦型ショート動画を取り入れたのと同じように、TikTok化をした。ショートムービーは配信主の制作の手間が小さいために、大量のショートムービーが投稿される。そして、現状では多くの人が視聴をするために、収益効率が圧倒的に高い。

黒字化に手間取るビリビリがショートムービーを取り入れ、動画による収益を改善しようとするのは当然と言えば当然だ。しかし、視聴者から「日和見だ」「TikTokの真似とは情けない」という批判が相次いでいる。

 

オタクによって生かされ、オタクによって殺される

ビリビリは、「オタクによって生かされ、オタクによって殺される」と言われている。ビリビリのような稀有なコンセプトの動画共有サービスが13年も生き残っているのは、オタクたちの支持がなければありえないことだった。しかし、収益化の手段を講じると、それがオタクたちから批判を受け、収益化の目がつぶされるという事態も過去何度も起きている。

ビリビリは創業当時から、動画の間や前後に挟まれるインストリーム広告は導入しないと宣言をして、それは今でも続いている。動画の視聴が広告により妨げられることがなく、ユーザー体験は非常によく、これがビリビリの人気の理由のひとつになっている。

しかし、2016年に「Re:ゼロから始める異世界生活」などのアニメ番組を購入して放映した時に、トレイラー広告を再生前に表示したことがある。これは権利者からの要求に応えたもので、特別な対応だった。しかし、視聴者たちは「約束が違う」と騒ぎ出し、結局、ビリビリ運営はアニメ番組の放映を中止せざるを得なくなった。

 

有料配信にも批判が相次ぐ

昨2022年5月には、有料配信ビデオにも挑戦をしている。配信主「鉤手老大爺鄧肯」が、1本30元で「世界の10大未解決の謎」シリーズを配信したが、視聴者は大きく反発をした。すでに月25元の有料会員「大会員」制度がある。グッズを割引価格で買えたり、高解像度の動画が見られるというもので、無料会員に比べて料金分以上の特典があるとは言い難い。しかし、ビリビリの視聴者にとって大会員になるのは、ビリビリを支えているという自尊心を満足させてくれる。

それが有料ビデオを配信したことで、大会員もさらに料金を支払って有料ビデオを見なければならくなった。やりすぎだという批判が殺到をした。

 

ゲーム関連コンテンツも不発が続く

ビリビリは創業当初からゲームの売上が大きい。特に初期の頃には、ゲームがビリビリの収入を支えていた。ゲームの運営権を獲得し、そのゲーム関連の動画がビリビリに投稿されることで、ゲームのユーザーを増やし、同時にビリビリの収益も上がるという相乗効果があるからだ。

ビリビリは初めての自主開発ゲーム「機動戦姫:聚変」を公開したが、ゲーム配信サービスTapTapでのユーザー評価は5.9点で、iOS AppStoreでのランキングは600位から800位程度と低迷をしている。他のゲームの開発も進めているが、リリースされるまでにはまだまだ時間がかかる。

ビリビリはゲーム収入を補うため、日本でヒットをした「ウマ娘プリティーダービー」の中国運営権を獲得したが、国家新聞出版総局の審査待ちとなり、さらにゲーム規制により審査枠の絞り込みが行われているため、いつサービスを始められるか、いまだにめどが立っていない。

▲ビリビリは2017年頃はゲームによる収益が圧倒的に多かった。そこから企業とのコラボ動画、広告、ECなどの収入が増えてきたが、ゲームの収入がほとんど伸びていない。

 

中身の濃い動画こそ、ビリビリの中心コンテンツ

そこでStoryMode=縦ショートムービーを導入したが、視聴者は大きく反発をしている。ビリビリは内容が濃いものを配信すべきで、お手軽なショートムービーであれば何もビリビリがやらなくても、中国版TikTokの抖音や快手で見ればいいという考え方のようだ。

今年ビリビリで最も人気が出た動画は、「村に帰って3日、叔父が私の精神を癒してくれた」と題するものだ。ビリビリで再生回数が4600万回を超えているだけでなく、さまざまな動画共有サイトに転載をされた。

ある農村に住んでいる66歳の男性の物語で、幼い頃から天才少年と呼ばれ学業が頭抜けて優秀だったが、10代の頃に高熱を出して、足に障害が残ってしまった。そのため、高等教育を受けることができず、大工として暮らしてきた男性の話だ。外面的には農村の悲惨な人生の典型だが、この男性は村の困りごとを解決することで周囲から信頼され、意外にも幸せに暮らしている。そして、年老いた母親の面倒を見、2人の妹を嫁に出しただけでなく、捨てられた女の子を引き取り娘として育てている。なぜ、悲惨な人生の男性がここまで人に優しくでき、幸せそうにしていられるのか。人生の幸せとは何なのかを考えさせられる動画だ。

ビリビリとは、アニメやゲームの動画を楽しむ場所であり、科学技術解説や資格講座動画などで学ぶ場所であり、そしてこういう人を感動させる動画が生まれる場所である。そこに肌を露出した女の子が踊るだけのショートムービーなど不要だという声が相次いだ。

▲YouTubeに転載された「村に帰って3日、叔父が私の精神を癒してくれた」動画。足に障害があり、高等教育を受けることができず、大工として生きてきた天才少年の老後を描いている。惨めな生活をしているかと思いきや、人から信頼をされ幸せに暮らせしていた。厳しい人生を負わされたのになぜ人にここまで優しくできるのかということをテーマにした感動的な動画で、2022年で最も話題になったビリビリ投稿動画となった。


www.youtube.com

 

収益化施策が不発になり続けるビリビリ

まさに「オタクによって生かされ、オタクによって殺される」状況が続いている。しかし、いつまで経っても黒字化をしないばかりか、このTikTok化=Story Modeの導入により、赤字幅は2022年Q3に一気に20億元にまで拡大をした。投資家は「黒字化はいつになるのか?」という問いすらしなくなり、見切りをつけ始めているのではないかという観測もある。

ビリビリは黒字化の手段がひとつひとつ消えていき、いよいよ手詰まりになってきている。「オタクによって殺される」ことになりビリビリの経営危機が始まるのか、それとも「オタクがビリビリを救う」現象が起きて、見事な復活を遂げるのか。ビリビリに残された時間は確実に少なくなりつつある。

 

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